第145話 発見
迷子になった黒猫ミーちゃんを探すために少女を連れて歩き出す。
まずは近場の猫から探し始めた。
しかし、当然のことながら……、
「うーん……あの猫は白色だね。向こうは茶色っと」
簡単に黒猫は見つからなかった。
一度同じ色の猫を見つけたが、すでにその子は他の人のペットだった。
体型もややふくよかで、少女曰く「ぜんぜん違う」らしい。
そうして探すこと数時間。
すっかり昼を越えて一緒に昼食を摂りながら、なおも街中を歩き続ける。
相手は猫だ。
子供や大人が立ち入ることのできない細道にいる場合もある。そのせいで余計に時間がかかった。
気付けば夕方にさしかかり、かなりのペースで王都の中を歩き回った。
ある意味観光になったね。
そろそろ見つけないと外が暗くなってくる。暗くなると黒猫のミーちゃんを見つけられる可能性はグッと低くなるだろう。
少女の顔にも不安が滲む。
そろそろ黒猫のミーちゃんよ出て来い! と祈っていると、
「——あ! 見つけた!」
たまたま二匹の猫が近くにいる川沿いの道を歩いていたら、一匹の黒猫を見つける。
びしっと僕が指で場所を示すと、交代で僕が抱き抱えていた少女が喜びの表情を浮かべた。
視線は真っ直ぐに黒猫のもとに向かっている。
「ミーちゃんだ! あれ、ミーちゃんだよ! 私があげた首輪がある!」
「や、やっとかぁ……さすがにちょっと疲れたね」
全員の顔に同じ喜びの表情が浮かぶ。
かれこれ半日は歩き回っていた。おかげで戦ってもいないのにクタクタだ。
魔力反応も覚えたし、ここからあの猫のもとまで行くのも簡単だ。
川沿いにいるから猫を驚かせないようゆっくりと猫のもとへ向かう。
少女を地面に降ろしてあげると、
「ミーちゃん!」
と大きな声を上げながら猫のもとへ駆けていった。
しかし、
「え」
ミーちゃんはなぜか下水道のほうへ素早い動きで入っていく。
「しまった!」
慌てて僕たちも走ってミーちゃんを追いかける。
探知魔法を使ってミーちゃんの居場所を調べると、ぐんぐんすごい速度で奥へ向かっている。
「どんどん奥にいってるね……正直、下水道の中には入りたくないけど、そんなこと言ってる場合でもないか」
やれやれとため息を吐きながら少女を抱き上げてミーちゃんのあとに続く。
下水道の中は当然ながら電気など通っていない。真っ暗闇だ。
アウリエルが聖属性魔法スキルで明かりを出してくれる。
すでに視界の中にミーちゃんの姿はない。相手は黒猫だ、闇の中で見つけるのは困難と言える。
だが、僕には探知スキルがあった。
生き物なら誰しもが持つ魔力を探知しながら先に進む。
「結構広いね……さすがは王都の下水道」
「王都全域の汚水などがここを経由していきますからね。前に一度、浄化のお手伝いで来たことがあります」
「汚水は浄化してるの?」
「はい。聖属性魔法スキルを持つ者が使える特殊なアイテムがありまして、それを用いて浄化しております」
「へぇ……さすがだね」
僕の言葉の意味を誰も知らない。
それは前世との比較だ。
前世の地球では、というか日本では汚水などを浄化するシステムがあった。技術が。
しかしその技術がないこの世界では、魔法やスキル、アイテムを用いて清らかな水に変えているらしい。
そこはさすが異世界だと思った。
「——っと、ここら辺にミーちゃんはいるはずだよ。魔力の反応だと……お」
ちょうど探知魔法に引っかかった黒猫が、こちら目掛けてやってくる。
ずいぶん下水道の奥深くまで入り込んだものだ。
片道何十分も歩かされたよ、また。
次第にアウリエルが照らす光の中にミーちゃんが現れる。
その瞬間、僕にだき抱えられていた少女が笑顔を見せた。
場所が場所なだけにあまり褒められた行為ではないが、少女を下ろしてあげる。
感動の再開だ。
抱きしめあう二人に、僕は聖属性魔法の浄化を発動。汚れなどを消滅させた。
「よかったぁ……! よかったよ、ミーちゃん!」
「みー! みゃーみゃー」
ミーちゃんこと黒猫は、少女の腕の中で独特な声を発する。
主人に心配をかけたくせに、普通に嬉しそうな顔を浮かべていた。
「これで依頼は達成だね。帰る頃には外も暗くなってるかな? すぐに地上へ戻ろう。彼女の親御さんも心配してるだろうし」
「そうですね。今日はなかなか面白い冒険でした。まさか下水道にまで足を運ぶことになるとは……」
くすくす、とアウリエルは笑う。
ぜんぜん笑えないと思いながらも僕やエアリー、ソフィアまで苦笑した。
なんだかんだ終わってみると面白い体験だったね。
そう思って彼女に近づくと、ふいに、近くで音がした。
「? なんだいまの……」
気になって探知魔法を使う。
先ほどまでミーちゃん以外には誰も……。
「ん? 急に反応が——」
探知魔法に複数の魔力反応が引っかかった。まるで急に魔法が発動、ないし魔力が現れたかのような反応だ。
ちらりと反応があったほうへ視線を向けると……。
「ウア……アァ!」
「ひっ!」
少女の前に見るも無残な人間が現れた。
人間の形を保ちながら、ところどころ皮膚が削げたり腐ったりしている。
まるで前世で見たことのある——、
「あれは……ゾンビ!?」
そう、それ。
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