第152話 爆弾魔
死体を操る謎のネクロマンサーの女性を倒した。
アイテムボックスから縄を出して彼女を縛る。
「うーん……邪魔だし、ここに置いていく?」
縛り終えた彼女を見下ろして僕はやや乱暴な提案を出した。
アウリエルが、
「わたくしが運びましょう。彼女ひとりくらいなら余裕です!」
と言って本当に犯罪者の女性を担いだ。
レベルが上がったおかげか、外見からは想像もできない膂力である。
「おお、凄いねアウリエル」
「あ、あんまり見ないでくださいね? ちょっと恥ずかしいです……」
「恥ずかしい……?」
一体なにを恥ずかしがっているのだろうか?
僕はおおいに気になったが、そういうのは詮索しちゃいけない。
モテる男は華麗にスルーしてあげるものだ。
「とりあえず先を目指そうか。いよいよもって王宮のほうが心配だ」
「そうですね。彼女たちの目的が王族なら……今頃はきっと……」
「大丈夫だよ、アウリエル。僕がなんとかするから」
「マーリン様……」
不安そうに声を漏らす彼女へ、何の根拠もない言葉をかける。
アウリエルは今すぐ王宮へ戻りたい気分だろう。
僕の安っぽい言葉では安心できないはずだ。
それでも冷静でいてくれる。
迷惑をかけないように努めている。
なら、僕は彼女の憂いを断ってあげないと。
最悪の場合、僕はなんでもやるよ。
それこそ禁忌に手を出してでもね。
「さあ、行くよアウリエル。置いてかれないようにね」
「はい!」
再びアウリエルと共に王宮へ向かって走り出す。
すると、正面奥のほうで大きな爆発が起こった。
これまでにない規模の爆発だ。
ちょうど通り道の先だったので、すごく嫌な予感がする……。
▼
「あは! あはは! すごいすごい。よく頑張ってるねぇ、君たち。普通ならさっきの爆発で死んでるところだよ~?」
けらけらと陽気な声で笑う少年がひとり、道のど真ん中に立っていた。
少年は両腕を広げて楽しんでいる。
何がそんなに楽しいのか、周りにいる騎士たちは理解できない。
男はひたすらに街と住民たちに絶望を与えている。
すでに死んだ者も近くには転がっていた。
「爆弾……いや、爆発系の魔法を使っているのか! この外道め!」
「えー? それって僕に言ってるの? 酷くない? 僕はただ人間らしくこの街に、この世界に復讐してるだけだよ~」
「復讐だと? これが? お前に皆が何をした!」
少年の言動に騎士のひとりが憤る。
しかし、少年の態度は変わらない。
相変わらず楽しそうに笑っていた。
「何をした? そんなの決まってるじゃん。世界が僕に惨めな思いをさせた。僕はただただ幸せに生きるべき人間なのに、みんな僕を認めてくれない。だから壊すんだ。少しは痛みを知れば、僕の偉大さがわかるだろう?」
「そ、そんな……そんなことのために人を殺したのか? 何の関係もない住民たちを、こんなにも!?」
「いやいやいや! 関係ない人間なんていないよ。人は生きていれば誰もが世界や他人に迷惑をかけている。誰が犠牲になったって、どこで誰が死んだって同じだよ。あはは」
「コイツッ……コイツだけは、殺さねば!」
騎士は理解した。
目の前の、子供のフリをした悪魔は殺さねばならぬと。
あれは外道で化け物だ。生かしておけば多くの人が苦しむ。
剣を握り締めて、男は真っ直ぐに少年のもとへ突っ込む。
その姿を視界に収めた少年は、くいっと右手を動かした。
直後、
「ぐああああああ!?」
男の足元が爆発する。
すでに魔力を仕込んでいたのだ。
爆発に巻き込まれて騎士は大きなダメージを負った。
幸いにも即死は免れたが、火傷と衝撃で瀕死になっている。
「残念でした~。もうこの辺り一帯は僕の魔法の効果範囲内。どう頑張っても君たちに僕は殺せないよ。近付くことすら不可能だね」
クツクツと少年は喉を鳴らす。
倒れ、呻く男を見下ろしてどこまでも楽しそうだった。
しかし、騎士も負けない。
「お前、ら……いけ! 奴は、魔法使いだ! スキルを使うなら、いずれ……魔力が切れる! そこを、狙うんだ!」
仲間の騎士たちにすべてを託す。
自分はもう長くはないと悟っている人間の強い言葉だった。
同僚や部下たちが決死の覚悟を抱く。
「あーあーあー。白けるなぁ……そういうの。どう頑張っても君たちは僕の魔力が切れるまでもたないでしょ。諦めて死になよ。つか殺————ッ!?」
ぴたっ。
地面に横たわる男へトドメを刺そうとした少年。
けれどその動きが途中で止まる。
不穏な気配がした。
視線が騎士たちのほうへ。さらに奥へと向けられる。
道の奥から、二人の男女が姿を見せた。
片方の男に、少年は恐ろしいほどの畏怖を感じる。
ごくごく自然に体が震えた。本能がまずいと警告を鳴らす。
ガタガタと少年が怯えている間にも男は近付いてきた。
そして少年に向けて口を開く。
「……お前、何してるんだ?」
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