第149話 王都炎上

 王宮へ帰ったアウリエルが、翌日、屋敷に戻ってくる。


 彼女がもたらした情報は、僕たちにとってあまりよいものではなかった。


「ディランさんと同等の敵が所属する犯罪者集団か……」


「不安になりますよね。相手の目的は恐らく国家の転覆」


「国家の転覆? 過去に何かあったの?」


「いえ、そこまではわたくしも教えてもらえませんでした。かなり内密なお話かと」


「なるほどねぇ……国がらみの問題か、ただの私怨か」


「どちらにせよ、まだ確証はありません。今は何も対策ができる状態ではないかと」


 アウリエルが話を一旦閉じる。


 僕はひとつだけ話を終わらせる前に聞いておきたかったことがあった。


 アウリエルに訊ねる。


「ちなみにその犯罪者集団の名前みたいなものは?」


「ありませんね。少なくともわたくしは聞いたことがありません」


「ただの烏合の衆なのかな?」


 それとも名前を決める必要性を感じていないガチ勢かのどちらか。


 きな臭くなってきたものだ。


「とりあえず、しばらくはアウリエルのひとり外出は禁止だね。王族なら狙われる可能性もあるし」


「元からわたくしはマーリン様と一緒に外へ出ます。問題ありませんね」


「別に女性だけで外に出てもいいんだよ?」


「心配しませんか?」


「……し、ないかな」


「隠せていませんよ、マーリン様」


 残念ながら僕の女々しい内心はすぐにアウリエルに読まれてしまった。


 本当は心配する。


 彼女は少し前に命を狙われたばかりだからね。


「それでいうと私たちも単独行動は危険ですね。常に複数で動いたほうがいいかと」


「私たちも? なんで、お姉ちゃん」


 エアリーの言葉にソフィアが首を傾げた。


「万が一、相手の狙いがアウリエル殿下だったとしたら、その知り合いでもある私たちが狙われてもおかしくないでしょう?」


「おー、なるほど~」


 ノイズがうんうんと頷いていた。


 本当に理解したんだよね?


「たしかにお姉ちゃんの言うとおりですね……今後はマーリン様が付きっきりで行動したほうがいいかもしれません」


「うん。僕がみんなを守るよ」


 もちろん僕ひとりでは守りきれない場合もある。


 それでも彼女たちの不安を消し去るためににっこりと笑みを浮かべた。


 ソフィアたちも笑顔になる。


「こんな状況ですが、マーリン様に守ってもらえると思うと……か、下腹部が……」


「エアリー、ストップ」


 君は妹の前で何を言うつもりかな?


 時間帯を考えなさい時間帯を。


 いや夜でもダメだけど。


 アウリエルと並ぶ変態性を持つエアリーに僕は頭を抱えた。


「ふふ。でしたら今日は屋敷の中で大人しくしていましょうか。皆さんも一日観光しましたし、少しくらい暇になっても構わないでしょう?」


「私は問題ありません」


「私も」


「ノイズも平気ですよ~。この屋敷の庭は広いので、十分に運動ができます!」


「私は……料理の練習がしたいのでもともと室内のほうが助かります」


 エアリー、ソフィア、ノイズ、カメリアの順番に答えた。


 全員一致で問題ないらしい。


 僕もアウリエルももちろん大丈夫だ。これだけ人もいるし、屋敷にはたくさん本もある。


 時間を潰す方法はいくらでもあった。


「ではマーリン様、わたくしとお話でもしましょうか」


「いいよ。何を話すの?」


「そうですね……マーリン様にも興味を持ってもらうため、先ほど話した犯罪者たちの話を少しだけ深堀りしましょう」


「まだ何か情報が?」


「ええ。その犯罪者集団は合計五人。男性三人に女性二人で構成されているらしいです」


「ふんふん」


 男女比はよくあるグループのそれだ。


 そこには別段なにかあるわけじゃない。


「調べた結果、気配を隠すのが異常に上手い男性がひとり。若い少年がひとり。背丈の大きな男性がひとり。不気味な女性がひとり。そして……ディランと引き分けた女性がひとり。その女は武術を嗜んでいるとか」


「あんまり情報はないんだね」


「はい。どうやら彼らは戦闘自体を避ける傾向にあるらしいです。あとは暗殺された者が多く、情報はほとんど出回っていません。謎が多いですね」


「ディランさんは何て?」


「ディランはまだ冒険者ランクが1になる前に戦ったため、ほとんど殴りあっただけで終わったとか。いま戦えば確実に俺が勝つ! と言ってましたよ」


「すごい自信だね」


 でも情報をくれ情報を。


 ディランの意気込みとか誰も聞いてないから。


 同じことを思ったのか、くすりとアウリエルが苦笑する。


「ディランには困ったものです。戦うことしか頭にない。そんなんだから相手に逃げられ——」




 言葉の途中、遠くから音が聞こえた。


 かすかな音だ。


 ぴくりと僕とアウリエルは同時に窓の外を見た。


 それから数秒後。


 またしても音が鳴る。


 今度は近かった。大きな音として認識する。


 というか——近くで爆発騒ぎが起きた。


「なっ……!? お、王都が……燃えている!?」


 そこかしこで爆弾が爆発でもしてるのか、炎と煙があがっている。


 ソファから立ち上がった僕らは、窓を開いて外へ出た。


 遠くからたくさんの悲鳴が聞こえてくる——。




———————————

あとがき。


近況ノートにて重大発表が⁉︎

よかったら見てくださいね!

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