第155話 最悪の展開

 アウリエルと共に、襲撃されていると思われる王宮を目指す。


 正門を抜けて彼女を抱き上げると、二人分の重さを感じさせない動きで跳躍。


 ぶち抜かれた壁から謁見の間に入る。


 するとそこには……。


「ディランさん!」


 血まみれながらも立つディランの姿を見つけた。


 その前に二人の男性がいる。


「ま、マーリン? お前、来てくれたのか……」


「酷い怪我じゃありませんか。何が……」


 アウリエルを床に下ろし、担いでいた男も捨てる。


「ん? ほう……そいつを倒したのか。おまけに人を二人も担いで飛んでくるってことはぁ、相当な高レベルじゃねぇか? アイツ」


 ディランの前に立つ男の一人が、僕を見てにやりと凶悪な笑みを浮かべた。


 その隣に立つもう一人の男がこくりと頷いた。


「そのようだな。ここにきて強者の参戦とは面倒な……すでに国王は殺したのだ、わざわざ相手をする必要もない」


「まあまあ、そう言うなよ。ここでディランたちを殺しておけば、今後もっと動きやすくなるぜ? どうぜ国を乗っ取るなら、な」


「……それもまた真理か」


 男たちは僕たちを前にしても淡々と会話をしていた。


 しかし、その内容にアウリエルは声を震わせる。


「陛下を……殺した?」


 その視線が謁見の間の中を彷徨う。


 すぐに彼女の視線は一箇所に吸い込まれた。


 玉座のそばに倒れる父の姿に。


「——お父様!」


 アウリエルは慌てて陛下のもとへ駆け寄る。


 陛下はぴくりとも動かない。


「ディランさん……これは……」


「すまねぇ。俺も必死に守ってはいたんだが……守れなかった。俺が不甲斐ないばっかりに……!」


 ぎゅっとディランが拳を強く握る。


 陛下のそばでは、アウリエルが涙を流していた。


 ——なんだこれは。なんなんだこれは。


 状況があまりにも最悪すぎて僕の頭が混乱する。


 その間にも、敵と思われる男たちが会話をしていた。


「己に失望する必要はないぞ、ディラン。お前はよく頑張った。俺が強すぎただけだ。まさかここまで時間を稼がれるとは思わなかった。俺が人間を褒めることはほとんどない。その上で、手放しで褒めてやる。お前はよく頑張った」


「まあ、その上で殺すがな。お前は今後の王国に必要ない。覚悟しろよ、ディラン。てめぇに受けた傷を倍にして返してやるぜ!」


 へへへ、と笑いながら男たちはディランへ迫る。


 わずかに慎重なのは、ディランがまだ余力を残しているからか。


 しかし、僕は許せなかった。


 ディランを、陛下を、何より——アウリエルを傷つけるあいつらが。


「——? なんだ、お前。俺たちとやろうって言うのか? せっかく逃げるチャンスを与えてやったのに」


 すっとディランの前に立つ。


 男たちの前に立ちふさがった。


「ま、マーリン……せめて王女を連れて逃げろ! 他の王女はすでに逃げている! アウリエル殿下を……」


「大丈夫ですよ、ディランさん。こいつらは俺が倒します。早く倒して、陛下をなんとかしないと」


「マーリン……?」


 僕のまとう雰囲気がいつもと違うことにディランは気づいただろう。


 怪訝な声が聞こえた。


「ハハハ! これは傑作だ。俺たちを相手に勝てるつもりでいるらしい。見せてやろうぜ、俺たちが最強だってことを!」


「……ああ。そうだな」


 冷静な男のほうが剣を構える。


 ——速かった。


 一瞬にして距離を詰めて剣を振る。


 その狙いは僕の首元だ。


 僕は刃が届く前に呟いていた。戦闘開始の合図を。


「——第二封印、解除」


 キィィィッン……。


 男が振り下ろした刃が止まる。


 僕の首の前で、完全に停止した。


 僕が指で刃をつまんだからだ。


 片手の、それも指で止められ、男が始めて目を見開く。


「なっ……俺の攻撃を、片手で——」


 言葉は続かなかった。


 僕の拳が男の顔面を殴りつける。


 勢いよく男は地面をバウンドしながら入り口のほうへぶつかり、扉を破壊してさらに奥へ飛んでいった。


 それを見たもう一人の男が、あんぐりと口を開く。


「なっ……なっ!?」


「次はお前だ。覚悟しろ」


「くぅっ!?」


 慌てて男は剣を抜く。


 ——そのときには、すでに男の手首はなかった。


 聖属性魔法スキル。


 光による高熱が、男の腕を焼き切る。


 今の僕のレベルなら簡単に男を無力化できた。


「ぎゃああああああ!? お、俺の手があああああ!?」


 男が発狂する。


 倒れるより先に首を掴んだ。


 軽々と持ち上げる。


「うるさいよ。僕の質問にだけ答えてほしいな」


 なおも叫ぶ男の首を絞めた。


 すると声は無理やり止まる。


「まず、君たちの仲間の情報を吐いてもらおうか。あと、なんで君たちの仲間に——魔族がいるのかな?」


 そう。先ほど僕が殴り飛ばしたあの男。


 殴る前に鑑定しておいたが、なんと——前に戦ったあのクソ野郎と同じ魔族だった。


 親しそうにしていたからこの男は何かを知っている。


 それを無理やり吐かせようとした。

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