第156話 優先順位

「貴様……! どうして俺が魔族だと気付いた!」


 ぱらぱらと壁を壊しながら立ち上がる男。


 じろりと赤い瞳が僕を睨む。


「どうしても何も、鑑定スキルで見れば一発だろ」


「鑑定スキルだと!? 今の攻撃といい、お前のレベルは俺を超えているというのか!?」


「だとしたどうする? 逃げる? もちろん逃がさないけどね」


「クッ……! ディラン以外にもこんな障害がいたとは……」


 男は苦悶の表情を浮かべる。


 片やもうひとりの大柄な男は、腕を失ってほとんど戦闘能力はない。


 そう言えば、奴らの仲間にもうひとり女がいるって聞いたような——。


「——倒す。それ以外にない」


 後ろから女性の声がした。


 ちらりと見ると、僕の背後に小さな少女が。


 拳を突き出して僕を殴る。


 パァンッ!


 少女の拳が僕の手のひらにぶつかった。


 甲高い音が響く。


「君も奴らの仲間か……悪いけど敵なら容赦しないよ?」


「それはこちらも同じこと」


「ッ」


 いつの間にか、今度は正面から魔族の男が僕のもとへやってきていた。


 黒いオーラをまとって僕を殴る。


 それを横にかわして飛び退いた。


「三対一か。やれやれ……」


「卑怯とは言うまいな。挑んできたのはお前だぞ?」


「卑怯ではあるだろ。なに言ってんの?」


「ぬかせ!」


 魔族と少女が同時に床を蹴る。


 左右から挟みこむようにして僕のもとへ迫った。


 二人とも近接攻撃を繰り出す。


 四方八方から拳が降り注いだ。


 それを僕はガードと回避で防いでいく。


 今の僕のレベルが3000くらいだから、二人が同時でも問題ない。


 片やレベル500未満。片やレベル2000未満。


 その程度で僕に勝つことはできない。


 魔族を殴り飛ばし、聖属性魔法を少女に当てる。


 男と同じように体を貫通すると思われた一撃は、わずかに軌道を逸らされ弾かれた。


 ——魔法を弾く?


 彼女、なかなか面白いスキルを持っているな。


 だが、格上の魔法を弾くにはレベルが足らなかった。


 防御に使用した手が吹き飛ぶ。


 血が飛び散って彼女もまた後ろへ飛んだ。


「おらぁ!」


 その隙に、入れ替わるように大柄な男が武器を投擲する。


 もちろんそれはキャッチして投げ返した。男に刺さる。


「ぐあああああ!」


 男はダウンする。


 これで残り二人かな?


 治癒系のスキルがなきゃ、実質女のほうもリタイアだろうが。


「ぐ、ぅ……クソッ! いてぇ! なんなんだ、お前は!?」


「正義の味方だよ。お前らこそなんなんだ。いきなり王国に攻め込んできやがって。さっさと死ぬか消えろよ」


 お前らのせいでいろいろ予定が狂って面倒なんだよ。


 アウリエルも哀しむし、最悪だ。


 手をポキパキと鳴らしながら、残った魔族のもとへ近付く。


 次は確実に倒す。聖属性魔法をぶち込んで終わりだ。


「クソ! クソクソ! せっかくここまできたというのに、今さら逃げられるものかああああ!」


 男はがむしゃらに攻撃を仕掛ける。


 スキルでもない攻撃に僕がやられることはなかった。


 受け止め、反撃とばかりに聖属性魔法を撃ち込む。


 ヒット。


 黄金色の光に包まれて魔族が遠くへ吹き飛んだ。


 ちらりと背後を確認すると、手を吹き飛ばされた少女が、包帯で自らの手を覆っていた。


 その瞳に宿る闘争心に一点の曇りもない。


 どうやらまだ戦うみたいだ。


「お前はそこにいろ。余計な真似をしたら殺すよ」


 釘をさしておく。


 両手を失ったいまの彼女には、蹴り技くらいしかできない。


 が、それで負けるほど僕は甘くない。


「——あとは任せろ、マーリン」


「ディランさん。動いても平気なんですか?」


 血だらけのディランが少女の背後に立つ。


 傷が深そうに見えるが平気なのか?


 ディランは俺の問いに対してにやりと笑った。


「はは! ちょっと油断したが、このくらいなら問題ねぇよ。すぐに治る」


「治りませんよ……アウリエル、ディランさんの治療を頼む。あの魔族を殺したら……すぐに陛下を蘇らせてあげるからさ」


「マーリン様……」


 涙でグチャグチャに顔を汚したアウリエルを見る。


 彼女の内心はもう悲惨なものだった。気持ちはよくわかる。


 明らかに国王陛下は死んでいた。助からない。


 それでも僕には希望がある。


 あれだけ取得できるスキルがあったんだ、誰かを蘇生させるためのスキルだってあるはず。


 そしてあの魔族は逃がさない。そのために優先順位を決める。


 アウリエルはきっと僕の行動に理解を示してくれる。


 僕は視線を外して前方に走った。


 吹き飛ばされた男のもとへ行くと、男の体は半分ほどが消し飛んでいた。


 その状態でも動けるのは、魔族の強い生命力ゆえか。




「まるで虫だな。もう動けそうにない」


 聖属性魔法スキルを発動する。


 すると魔族は、懐から小さな水晶を取り出した。


「まだ……まだだ。俺は、まだ——負けちゃいない!」


 水晶を地面に打ちつける。


 ガラスが砕け散り、凄まじい魔力が生まれた。




———————————

あとがき。


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