第153話 暗殺者

 アウリエルと王宮を目指して走る。


 その最中、前方で大きな爆発が起こった。


 ちょうど通り道だったため、気になった僕たちはそのまま直進していく。


 しばらくして、倒れる騎士と高笑いする少年が見えた。


 状況は大きな声で話す少年の言動からわかる。


 僕の中で怒りの感情がせり上がった。


 どうして……どいつもコイツも……。


 ふつふつと沸いた激情を胸に、僕たちは少年の前に立つ。


「……お前、何してるんだ?」


 開口一番に少年に訊ねる。


 少年は僕の様子に気圧されていた。額から大粒の汗が滲んでいる。


 現在、僕のレベルは1000。


 相手のレベルを鑑定で確認したところ、300とちょっとだった。


 まだ僕より若いのになんて高レベルだ。


 セニヨンの町にいるヴィヴィアンと肩を並べるほど。


 しかし、それに反してスキルの数が少ない。


 ヴィヴィアンの半分かそれ以下だ。


 もしかすると特殊な方法でレベルを上げているのかもしれない。


 だが、そんなことはどうでもよかった。


 今は一秒でも早く少年が返答するのを待つ。


 ややあって少年は口を開いた。


「ぼ……僕は、ただ……目立ちたかっただけなんだ。ほ、褒められたい——」


「そうか。ならもういいよ」


 少年の言葉を途中で遮る。


 あまりにもくだらない理由に理性が弾けた。


 地面を蹴って少年に肉薄する。


 一瞬にして目の前に現れた僕に、少年は目を見開いた。


 けれど反応しきれない。


 たかがレベル300では、レベル1000の僕には敵わない。


 拳を握り締めて少年を殴る。


 腹部にクリーンヒットした。


「おげぇっ!?」


 汚い声を漏らして少年が吹き飛んでいく。


 背後にあった建物を貫通、そのままもう一軒先の家にめり込んだ。


 周囲に人がいないことは探知済みだ。


 恐らく少年がぼこすか爆発させまくった影響だろう。


 すでに人は死んでいるか逃げている。


 ここでも遠慮する必要はなかった。


 ——とはいえ、少年に対しては手加減した。たぶん、まだ生きている。


「後のことは騎士の皆さんに任せますね。あの子供はもう戦えないと思うので。何かあったら上空にサインでも送ってください。すぐに駆けつけます。——っと、その前に」


 アウリエルと再び王宮へ向かおうとした僕は、急遽足を止めて進路を変更する。


 近くに倒れていた騎士の男性のもとへ。


「結構重症だな……けど、これくらいなら治せる」


 騎士の男性に触れて聖属性魔法の治癒を行った。


 みるみる内に男性の怪我が治る。


 意識があった男性は、僕を見上げて呟いた。


「か……神様、か? 神が、俺を……」


「違いますよ~」


 適当に言い訳を並べて立ち上がる。


 これでもう騎士の男性は大丈夫だ。後のことは残った仲間たちに任せる。


 かなり強めにぶん殴ったから、あの少年はしばらく起きないし、目が覚めても痛みに苦しむだろう。


 念のため、殴った瞬間に封印スキルを施しておいた。


 今の少年は周りにいる騎士たちより弱くなっている。


 僕はそのことを脳内でもう一度確認すると、アウリエルを連れて王宮のほうへと走り出す。




 ——そのとき。


「ッ」


 背後から気配がした。


 ほんの一瞬だが、それで十分。


 アウリエルの手を掴んで屈む。


 僕の頭上を恐らくナイフと思われる武器が通過した。


 風を切る音が遅れて聞こえる。


「誰だお前」


 僕の後ろには、謎の暗殺者がいた。


 全身黒い服を着ている。まさに暗殺者ですって感じの装い。


 急に現れやがって……気配消してたな?


 攻撃をする一瞬は気配が漏れる。


 それを察知してなんとか奇襲を防いだ。


 恐らく攻撃を受けたところで傷ひとつつかないだろうが、念には念を。


 すぐに後ろへ下がって男との距離を離す。


「まさか俺の一撃をかわすとは……最も油断していた瞬間だったはずなのに」


「殺気を殺しながら攻撃できたら完璧だったな。それでも僕には通用しないけど」


 狙うほうを間違えている。


 完璧に気配を殺してなお、アウリエルを狙うべきだった。


 そうなってても問題はなかったがな。


「失敗。しょうがない。ここは一度退いて——」


「逃がすわけねぇだろ?」


 この手のタイプは攻撃が失敗するとすぐ逃げる。


 その判断してすでに動いていた。


 男との距離を潰す。


 拳を握り——締めないでそのまま男を掴んだ。


 柔道の要領で男を投げ飛ばす。


 死んだら困るので力を調整して威力を弱めた。


 あとは腕を掴んだまま男に詰め寄る。


「カハッ!?」


 男は背中に衝撃を受けて悶絶。


 ぴくぴくと体を震わせながら苦しんでいた。


 しかし、かなり力を抜いたおかげでまだ意識があった。


 セーフセーフ。


 コイツに死なれたら情報が抜けないところだった。


「いいタイミングで現れてくれたな。さっきの子供はやっちゃったけど、お前には情報を吐いてもらう。大丈夫。治癒は得意なんだ。簡単には死ねないよ」


 にっこりと笑って男に封印スキルを施し、縄で縛り上げていくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る