第140話 おいおいまさか……

「……ハァ。酷い目に遭った」


 ノイズ、カメリア、アウリエルの三人を連れて屋敷に帰宅した。


 あれから僕たちは、一応はデートを楽しんだが、どこに行っても厄介な住民たちの視線に晒される。


 ノイズたちは相変わらずナンパされるし。僕もナンパされるし。それに怒ったノイズたちが喧嘩しそうになるし。僕は浮気大好きのヤバい男だと誤解されるしで……心底疲れた。


「おかえりなさいませ、マーリン様」


「ああ、ただいまエアリー」


 玄関をくぐり使用人たちと挨拶したあと、リビングのほうにいたと思われるエアリーが姿を見せた。ソフィアとは別行動らしい。


「なんだかずいぶんお疲れのようですね」


「ちょっと観光中にいろいろあってね……あはは」


「なるほど。相変わらずマーリン様はトラブルに愛されるお方ですね」


「嫌な言い方だなぁ」


 僕はトラブルに愛されてる自覚はない。トラブルが僕を追いかけてくるのだ。


 ……うん、愛されてるわ。なんでだろうね。


「ノイズさんたちもおかえりなさい。あれ? アウリエル殿下もまだご一緒だったんですか? お時間のほうは……」


「大丈夫ですよエアリーさん。それよりお土産もたくさんあるのでソフィアさんを呼んでみんなで見ましょう」


「はぁ……わかりました。でしたらダイニングルームにソフィアを呼んできますね。いま頃は書斎にいると思うので」


「書斎に?」


 僕は二人の会話に割り込む。


 なんでソフィアが書斎にいるんだろう?


「ええ。実はあの子、結構な読書好きでして。前は本なんて高価で買えませんでしたが、この屋敷はかなりの数の本が元からありますし」


「へぇ……それは初耳だね」


 そっか、ソフィアは本が好きなのか。


 なら、次のデートのときは書店に寄るのも悪くないね。きっと喜ぶだろう。


「じゃあ僕たちは先にダイニングルームに行くね」


「はい。すぐにソフィアを連れていきます」


 僕たちはロビーで一旦別れる。


 ノイズたちと共にダイニングルームへ行った。


 エアリーとソフィアはおよそ五分ほどでダイニングルームにやってくる。


 ソフィアと挨拶を交わし、買ってきたお土産を並べた。


 主に食べ物関係に偏っているのは、平民御用達の南通りで買い物したからだろう。


 あの辺りは安価なものが多く売っている。そして安価と言えば食べ物だった。


「わぁ! いろいろ買ってきましたね。見たこともない食べ物ばかりです!」


 テーブルの上に並べられた食べ物を見て、ソフィアが瞳を輝かせる。


「僕たちも見たことがなかったから調子に乗って買いすぎちゃったよ」


「途中で買いすぎかな? って思いましたけど、マーリン様がいると荷物が邪魔にならなくてつい……」


「マーリン様が便利すぎましたね。アイテムボックスは反則です」


「そんなこと言われても……」


 そう。彼女たちがたくさんの土産を選ぶきっかけになったのが僕のスキル、アイテムボックスだ。


 このスキルがあるおかげで荷物を持って移動する必要もなければ、遠慮して買い物を抑える必要もない。


 おかげでテーブルが埋まるほどの土産が並べられる。


「私たちはずっと屋敷で休んでいたので、これだけいろいろあると嬉しいですけどね」


「お姉ちゃんの言うとおりです! 見たこともない食べ物ばかりでワクワクします!」


「せっかくだし、今日の夕食はこれで済ませようか。たまにはこういう日があってもいいだろ?」


 大変不健全でカロリーに満ちた献立だが、たまに食べるジャンキーなものはたまらない。


 誰も僕の意見に反対する者はいなかった。


 わいわいと雑談を交えながら夕食が始まる。




 ▼




「ふう~……極楽極楽」


 足を伸ばしてまだまだ余裕のある広い湯船に浸かって、今日一日の疲れを流す。


 現在、時刻は夜。


 外を見れば真っ暗闇が広がっているだろう。残念ながらこの浴室についてる窓から見えるのは、暗闇の一角のみだがそれがわかる。


 夕食のあと、なぜかノイズたちは風呂に入ることなく部屋を出ていった。今日はマーリン様が先に入ってくださいと言われた。


 妙によそよそしいというかそわそわしていたが、一体どうしたのだろうか?


 女子たちで秘密の話し合いをしていたが、のけ者にされるとちょっとだけ寂しいね。


 もちろん、女性同士にしかわからない話もあるだろう。だから僕は詮索せずに風呂に入った。


 風呂はいい。人間らしい文化だ。


 心も体も洗いながされ、疲れすら吹き飛ばし気分を新しくできる。


 また明日へ向けて頑張ろう! と思わせてくれるのだ。


 しかし、そんな極上の時間に影が差す。


 脱衣所へ繋がる扉のほうから、人の気配がした。


 使用人かな? と思った僕の視界に、扉のガラスごしに複数の人影が見えた。


 話し声も聞こえてくる。


 若い女性の声だ。というかこの声は……間違いなく、先ほど別れたばかりのソフィアたちの声だった。


 ドクン、と嫌な予感に心臓が高鳴る。

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