第141話 確信犯
一人で楽しくお風呂タイムを満喫していた僕。
そんな僕の前に、複数の人影が現れる。脱衣所から聞こえてきた声に、激しく心臓が高鳴った。
「こ、この声は……ソフィアたちか!?」
なんで僕が入ってるのにもう脱衣所に!?
勘違いしたのかな? でも服は置いてあるし、入浴中の札もかけてあったはず。
そもそも最初に僕に風呂を勧めたのはあの五人だ。
それはつまり……。
「は、謀ったな……アウリエル!」
確実の今回の件を企んだ犯人がいる。
五人全員が協力してるあたり、五人全員が犯人と言えるが、その中でもこんな考えを思いつきそうな人物にひとりだけ心当たりがあった。
アウリエルだ。間違いない。彼女が他のメンバーたちを唆したとしか思えない。
そして残りの四人は僕の恋人でもある。そりゃあ唆されるよね! ちくしょう!
浴室に逃げ場はない。
あっちこっちに視線を彷徨わせるが、残念ながら僕の味方になってくれそうな物は何もなかった。
焦っているあいだにも彼女たちが服を脱ぎ、脱衣所へ続く扉を開けて入ってくる。
「マーリン様! お背中を流しにきましたわ!」
「あ、ああ、アウリエル殿下! 前! 前を隠して!」
「————!?」
服を脱いでやってきたアウリエルたち五人の女性。
ソフィアやエアリー、カメリアの三人はしっかり白いタオルを巻いていた。そのことにホッとするが、ぐいぐいと前に出たアウリエルとノイズの二人は……真っ裸だった。
タオルも何もない。隠すものなど何もないのだ! と言わんばかりに生まれたままの姿を晒す。
「な、なんでみんながここに……!」
慌てて僕は浴槽の奥まで逃げた。というかとっくに背中は流し終えたよ! 遅いよ来るのが!
「ふふふ。わたくしが皆さんに提案しました。マーリン様と一緒にお風呂に入りたくないか、と」
やっぱりお前が原因かアウリエル!
あまりにも潔いから怒るに怒れない。
「そしたら皆さん乗ってきてくれたので、全員でマーリン様を襲うことにしました! 一緒にお風呂に入りたかったのは本音ですよ?」
「いやいやいや! 普通は混浴とかしないから! 裸とか見せ合ったりしないから!」
「何を! わたくしはマーリン様にだけ見せたいのです! 他の殿方に見られたら殺します。処刑です! そしてわたくしの裸を見たことがあるのはマーリン様だけです!」
「その発言に悪意を感じるのは僕が捻くれているからかい? それとも確信犯かな?」
「確信犯ですわね。これでもう、わたくしの責任から逃げられませんわよ」
「酷いゴリ押しだ……」
こんなのただの脅迫である。
しかしアウリエルは、僕が自分に惚れていることを加味して実行に移したのだろう。
事実、僕はアウリエルの裸を見たことに罪悪感など抱いていない。むしろ、激しく興奮していた。
奥手な僕の背中を無理やり彼女は押してくれたのだ。本当にいい女だよ。
「あの、その……ごめんなさい、マーリン様。私、マーリン様と一緒にお風呂に入りたくて……」
ソフィアがおずおずと恥ずかしそうに視線を逸らしながらそう言った。
その仕草がさらに僕の熱量を上げる。
「私はひとり取り残されるのが嫌だったのでついてきました。マーリン様とイチャイチャしたいです!」
エアリーは相変わらずだね。
「ノイズはマーリン様と水浴びです! 尻尾を撫でてください!」
「お湯だよ、ここ」
あと君もタオルくらい巻きなさい。野生すぎる。
「わ、私は……えっと、なんていうか……唆されて、乗っかりました、はい……」
「あはは……まあ、僕が言うことじゃないかもしれないけど、気持ちは理解できるから。とりあえず体を洗っておいで、カメリア」
彼女もまたソフィアと同じく恥ずかしそうだった。それでもここまで来たのは、それだけ僕を想ってくれている証拠だ。
嬉しかった。素直に嬉しかった。
五人の女の子たちがそれぞれ体や髪を洗う中、僕はひとり天井を見上げて呟く。
「これはあれだよね……そういう責任も果たせってことだよね」
たぶん、この雰囲気はお風呂に入るだけじゃ済まない。
いくらなんでも風呂場でおっぱじめるのは危険だから、その後のことも考える。
……あれ? なんでアウリエルは普通に僕の屋敷の中にいるんだ?
いまはもう夜だから、普通なら彼女は王宮に帰る頃だ。
それが気になって、体を洗っている彼女のほうへ視線を向けて訊ねた。
「ね、ねぇ……アウリエル。ひとつ質問いいかな?」
「はい? なんでもどうぞ。スリーサイズもお答えします」
「それは別にいいかな」
どうせ後で知ることになるだろうから。
「それより、なんでアウリエルはまだウチにいるの? 王宮に帰らないとみんな心配するんじゃ」
「ああ、そのことでしたか。それなら大丈夫です。わたくし、お父様を説得してこの屋敷に住むことになりましたから」
「へぇ、そうなんだ。この屋敷に一緒にね」
「はい。部屋を決めておいてよかったですね」
「あはは、そうだね。部屋を…………」
うん? ちょっと待て。
彼女はいま、何を…………。
脳が遅れて意味を理解する。
その途端、僕の叫び声が浴室に木霊した。
「えええええええええええええええ!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます