第146話 事件の香り

 ミーちゃんを探して少女たちと共に下水道へ足を踏み入れた僕たち。


 ミーちゃんは無事に見つかったけど、なぜか急に僕の探知スキルに複数の魔力反応が映った。


 まるで突如としてそこに現れたかのような。


 しかも暗闇から姿を見せたのは……腐った人間のようなモンスター。


「あれは……ゾンビ!?」


 そう、それ。


 エアリーが呟いた名前に僕は覚えがあった。


 前世でもホラー映画と言えば真っ先にゾンビが思い浮かぶくらい有名な存在だ。


 腐った死体。動く死体。死霊。


 彼ら彼女らを例える言葉は多々あれど、もっと単純に形容できる言葉があった。


 化け物。


 ゾンビはまぎれもないモンスターだ。


 作品ごとにその特徴は異なる。


 中には走ったり特殊な能力を持ったゾンビもいる。


 今回は普通のゾンビだった。


 呻き声を発しながらよろよろとゆっくり近づいてくる。


 何かしらの遠距離攻撃をしてくるでもない。本当にただ真っ直ぐこちらに向かってきていた。


「エアリーはあのゾンビに詳しい? どういうモンスターか教えてくれないかな」


「えっと、ゾンビは死霊系に属するモンスターですね。一説によると、モンスターの魂が乗り移った死体が新たなモンスター化することで生まれるとかなんとか」


「それはまた……怖い話だ」


「ええ。ですがゾンビは肉体能力に大きな欠陥を持っています。正直、強いか弱いかで言うとめちゃくちゃ弱いですね」


「いい情報だ。弱点は?」


 なんとなく察しはつくが一応聞いておく。


「聖属性、あるいは火属性に弱いと聞いてます。あと太陽も苦手で、ゾンビは日中活動ができないそうです。朝になれば勝手に動きを止めるとか」


「へぇ……やっぱり僕が知ってるゾンビと同じだね」


 それなら討伐は簡単だった。


 離れた位置からも臭ってくるほどの体臭だ。正直、遠距離攻撃ができてよかった。


 僕は聖属性魔法スキルを発動して次々にゾンビを焼いていく。


 元・人間? そんなこと僕は気にしない。


 あれはただのモンスターだ。生前が善人だろうと悪人だろうと容赦しない。


 そもそもの疑問もあるしね。


「しかし、どうして王都の街中にゾンビが?」


 アウリエルが誰もが気になっている疑問を口にした。


「そこに行き着くよね」


「はい。普通、ゾンビは近くにモンスターがいる外じゃないと生まれない個体です。人里にはモンスターなんていませんから」


「そうなると、王都にもモンスターがいるってことになるのかな?」


「あとは……スキルによる人為的な発生」


「スキル?」


 いわゆる死霊術ってやつかな?


 アウリエルが真顔になってるあたりかなり答えに近い気がする。


「あるんですよ、スキルの中にも。死体を利用してモンスターを作るものが。人間ではありませんが、エアリーさんが持つ反魂術のようなものですね。わたくしは他に見たことありませんが、ディランから聞いたことがあります」


「ディランさんはなんて?」


「そのときは犯罪者が使用したらしく、ものすごく怒ってました。死者を冒涜するなんて最悪のスキルだ! と」


「同意するね」


「わたくしもです」


「けど、それが今回の件に関係あるのかな?」


 僕は首を傾げる。


 偶然という線も捨て切れない。


「偶然と言えばそうなんですが、いくらなんでもゾンビの数が多すぎるかと。それに、先ほど言ったように街中でゾンビは現れません。モンスターがいませんから」


「たしかに……自然に生まれたというより、人為的に発生したと見るほうが納得できるね」


 それに。


「それに、実はこのゾンビたちは急に現れたんだ」


「急に?」


「うん。探知系のスキルを使ってたら反応が急にね。どう思う?」


 僕はアウリエルが言うゾンビを作り出すスキルのことは知らない。


 アウリエルのほうがこの場合は察しがつくだろう。


「急に探知スキルに反応が……それは妙ですね」


「何か思い当たる節が?」


「はい。先ほど言ったゾンビを作るスキルは、仮初の魂を死体に与える能力らしいです。なので、急にゾンビが現れるという現象に該当するかと」


「つまり、偶然にもゾンビを生み出した、あるいは動かした瞬間に僕たちと遭遇したってこと?」


「可能性は高いかと」


「ってことは……」


 まさか。


「この近くにその術者がいたりなんてことは?」


「ッ!? そ、その可能性もありますね……遠隔によるスキルの発動が可能かは知りませんが」


「……いや、やめておこう。ここは変に刺激しないで帰るべきだ」


「わたくしもその意見に賛成ですわ。ここには彼女もいますからね」


 ちらりとアウリエルが背後を見る。そこにはミーちゃんを抱きしめる少女の姿があった。


 僕たちだけならともかく、相手の人数もわからないのに捜索を強行するのは危険すぎる。


 気にはなったが、僕たちは大人しくその場から引き上げることにした。




 少女を連れて外へ。


 すると、下水道から出たところでディランと鉢合わせる。


 ディランはいきなり出てきた僕たちを見て、呆けた表情のまま言った。




「お前ら……そんな所で何をしてるんだ?」




———————————

あとがき。


近況ノートを書きましたー!

よかったら読んでください!

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