第147話 嫌な推測
ミーちゃんを探しにやってきた少女を守るために、僕たちはゾンビを生み出したと思われる術者を無視して下水道の外へ出た。
すると、下水道を出た瞬間にディランと鉢合わせする。
ディランは呆けた表情のまま呟いた。
「お前ら……そんな所で何をしてるんだ?」
「ディランさん? ディランこそ何を……僕たちは彼女の依頼でちょっと猫探しをしてました」
ちらりと視線を腕の中の少女へ落とす。
「猫探しぃ? あんなに強いくせになんでそんな地味な依頼を」
「依頼に地味も派手もありませんよ。等しく大切なことです」
「そりゃあそうだけど……いやそんなことより、そこの下水道は危険だからあんまり近づくな。いくらお前でも何が起こるかわからんぞ」
ディランは急に険しい表情を作った。
睨むように下水道の入り口を見ている。
「下水道で何かあったんですか?」
「いんや何も。だが、今はパトロール中でな。昨日話しただろ? 最近、この街で行方不明者が続出してるって」
「聞きましたね。その調査ですか」
「おうよ。怪しい所はいろいろと歩き回っているんだ。そしたら偶然お前らを見つけたってわけ」
「なるほど。それなら正解を引いたかもしれませんね」
「なに?」
空気ががらりと変わった。
ディラン以外にも近くにいた衛兵らしき男性たちが僕に視線を飛ばす。
腕の中にいた少女がやや驚いた声を漏らした。
僕はキッと周りの男性たちを睨む。
「あんまり見ないでください。彼女が怖がります」
「おおっ、すまねぇな。ちょっと気になる情報を聞いて。続きを言ってもらっていいかい?」
「先ほど、この下水道の奥でゾンビと遭遇しました」
「ゾンビだと!? どうして街中にゾンビが!」
くわっ!
結局ディランは強面なのでどう頑張っても怖かった。
少女の視線を片手で遮る。
「僕とアウリ……彼女は、死霊系のスキルによる仕業だと考えています」
「スキル? そういやそんなスキルがあったな」
「昔ディランさんも見たことがあるんでしょう? そのスキルは遠隔でも発動しますか?」
「さあな。そこまでは俺も知らん。前は近くにスキルの保有者がいたからくびり殺してやったぜ。あとでクソ怒られたがな! ガハハ!」
何をやってるんだこの脳みそ筋肉は……。
しかしそうなると時間は刻一刻を急ぐ。
僕は下水道のほうへ視線を飛ばし、
「ならすぐに向かってください。下水道の中にスキルの持ち主がいる可能性があります」
「安心しろ。調査する段階で逃がさないよう各地の入り口は封鎖している。こんな悠長に話してるんだ、それくらいの余裕はあるぜ」
「そうでしたか。ではあとはディランさんに任せますね。ゾンビはすでに倒してあります。聖属性魔法で倒したので死体は残ってますよ」
「おうよ! サンキューなマーリン!」
ぶんぶん手を振るディランにぺこりと頭を下げてその場から離れる。
僕たちはまず少女を家に届けないと。
それでやっと依頼は終わる。
「マーリン様」
「ん? どうしたの、アウリエル」
隣に並んだアウリエルが歩きながら声をかけてきた。
「わたくし、まだ気になることがあります」
「というと?」
「今回の件、タイミングがあまりにもよすぎると思いませんか?」
「タイミング?」
「はい。ディランが下水道の調査にやってくる前に現れたゾンビたち。わたくしたちが倒しましたが、ひょっとするとあのゾンビは……」
アウリエルが言わんとする言葉の意味を理解した。
「あのゾンビは、本当はディランさんたちに仕向けられたモンスターだった?」
「可能性はあるかと」
「でもそうなるとおかしいね。あんな雑魚じゃディランさんに怪我ひとつ負わせることはできない。むしろディランさんに怪しい人たちが暗躍してますよ、と伝えるようなものだ」
「ですね。仮にゾンビたちが行方不明になった人たちだとしたら、今回の件はディランを釣るだけの無意味な行動にも思えます」
「ディランさんを釣る……」
妙に引っかかる言葉だ。
もしかして、もしかするのか?
念のため、頭の片隅に浮かんだ想像を口にする。
「もしかして……敵の目的はディランさんを釣ること?」
「ディランを? 彼はランク1冒険者ですよ? 王国でも最強の人間です。誰がそんな危険な真似を……」
「そこまではわからないけど、何かしら勝算があるのだとしたら? この世界にはスキルなんて代物があるくらいだからね」
「ディランを打倒する手段……その果てには、一体何が?」
「個人的な恨みか、ディランさんがいると行動に移せない計画でもあるのか」
どちらにせよ、わかるのはそこまでだ。
あのディランが簡単に負けるとは思えないが、なんとなく嫌な予感がした。
この王都の中で、不穏な影がちらついている。
その影は果たして、僕たちにも牙を剥いてくるのか。
注意は必要だなと思った。
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