第136話 ハメたなアウリエル!
アウリエルたちがナンパされるという厄介事を乗り越え、僕たちの王都観光は続く。
セニヨンの町にはないものが通りには多く、何を見ても僕らは楽しかった。
「マーリンさんマーリンさん! あの人は道端で何をしているのですか!?」
くいくいっと道中、ノイズに服の袖を引っ張られる。
彼女が指差したほうへ視線を向けると、そこにはおかしな格好をした……恐らく男性? が見えた。
前世で見たことのある格好と外見だ。
いわゆる
「ああ、あれは大道芸人ってやつかな」
「大道芸人?」
「そ。ああやって町中で自分の技を見せてお金をもらったりする人のことだよ」
「技を……で、では! ノイズの獣化も皆さんに喜ばれますかね!?」
「え……ノイズのあのスキル?」
獣化と言えばノイズの奥の手だ。
自身を四足獣に変化させて身体能力を上げる。
僕はすでに何度も見ているから問題ないが、こんな町中であんなスキルを見せたら住民たちが困惑する。
下手するとパニックだ。
外見はモンスターに見えなくもないからね。
「うーん……他の人たちが怖がる可能性もあるから止めておいたほうがいいかな。あれはノイズの貴重なスキルだし」
「あぅ……残念です。でも、ノイズもあの大道芸人さん? がやってることできるですよ!」
「ジャグリングのこと?」
あれは意外とコツとか慣れが必要だと思うけど……なんとなく、ノイズはそういうの得意そうなイメージがあった。
しかし、僕はそれも止める。
「駄目だよ、ノイズ。あの人の仕事を奪っちゃ。あのピエロはそれでお金を稼いで今日を生きるんだ。冒険者の仕事を奪われたら、ノイズだって嫌な気持ちになるだろ?」
「た、たしかに……見ているのが一番ですね」
「そうそう。見て楽しむのが大道芸さ」
なんとか彼女が人に恨まれることはなかった。
我ながら子供を引率する教師みたいな心境になる。僕は教師ではなかったが。
「ふふ。ノイズさんはマーリン様のお言葉が聞けて偉いですね。せっかくですし、今度はノイズさんが楽しめる場所に行きましょうか」
「ノイズが楽しめる場所?」
急にアウリエルが不敵な笑みを浮かべてそう言った。
不思議と嫌な予感がするのはなぜだろう? ノイズが楽しめる場所なら、教会って線はありえないのに……。
「ええ。きっとノイズさんなら間違いなく笑顔になるかと」
「教会ではなく?」
一応、彼女は信者なので確認しておく。
アウリエルのことだから、人類みな教会が大好き! とか言いそうだし。
「いくらわたくしでも、無理やりノイズさんを教会に連れていったりしませんよ。たしかに教会はとても楽しい場所ではありますが……ノイズさんはあまり敬虔とは言えません」
ふるふると首を左右に振って彼女は続けた。
「なので、恐らく皆さんが楽しめる場所です。ああ……カメリアさんはそうでもないかもしれませんね」
「???」
未だに彼女がどこへ行こうとしているのかわからなかった。
僕たちが知らない場所である可能性もあるし、ひとまず、移動を始めた彼女についていく。
人ごみをかき分けて来た道を戻っていた。
▼
「帰る」
目的地に着いて早々、僕は不機嫌な顔でそう言った。
ガシッ。
アウリエルに腕を掴まれる。
「まあまあ、そんなこと言わないでくださいよマーリン様」
「嫌だ。僕はここには来たくなかったんだ……アウリエルなら察してくれるだろう?」
「うっ……! そんな美しいお顔を見せたら、わたくしは弱い……」
ジッと悲壮感を滲ませて彼女を見つめる。
本当はそんなことしたくないが、背に腹はかえられなかった。
しかし、そこでアウリエルが逆転の一手を打つ。
「で、ですが! あちらをご覧くださいマーリン様!」
「あちら?」
言われたほうへ視線を向ける。そこにはノイズの姿があった。
「あのノイズさんにやっぱり行きたくない、と言えますか!? ものすごい笑顔ですよ!」
「ぐぅっ……! た、たしかに……ノイズがとても楽しそうじゃないか」
ノイズはアウリエルが言うように笑顔だった。
つい先ほど、大道芸人の真似ができなくて悲しそうにしていたのに、それがなかったかのように眩しい笑みを浮かべている。
言い難い……ハメたな、アウリエル!
「そうでしょうそうでしょう。ですから我慢してください、マーリン様。お気持ちはお察ししますが、マーリン様も冒険者なんですから。冒険者ギルドにくらい足を運ぶでしょう?」
「あの筋肉を倒したばかりなんだよ? 面倒なことになるのは明白じゃないか!」
そう。彼女が僕たちを連れてきたのは、王都にある冒険者ギルド。
そこには当然、ギルドマスターのあのおっさんがいるに決まっている。
僕はあの戦闘狂に気に入られているのだ。声をかけられる前に退散するに限る。
そう思ってわざわざ観光前に「冒険者ギルドに行くのはまた後日ね」って言ったのに!
無理やり行かせようとするアウリエルと必死の攻防をしていると、正面扉が開いてひとりの男性が姿を見せた。
とっても見覚えのあるムキムキのおっさんが。
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