第144話 猫探しスタート
ソフィア、エアリーたちと屋敷を出た僕とアウリエルは、途中の噴水広場で泣いている少女を見つけた。
話しかけてみると、
「み、ミーが! ミーがいなくなったの!」
「……ミー?」
どうやら迷子の猫がいるらしい。
詳しく女の子から話を聞いてみる。
「その、ミー? ちゃんがどうしたのかな?」
「さっきまで一緒だったんだけど……少し目を離した隙にいなくなってて……どうしよう! ミーが死んじゃったら……!」
少女はぽたぽたと大粒の雫を流す。
あわあわと焦る僕とは裏腹に、さすがにエアリーは子供の相手が上手い。
小さな頭を撫でながら言った。
「そうなんですね。可哀想に。任せてください。お姉ちゃんたちは冒険者です。困ってる人の力になりますよ」
「……冒、険者?」
「はい。どんな頼みでも聞き入れる便利な人たちのことです。本当は依頼料が必要になりますが……タダでいいですよ。特別です」
にっこりとエアリーが笑う。
女の子もエアリーの言葉を聞いて少しだけ落ち着きを取り戻した。
「あ、ありがとう……お姉ちゃん」
「いえいえ」
恐らくソフィアを彼女に重ねているのだろう。ソフィア自身も「お姉ちゃんはしょうがないなぁ」と小さく呟いて笑っている。
僕もつられてくすりと笑った。
するとエアリーの視線がこちらに向けられる。どこか申し訳なさそうな表情で彼女は言った。
「すみません、マーリン様。この子の猫探しですが……」
「いいよ。冒険者らしい仕事じゃないか。幸いにも僕には探知系のスキルがあるからそんなに時間もかからないと思う」
「! ありがとうございます、マーリン様! よかったね、あのお兄さんがミーちゃんを探してくれるって」
すぐにエアリーがニコニコ笑顔で少女に伝える。
少女は僕の顔を見つめた。
フードから除く薄暗い表情では彼女の警戒心を強めるだろう。
周りの視線を気にしながら僕はフードを取った。
「どこまで力になれるかはわからないけど、僕たちに任せてほしい。いいかな?」
「…………」
「あれ? もしもーし?」
急に女の子の様子が変わった。ぴくりとも動かない。
顔が真っ赤でぱくぱくと口を開閉させている。
首を傾げると、背後からアウリエルが僕のフードを下ろす。再び被せられた。
「あ、アウリエル?」
「マーリン様の素顔は少々子供には刺激が強すぎるかと。一度見せれば十分でしょう」
「僕ってどういう存在なわけ?」
歩く公然わいせつだったりしないよね?
アウリエルの口ぶりに若干の不安を感じた。しかし、フードが下りたことで少女もなんとか言葉を捻り出す。
「す、すっごいカッコイイ……! 初めて見た!」
「素敵なお兄さんでしょう? あの方が協力してくれますよ」
「ありがとうございます! カッコイイお兄さん!」
エアリーが少女の背中を後押しする。
カッコイイお兄さん……なるほどそういうことか。
意外とこの顔は、信者以外にもモテるのかな?
そんなことを思いながらもフードの内側でにっこりと笑みを作った。
「はい、よろしくね」
そう言って早速、探知系スキルを発動する。
いまの僕のレベルでもかなり広域の探知ができる。
それによると、猫と思われる小さな反応は……。
「——ッ!?」
「マーリン様? どうかしましたか?」
アウリエルが僕の変化にいち早く気づいた。
だらだらと汗が出る。
「そ、それが……案の定というか考えてみればわかるよねって問題が……」
「問題?」
「う、うん……この街に相当な数の猫がいるっぽい」
「あ」
アウリエルもそのことを忘れていた。
少し考えれば普通にわかる。どの街にも猫を飼ってる人はいるだろうし、野良猫だってたくさんいる。
その中から、少女のミーちゃんとやらを探さなきゃいけないんだが……結構しんどいぞ、これ。
「どうやら、手当たり次第に探さないといけないみたいだね。ちょっと時間かかりそう」
「し、仕方ありませんね……あはは」
アウリエルも同じ結論に至って苦笑する。
唯一、状況の深刻さがわかっていない少女は首を傾げていた。
彼女のためにも頑張らないと。
「ちなみに、ミーちゃんってどういう見た目をしてるのかな」
「えっと……黒い猫だよ! 大きさは普通!」
「そっか~、黒色の猫かー」
残念ながら探知スキルでは形はわかっても色まではわからない。
やっぱり地道に探すしか方法はないね。
エアリーが女の子を抱っこし、全員でまずは近くの猫のもとへと向かった。
ここから長い長い一日になるとは……誰も想像すらしていなかった。
否。
想像はしていたが、想像以上に大変だったと言っておこう。
まさか猫探しからあんなものを見つけるとは……。
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