第135話 守られるだけじゃない

 僕がひとり屋台で食べ物を買っていると、離れたところで待っていたカメリアたちがナンパされていた。


 セニヨンの町でもそういう話がまったくなかったというわけじゃない。


 より人口が多い王都なら、セニヨンの町より声をかけられても不思議じゃなかった。


 僕は料理を持ちながら盛大にため息をつく。


 しかし、僕は声をかけるより先に、彼女たちが明確な拒絶を見せた。


「すみません。連れの男性がいるのでご遠慮します」


 アウリエルが笑顔を浮かべて断る。


 だが、男たちも簡単には引かない。


 ノイズたちの美貌に目がくらんで調子に乗る。


「そんなこと言わないでよ~。なに、連れってひとり? ひとりで三人も? 俺たちがいてもいいんじゃない? こっちは二人だし、きっともっと楽しいよ」


「うーん……知らない人にはついていかない。常識だと思います!」


 続いて拒否を示したのはノイズだった。


 ぴこぴこと犬耳を揺らして明るく断る。


 それでも男たちは止まらない。


「そこをなんとか! ね?」


「しつこい殿方は嫌われますよ。別に女性に声をかけることがダメとは言いませんが……私たちはあなた方に興味ありませんので」


 最後に全員の意見をまとめてカメリアが厳しいことを言い放つ。


 すると、さすがに男たちが怒りの感情を抱く。


 プライドがズタズタにされて顔を赤くした。


「ッ! 言わせておけば……! だいたい、お前はフードくらい取れよ!」


 バッと男のひとりがアウリエルのフードに手を伸ばす。


 王族相手にそんな真似をすれば、相手のことがわからなかった、では済まされない。


 理由を適当にでっちあげて処刑することもできるだろう。それだけ王族は偉い。


 が、もちろん、戦闘能力の高い彼女たちが男の嫌がらせを受けるはずもなかった。


 相手の手がフードに触れるより先に、ノイズが男の腕を掴む。


「勝手に女性に触れるのは、マナー違反だとノイズは思います! そんな腕は~」


「いたたたた!?」


 ぎりぎりとノイズが男の腕を握り締める。


 彼女くらいのレベルになると、一般人の肉体は彼女の腕力に耐えられない。


 最近、アラクネ事件や魔族うんぬんでレベルが相当に上がったからね。


 オークも含めて、近くにいた彼女たちにも討伐した際に経験値が入ったらしい。


 体が不思議と軽くなったという彼女たちを道中鑑定して気づいた。


「はなっ……離せ! この馬鹿力が! これだからビーストは……」


「差別はよくないな。自分たちから話しかけておいて、拒否されたら文句か?」


「マーリン様!」


 そろそろ見ていられなくなった。


 料理を持ったまま僕が声をかける。


 途端にみんなの表情が明るくなった。


 ああ……さっきまでやり取りを見ていた人たちが、今度は僕に嫉妬の視線を……。


 彼女たちが変な輩に絡まれているのを心配そうにしていた心はどこにいった?


 まあいいや。それより目の前の男たちを見る。


「やあみんな。遅くなってごめんね。……そういうわけだから、遠慮してくれるかな?」


 じろりとフードの下で男たちを睨む。


 僕はレベル500だ。ただ睨むだけでもそれなりにオーラが出るっぽい。


 個人的には出してるつもりはないんだが、レベルの補正で勝手に出るっぽい。


 男たちは蛇に睨まれたカエルだ。ぷるぷると全身を震わせたあと、


「す……すみませんでしたあああ!!」


 脱兎のごとくその場から逃げ出した。


 尻尾を巻いて逃げるってああいうことを言うのかな。


 それくらい見事に全力疾走して消えた。


「本当にごめんね、僕が目を離したばっかりに」


 邪魔な男たちが消えて改めて彼女たちに向き直る。


 ノイズたちはそれぞれが首を横に振った。


「マーリン様は私たちのために料理を買ってきてくれたんです、それを責めるのはお門違いかと」


「そうですそうです! それに、ノイズたちだって戦えます! お任せください!」


 アウリエルがぷんぷん、と先ほどの男たちへ怒りを表し。ノイズがしゅっしゅっとシャドーボクシングの真似みたいなことをする。


 カメリアも僕を責めたりしない。むしろどんどん先ほどの男たちへのヘイトが重なっていく。


 若干彼らが可哀想になるほどの苦言を吐いていたので、さすがにそろそろ止める。


 男たちを庇うわけではない。料理が冷める。


「はい、そこまで。もうナンパの件は忘れて料理を食べようか」


 彼女たちに料理を手渡していく。


 全員こくりと頷いて料理を食べ始める。すっかり男たちの記憶は消えたらしい。


 そのことにホッとしながらも、ふと考える。


 彼女たちは全員が僕にただ守られるだけの存在ではない。


 いずれ、パワーレベリングみたいなことをして強くするのも悪くないな、と。


 その末に、彼女たちが僕のそばからいなくなってもしょうがない。


 いなくなる不安より、死んでしまう恐怖のほうが上だった。

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