第157話 一方的な暴力
魔族の男が懐から小さな水晶を取り出した。
何の変哲もない水晶に見えるが、それを魔族が地面に打ち付けると、周囲に大量の魔力が満ちる。
「これは……」
魔力は徐々に集まってひとつの形を作った。
ハッキリと姿が具現化していき、やがてモンスターと化す。
巨大な翼を持つモンスターへ。
「ハハハ! ハハハハ! どうだ、これが俺の奥の手だ!」
「グルアアアアアア!!」
魔力が集まって生まれた一匹のモンスター——ドラゴンが咆哮する。
翼を広げ、威嚇するように僕を見下ろした。
「ドラゴン? 一体どこから……」
「ククク! あの水晶はモンスターを捕まえておくためのものだ。そして俺の特技はモンスターのテイムでな。飼いならしておいたコイツでお前をズタズタにしてやる!」
魔族がドラゴンに命令を出す。
命令の内容はシンプルだった。
「いけ、ドラゴン! あの男を殺せぇ!!」
「グルアアアアア!」
再びドラゴンが咆哮する。
地面を蹴って空を翔ると、凄まじい速度で僕のもとに迫った。
咄嗟に両腕を交差してガードする。
「ぐうぅっ!?」
ありえない衝撃が生まれた。
耐え切れずに吹き飛ばされる。
ただの突進が、レベル3000の僕を吹き飛ばすほどの威力を持っていた。
何度も地面をバウンドしながらどこかの壁に埋まる。
「ッ……腕が……」
今の攻撃で僕の腕が折れた。
少なくとも、鑑定しなくてもわかる。
目の前のドラゴンはレベル3000を超えていた。
これまでで一番の強敵だ。
「グルアアアアア!」
地面に着地したドラゴンが口元に魔力を溜める。
咄嗟に僕は横へ飛び退いた。
——ブレスが炸裂する。
先ほどまで僕が倒れていた場所が業火に包まれた。
あれを喰らっていたらまずかったな。
聖属性魔法スキルで腕の骨折を治す。
「よし、いける」
手を開閉させたり腕を振り回してみた。痛みも違和感もない。
「グルアアアアア!」
またしてもブレスが飛んでくる。
魔力の反応があるから回避自体は簡単だった。
地面を蹴りながら次々にブレスを避ける。
「ったく、面倒な相手を呼び出してくれたね……あれが暴走したらどうするつもりなんだ?」
あの男はテイマーみたいなことを言ってた。万が一にも暴走することはないだろうが、このドラゴンとの戦闘で王都が更地になりかねない。
ここは手加減してる暇はないね。
能力をさらに解放する。
「————第三封印解除」
体がさらに軽くなる。
今のレベルは5000。
久しぶりにここまで力を解放したものだ。
地面を蹴るだけでめり込み、巨大なクレーターを作る。
僕を追いかけるドラゴンのもとへ逆に接近した。
驚くドラゴンの顔を殴る。
たしかな手応えを感じた。
ドラゴンがはるか後方へ吹き飛んでいく。
「お座りの時間だぞ、そらっ!」
地面を跳ねながらも、翼によって体勢を整えようとするドラゴン。そんな竜の胴体を、次は思い切り蹴り飛ばす。
ドラゴンの体の骨がへし折れる。
盛大にドラゴンは叫び声を上げた。
「グルアアアアアア!?」
「があがあがあがあ、うるせぇよ!」
聖属性魔法スキル。
頭上に太陽のような巨大な球体が浮かび、そこから連続して光線が放たれる。
光はドラゴンの体を貫きながらダメージを与えた。
もはやほぼ一方的に蹂躙する。
しかし、ドラゴンはなかなか死ななかった。
さすがに、生態系の頂点に君臨してそうな顔してるだけあってタフだ。
体に穴が空いても、骨を折られてもぴんぴんしてる。
「まあ、死ぬまで攻撃すればいいんだけどね」
さらに殴りつける。蹴る。
魔法で傷つけ、ドラゴンを一方的に追い詰めた。
ドラゴンは何もできない。
ひたすら防御と回避に専念するが、それすら今の僕には無意味。
すぐに目の前に現れては暴力を振るう。その繰り返しだ。
「——そろそろ……沈め!」
そこに心臓があるのかわからないが、左胸を狙って拳を突き出した。
皮膚を突き破って拳が刺さる。
衝撃がドラゴンを襲い、大量の血が噴き出す。
「……うん? 感触的に心臓には手が届いてないのか? それともドラゴンの心臓は逆にあるとか?」
ひとまず拳を引き抜く——前に、拳から聖属性魔法を放った。
大きな穴があく。
ドラゴンの体が派手に吹き飛び、血と肉片を周囲に撒き散らした。
さんざん殴りまくって遠くへ飛ばした甲斐があったな。
こんなものを王都中に撒き散らしてたら大惨事だ。
王都を救うはずの僕が、一番の被害を出してしまう。
「グル、アアアア……」
とうとうドラゴンの息の根が止まる。
あれだけ派手に動き回っていたやつも、こうまでダメージを喰らうと再生すらできない。
重力に従って地面に落ちる。そのままぴくりとも動かずに転がった。
魔力の反応もほとんどない。確実にドラゴンを殺した。
「ふう……ちょっと時間がかかったけど、これであとは……」
王都のほうへ視線を戻す。
まだ動けていないであろう魔族のもとへと向かった。
———————————
あとがき。
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