第150話 ネクロマンサー

 急に外から爆発音が聞こえてきた。


 窓から外を見ると、なぜか王都の街中で煙と炎が舞っている。


 隣に並んだアウリエルが絶句した。


「ど……どうして王都が燃えているんですか!?」


「賊か? 国家転覆なんて大それたこと考える奴がいるなんて……いやそれより」


 僕は急いで部屋を出た。


 真っ直ぐ玄関を通って外に出る。


 すると遠くから、住民たちの悲鳴やなおも爆発音が響き渡っていた。


「これは……酷いな」


 完全にテロリストの仕業だ。じゃなきゃこんなことにはならない。


 遅れてやってきたアウリエルの表情に、不安や恐怖が浮かぶ。


 「また自分が狙われているのか」と疑問が書いてあった。


「どうしましょう、マーリン様……こんな状態では、まず何をすればいいのか……」


「落ち着いてアウリエル。大事なのは友人や知人、家族の安否だ。この場合、真っ先に気にするのは——」


「お父様たち!」


「その通り。わざわざアウリエルを狙わずこんな大それたことをしたってことは、犯人の目的は国を壊すことか、あるいは国王陛下への反逆」


「つまり……」


「狙われているのは、国王陛下や王族全員である可能性が高い」


 個人を狙うならこんな大袈裟に騒ぐ必要はない。


 暗殺という方法が一番手っ取り早いし逃げやすい。


 それでも騒動を起こしたということは、国自体に恨みがあるのか、混乱に乗じて多くの人間を殺すつもりなのか。


 そこに王族が巻き込まれる可能性は極めて高かった。


「わ、わたくしは急いで王宮に戻らないと! わたくしがいれば少しは皆を安心させられます!」


 聖属性魔法が使えるアウリエルがいればたしかに心強い。


 僕は頷いて答えた。


「そうだね。ひとまず僕とアウリエルが一緒に行動しよう。まだ君が狙われていない確証はないし」


「いいんですか、マーリン様?」


「寂しいこと言わないでくれ。僕は君を守りたい」


 今更こんなところで見捨てるほどの仲じゃない。絶対に守ってみせる。


「マーリン様……」


「そういうわけだからソフィアたちは屋敷で待機しててくれ。エアリーとノイズに護衛を任せる」


「わたくしの護衛もこちらに置いていきますわ。少しでも戦力の足しにしてください」


「僕を信用しすぎじゃない?」


「マーリン様より強い方はいませんので」


 ようやく調子が戻ってきたのか、アウリエルは笑みを浮かべてそう言った。


 ソフィアたちも僕の指示に従い屋敷に戻る。


 急いで僕とアウリエルは家を出て王宮に向かった。




 ▼




「……酷い」


 街中を一緒に走りながら、ふとアウリエルが小さく呟く。


 それは街の光景だ。


 そこかしこで爆弾が爆発しているのか、多くの建物が吹き飛ばされている。


 炎がいくつもあがり、煙で満たされていた。


 最悪だ。あまりにも惨い惨状に僕も表情を歪める。


「一体誰がこんなことを……」


「該当する犯罪組織が多すぎますね。王家を恨んでいる者は多くいますから」


「どうせくだらない理由だろ? やめてほしいよね、こういうのは」


「まったくですね。しかし……ここまでのことができる組織となると、該当するのは……」


 アウリエルが答えを探して思考を巡らせる。


 その最中、街中にありえないものが姿を見せた。


 道の奥からわらわらとこちらにやってくる。人間でありながら醜く腐ったモンスターが。


「ッ! またゾンビが街中に……!」


「今回の件と無関係とは思えないね。とりあえず倒しながら進もう。アウリエルにもお願いしていいかな?」


「お任せください。全力で討伐します!」


 僕とアウリエルは眼前に並んだゾンビたちを聖属性魔法スキルで討伐していく。


 ゾンビは弱い。アウリエルでも簡単に倒すことができた。


 そのまま道を突っ切って奥に見える王宮へ急いだ。


 すると、道中、やたらゾンビが集まっている場所が見える。


 そこには露出の激しい服を着た女性が立っていた。


 僕たちに気づくと相手は微笑む。


 同時に僕たちは足を止めた。


 ゾンビたちの中心で笑みを浮かべる女性が、まともであるはずがない。


「誰だ、おまえ」


「あら。なんて美しい。あなたこそ誰かしら? こんなイケメン、私の記憶に残っていないはずがないのに……ふふ」


「質問に答えないなら敵と断定して押し通る」


「せっかちね。隣にいるのは第四王女様じゃない。探す手間が省けたわ。本当は私の担当じゃないけど、ちょうどいいから殺しましょう。いきなさい、私の下僕たち。男は殺しちゃだめよ~」


 女の命令を受けてゾンビが動きだす。


 やはりあの女は敵か。


 ゾンビに命令を出しているあたり、その手の能力を持っていると思われる。


 だったら容赦しない。アイツはここで——殺す。


「聖属性魔法スキル」


 光を周囲に浮かべ、小さな光線として撃ちだす。


 光線は次々にゾンビたちを貫き、浄化しながら女性のもとへ届く。


 しかし、女性は軽やかな動きで俺の攻撃をよけた。


 相当なレベルの持ち主だと一発でわかる。


「あら~……あなたも聖属性魔法スキル持ってるのね? 厄介だわ」


 くすりと女は笑って——急激に魔力を放出した。

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