第154話 くだらない動機

 スキルで周囲を爆破させていた少年を倒した。


 するとそこへ、仲間と思われる謎の不審者が現れる。


 不審者は隙を見せた途端に僕を殺そうとした。


 それを防ぎ、逆に男を無力化する。


「いいタイミングで現れてくれたな。さっきの子供はやっちゃったけど、お前には情報を吐いてもらう。大丈夫。治癒は得意なんだ。簡単には死ねないよ」


 無力化した男に封印スキルを発動。


 男のステータスを大幅に下げてから縄で縛る。


 見たとこ暗殺者タイプって感じの能力値だ。スキル構成もそれに近い。


 それら全てを封印された現状では、もはや僕どころかアウリエルからも逃げられないだろう。


 男を抱えながら急いでアウリエルと共に王宮へ向かった。




 ——え? 男から情報を取らないのか?


 今ここで拷問まがいのことを行っても時間の無駄だ。


 それならさっさと王宮へ行って拷問しながら状況の確認をしたほうがいい。


 そういうわけでなおも僕たちは走る。


 遠くでは住民たちの悲鳴がなおも聞こえた——。




 ▼




「……王族の暗殺?」


 道中、望みは薄いと思いながらも男に訊ねる。


 すると男は拷問されたくなかったのか、ペラペラと自分たちの目的を話した。


 それによると、彼らの第一目標は「王族の暗殺」。


 僕の読みが当たった。


「ああ……俺たちは王族に恨みのある連中が集まった組織さ。だから王族を殺すことにした。そのための準備を整えてきた」


「そんな……どうしてそう短絡的な答えしか出せなかったのですか!」


 アウリエルは憤る。


 しかし担がれた男は鼻で彼女を笑った。


「ふんっ。蝶よ花よと育てられたお前にはわかるまい。見捨てられた者たちの気持ちが」


「それってただの逆恨みじゃない? どうせ何もしてくれなかった王族に鉄槌を! 救いのない者たちに俺たちが手を差し伸べるんだ! とか言うんでしょ?」


「ッ……!」


 図星だった。


 男は僕の言葉を聞いて黙ってしまう。


 そういうのは面倒だから他の質問をぶつける。


「でも意外だね。君たちのレベルは決して低くない。僕が相手じゃなかったらいい線いってたかも」


 さっきの少年もそうだが、この男もレベル200以上はあった。


 その割にスキルの数は少なかったが、恐らくそこに秘密があるのだろう。


「どうやってあそこまで強くなったの? 生半可な覚悟じゃ無理だよね」


「……俺たちには、救いの手が差し伸べられた」


「救いの手?」


 酷く抽象的な表現だ。


 僕はさらに訊ねる。


「どういうことだい。誰か立派な師匠でもいたの?」


「師ではない。あの方は我らに戦うための力を授けてくれた。こうしてレベルを上げることができたのは、全てあの方のおかげだ」


「あの方、ね。誰なのか、どういう人物なのか教えてくれない?」


「それは無理だな。他のことなら何でも話してやるが、あの方のことは話せない。あの方だけは裏切れない」


「ふーん……今更強情な奴だね」


 ぺらぺら喋っておいて何を。


 しかし、その忠誠心の高さだけは伝わってきた。


 たとえ拷問されても吐かないぞって感じだ。


「そもそも、あの方のことを話したところでお前らにはどうしようもない。たしかに恐ろしく強かったが、あの方とリーダーが力を合わせれば確実に殺せる。あのディランでさえ、我々の敵ではないのだ!」


「ディランさんを想定した強さか……思ったより手が込んでるね」


「どうしますか、マーリン様」


 おそるおそる後ろからアウリエルが訊ねる。


 答えは決まっていた。


「ひとまず王宮へ行くよ。コイツの話が嘘だろうと本当だろうと、王族の安否を確認するのが優先だ。アウリエルだって心配だろう?」


「マーリン様……」


「くくく! 自ら死地に飛び込むと言うのか? 今頃そこにはリーダーとあの方がいるはずだ」


「うるさいよ。別になんだっていいだろ。そのあの方とやらもリーダーとやらも僕が潰す。ディランさんに潰されてなければ、の話だけどね」


 きっと今頃はディランが王宮にいるはずだ。


 もともとタイミングはよかった。


 アウリエルが王宮にディランを呼んですぐにこの騒動が起きている。


 あの人なら十分に王族を守れるだろう。


 そう思って僕はただ真っ直ぐに走った。


 そろそろ王宮が近い。


 もう目と鼻の先だった。


「くくく……無意味な希望だ。全ては無意味に終わる。誰もあの方に勝てるはずがない。あの方の強さはまさに別格だ……」


 そろそろ男がうるさくなってきたので、無理やり気絶させる。


 するとそのタイミングで、正面奥のほうで盛大な爆発音みたいなものが聞こえた。


 見ると、王宮の壁がぶち抜かれている。


 それを見たアウリエルが悲鳴のような声を漏らす。


「あ、あそこは……陛下の、お父様がいる謁見の間!?」


 その言葉が状況の最悪さを物語っていた。


 嫌な予感がした僕は、さらに速度を速めて王宮を目指す。

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