第139話 恥ずかしい
ディランとの雑談が終わる。
最近王都で頻発してる行方不明者の事件の話も含めて、ディランからはいろいろと話を聞けた。
王都にあるどの店が美味しいか。
観光スポットはどこなのか。
そういうささいな情報が聞けて、それだけでも冒険者ギルドに来た甲斐はある。
唯一、アウリエルが、
「マーリン様にはわたくしがいろいろと説明したかったですわ……」
と勝手に拗ねていた。
どうやらディランにいろいろ教わったのは、彼女の中ではよくなかったらしい。
頬を膨らませながら前を歩いている。
現在、僕たちはディランに別れを告げて冒険者ギルドを出たところだ。
街中に戻り、適当にぶらぶらと近くを歩いている。
「案内はアウリエルに任せるよ。僕たちの誰も王都に来たことはないしね」
「……まあ、そうですね。マーリン様たちを案内できるのは、いまはわたくしだけですからね!」
「うんうん。アウリエルには感謝してるよ」
「はい! お任せください!」
あっという間にアウリエルの機嫌が元に戻った。
彼女に手を握られる。
「せっかくですし、こうして手を繋いで歩きませんか? まるでデートみたいでしょう?」
「ノイズたちもいるんですが?」
「見えてます、私たち?」
べたべたくっ付き始めたアウリエルに、たまらずノイズとカメリアが苦言を挟む。
しかしいまのアウリエルは無敵だった。二人をちらりと見て、
「ではお二人ともマーリン様に甘えればいいじゃないですか。わたくしみたいに」
アウリエルは余計なことを言う。
「うっ……!」
「はっ!」
カメリアは顔を赤くして恥ずかしがる。
片やノイズは瞳を輝かせて「その手があったか!」と僕を見つめた。
極端な二人である。
「ノイズはマーリン様に抱きつくのです! 尻尾も振ります! ふりふり、ふりふり」
「自分で言うんだね、それ」
本当にノイズに抱きつかれた。
彼女は体型がいいから大きな胸が当たる。人の目もあるし、なんだか気まずかった。
「っ! わ、私も……マーリンさんを想う気持ちは本物、です!」
「おっとっと」
カメリアもノイズに負けじと僕に抱きついてくる。
やや衝撃が強くて足でふんばった。
二人ともかわいいな。
ちなみにカメリアはノイズに比べるとややお子様体型だ。それはそれで彼女らしくて僕は好きだけどね。
「あらあら。皆さんもなかなか積極的ですね」
「炊きつけたのはアウリエルだろ……」
まるで他人事みたいに言う。
「わたくしはあくまで考えを出したに過ぎません。素直に乗っかってくるなんてかわいらしいですわね、お二人とも」
「ぐうぅっ……!」
アウリエルの言葉にカメリアの顔がさらに赤くなる。
ノイズはこの手の羞恥心攻撃は効かない。尻尾をぶんぶん振りながらベタベタとすり寄ってくる。
仕方ないので僕はカメリアを抱き寄せた。
「遠慮しなくていいよ、カメリア。僕もカメリアとはこうしてくっ付いていたいしね」
「ま、マーリンさん……」
「わたくしにはそういうこと言ってくれないんですか?」
「アウリエルとはまだ付き合ってないしね、正確には」
「いけず」
ぷくー、とアウリエルが頬を膨らませた。
すると今度はノイズが、
「ノイズは付き合ってます! ノイズのことももっと抱きしめてください!」
と大きな声で懇願した。
彼女の声は大きい。どれくらい大きいかと言われると、周りにいる人たちにいまの会話が聞こえるくらいには大きかった。
周りの人たちにいまの話が聞かれるとどうなると思う?
当然、生暖かい視線が送られる。
「なあにあれぇ。初々しいわね」
「三人の女の子とラブラブなの? すごいな……」
「羨ましい……」
「やっぱ顔か」
「性欲強そうね」
……散々な言われようだった。
というか最後の女性の発言はセクハラだ。
僕はいたたまれない気持ちになったので、ノイズたちを連れてその場から逃走する。
▼△▼
マーリンたちが街中で恥ずかしい思いをしている頃。
薄暗い地下室にて、複数の男女が集まっていた。
誰も彼もが全身を黒い服装で隠している。
「ねぇ、みんな聞いた~?」
集団のひとり、一番の軽装——露出の激しい女性が口を開いて言った。
「最近、ランク1冒険者のディランが誰かに負けたらしいわよ?」
「ああ、聞いている。あのディランが誰かに負けるとは思えない。恐らくガセネタだろう」
女の話に、低い声が返ってくる。答えたのは、二メートルにも達するであろう大きな背丈の男性。
服の中からもわかるほど筋骨隆々だった。
「だよね~。あの爺がそう簡単に負けるかっての。私たちがアイツを倒すためにどれだけ準備してると思ってるんだか。ムカつくからその情報持ってきた部下を殺しちゃった」
「くるくる。不確かな情報など無能の極み。しっかりと拷問して痛めつけたのかえ?」
質問したのは肌を一切露出しない小柄な男性。
問われた女はキャハハと高らかに笑う。
「当たり前じゃない。殺してくれ~ってみっともなくすがり付いてくるまで痛めつけてやったわ」
「——楽しそうな話をしてますねぇ。僕も混ぜてくださいよ」
上機嫌な女の言葉に続いて、ギィ、と地下室の扉が開く。
入ってきたのは、唯一黒い服を着ていない優男だった。貴族のような装いをまとい、集団のそばに近づく。
その瞬間、その場の全員が視線を優男へと向けた。そこには敵意の感情はない。
「あら……あなたが日中に顔を出すなんて珍しいわね。プロフェッサー」
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