第151話 目的

 襲撃された王都。


 急いでアウリエルと共に王宮へ向かうと、その途中で怪しい女性と出会う。


 ゾンビに囲まれた女性だ。


 前に下水道で遭遇したゾンビを操っていたのも彼女か?


 聖属性魔法スキルでゾンビを薙ぎ倒しながら進もうとすると、急に彼女の魔力放出量が上昇した。


 女の影が伸びる。


「本当はこんなに早く解放するつもりはなかったんだけどねぇ? あなたたち強そうだから、特別に見せてあげる。私のお気に入り」


 そう言うと彼女の影から二メートルを超えるモンスターが姿を見せた。


 顔を包帯でぐるぐる巻きにした見るからに化け物ですよって感じの奴。


「あれもゾンビかな?」


「わ、わかりません……体に損傷がほとんど見られないので、恐らくゾンビではないかと思いますが……」


 アウリエルの言うとおりゾンビにしては身奇麗だった。


 しかし、ゾンビと同じようにおよそ知能があるとは思えない呻き声を漏らしている。


「ふふ、この子のことが気になる? ある意味でゾンビのようなものよ? 死体を使って私のスキルで合成した特別製のモンスター。ただのゾンビとは違うけどね」


 彼女が言い終えるのと同時にモンスターが地面を蹴った。


 すごい速さで俺の間合いに入ってくる。


 ——魔法だと間に合わない。


 咄嗟に振り上げた相手の拳を受け止める。


 凄まじい衝撃が体を伝って地面を砕く。


「グルオオオオオオオオオオ!!」


「うるさい——なっ!」


 相手は僕より膂力が上なわけではなかった。


 受け止めた拳をそのままに、今度は僕が相手を殴る。


 衝撃を受けて謎のモンスターは後方へ吹き飛んだ。


「なっ!? 私のお気に入りをあんな簡単に……どういうことよ! あれはディランのために用意した玩具だったのに!」


「ディランさんのために?」


 コイツの目的はディランか?


 いや、そうだとしたら冒険者ギルドに向かってるはず。


 つまり……。


「ディランさんがやってくることを考慮した上で王都を襲撃した? 何のために?」


 考えろ、僕。


 動機は恐らく単純だ。


 ディランが妨害するってことはそれだけ厄介なこと。


 王都を襲撃したのもそれに起因しているだろう。ってことは……。


「——やっぱり、お前らの目的は王族か」


「ッ。賢い子はお姉さん好きだけど、さすがに感がよすぎる気がするなぁ」


 怪しい女が始めて動揺を見せた。


 ビンゴだ。


 王族を襲うために街中で騒動を起こし、駆けつけるであろうディランを抑える。


 彼女とその仲間の障害になるのは、この街でも最強クラスのディランだけだろうからな。


「グオオオオオ!」


「チッ。まだ動けるのか」


 レベル500の状態で本気で殴ったのに、あの巨人は起き上がって雄叫びを上げていた。


 よく見ると殴った箇所の傷が再生している。


 かなり丈夫だし厄介だな……。


「あのモンスターも死霊系でしょうね。だとしたら……」


「聖属性魔法スキルで殺したほうが早いか」


「恐らくは」


「OK。手段さえわかれば問題ない。ちょっと乱暴になるけど無理やり押し通るよ、アウリエル」


 僕は腰を下ろして呟いた。


 もう時間をかけている暇はない。


「————第一封印解除。レベル1000」


 スキル『封印』の第一封印を解除した。


 レベルが倍の1000まで跳ね上がる。


「ぐるっ……ぐ!?」


「な、なに? 急に震えが……」


 こちらに向かって来ようとしていたモンスターと女性の動きが止まる。


 僕の力量をなんとなく把握したのだろう。


 ガタガタと小刻みに体を震わせていた。


「ここから先は手加減できない。たぶん、殺すと思うけど恨まないでくれ。——いや、恨んでもいいけど殺す」


 聖属性魔法スキルを発動する。


「!」


 モンスターが浄化の光を見た途端に動き出した。


 そんなに嫌いなのか、僕との距離を詰める。


 拳を振り上げて全力で殴りつけた。


 先ほどより威力が上がっている。


 ——しかし。


「軽い」


 それを僕は片手で受け止めた。


 地面がまたしても砕け散るが、もはや何の衝撃も僕は感じない。


 そのまま驚くモンスターの足を素手で叩いてへし折る。


 簡単にモンスターの足は折れた。


 これで機動力を封じた。攻撃は確実に当たる。


 モンスターの再生が始まる前に、僕の聖属性魔法スキルが巨人の体を貫いた。


「グアアアアアアアア!!」


 断末魔の叫びがあがる。


 浄化の光を浴びてモンスターは体を留められない。


 再生すら行われず、肉体を崩壊させて倒れる。


「わ、私のお気に入りが……」


「次はお前だ」


「ちょ、ちょっと待っ——」


「遅い」


 一足で相手の懐に入る。


 言葉の途中、女の腹部を殴りつけた。


 一応手加減はしたが、凄まじい威力を発揮して女は吹き飛んでいった。


 盛大に血を吐きながら燃えている家に突っ込む。


 そこには誰も人がいないことは探知スキルで把握済みだ。


 地面に転がり気絶した女を見下ろすと、さっさとアイテムボックスから縄を取り出して縛り上げる。


 コイツをアイテムボックスに入れられたら楽なのに……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る