第133話 教会にはいきません

「ではまずは、軽く南の通りを見てから教会へ行きましょう」


「待って」


 歩き出したアウリエルの手を握る。


 彼女は僕に手を握られてポッと頬を赤く染めた。


 しかし、僕はそんなことより彼女に言わなくちゃいけないことがある。


「なんでいきなり教会に行くことになってるの。行くつもりはないよ」


「え? どうして逆に行かないのですか?」


 彼女は至極当然のように首を傾げる。


「なんで僕が間違ってるみたいに言うのかな? 教会の行くのが普通なの?」


 僕はノイズたちのほうへ視線を移した。


 彼女たちは「あはは……」と苦笑している。


 ほら見ろ。カメリアたちだって行きたくなさそうにしている。僕は間違っていない。


「教会に行くのは王国民なら当然です! わたくしの同士たちがマーリン様を待っていますよ!」


「うん、だから行きたくないかな」


 僕、別にその人たちのこと知らないし。


 アウリエルがみるみる内に不満顔を作った。


 そんなリスみたいに頬を膨らませてもダメ。セニヨンの町で嫌ってほど教会にはトラウマを植えつけられた。


 その上で総本山みたいなところに行きたくない。きっと恐ろしい目に遭うのがわかっていた。


「……マーリン様はいけずです。わたくしを虐めるのがそんなに面白いですか」


「虐めてない虐めてない。普通の人は教会に行くのがメインじゃないんだ」


 その気持ちを否定はしない。


 信仰心もそれはそれで素晴らしいと思うよ。


 けど、それを僕たちにまで強要するのはダメ。人には人のやりたいことがある。


 僕の気持ちが伝わったのか、最初から冗談だったのか。アウリエルは拗ねた様子で、


「むぅ……まあ、マーリン様の言いたいこともわかります。どうせそう言うと思ってましたよ!」


 と言った。手をぶんぶんさせてこれでもかと自分の感情を表現している。


 正直可愛かった。だから僕もくすりと笑う。


「ちゃんと時間がある時に行くから。僕とアウリエルの二人でね」


「ま……マーリン様!」


 ぱあっとアウリエルの表情が明るくなる。


 こんな言葉で元気になるなんて、アウリエルはちょろ……健気だなぁ。


 もちろん彼女にわざわざ「二人」と告げたのは、他のメンバーたちを巻き込まないためだ。


 僕が教会に行って無事で済むはずがないからね。


 自分で言ってて悲しくなった。


「ありがとうございます! では本日は、気を取り直して観光しましょう! 案内はわたくしにお任せください!」


 気分を上げたアウリエルが、すたすたと前を歩き出す。


 張り切るのはいいが、君、一応は王女なんだから勝手にいかないの。


 握っていた手を引っ張って連れ戻す。歩くときは全員でだ。


「頑張ってくれるのは嬉しいけど、ゆっくりでいいよ。いろいろ見て回る所も多いだろうしね」


「それはそうです。この王都は王国最大の都市ですから」


「広いよね。今日一日でどれくらい回れるかな」


 規模で言うとセニヨンの町がいくつも入りそうなほど広い。


 ざっと街に繰り出す前にアウリエルに見せてもらった地図だと、三つか四つは入りそうだった。


「そうですね……南の通りに限定すれば、今日一日でも十分かと。東は居住区ですし、西は貴族御用達の歓楽街。平民のための歓楽街というか、商業区画はこちらになるので」


「なら、今日のところは南の通りに限定しようか。どうせしばらくは王都にいるわけだし」


 僕、国王陛下から屋敷ももらったしね。すぐに離れるのはもったいない。


 それで言うとそのうち冒険者ギルドにも行っておきたいな。


 報酬のおかげでお金には困っていないが、何もしていないとそれはそれでそわそわする。


 たまに依頼を請けるくらいがちょうどいいだろう。ソフィアたちもそれを望んでいるはずだ。


「ちなみに冒険者ギルドってどこにあるのかな」


「冒険者ギルドですか? 冒険者ギルドは中央広場のそばにありますよ」


「今度でいいから寄ることはできる? ノイズも興味あるよね? ない?」


 ちらりと話題をノイズに振る。


 ノイズは瞳をわずかに輝かせた。


「ノイズはとても興味があります!」


 ノイズが元気よく僕の問いに答えてくれた。


 さすがに冒険者なだけあって興味あるっぽい。


 カメリアは元々が宿屋の娘だから、あまり興味はない。


 彼女の興味をそそるものと言えば……。


「じゃあまた後日にでも冒険者ギルドにいこうか。それで……カメリア」


「? はい」


「今日はこの辺りを散策するよ。セニヨンの町にはない調味料とか見つかるかもね」


「……! たしかに! 面白そうですね」


 料理関係の話なら、彼女も口を出しやすい。


 わかりやすく笑顔になった。


 視線をアウリエルに戻して、「そういうわけだからよろしくね」と無言で伝える。


 彼女はこくりと頷いた。


 さすがアウリエル。空気を読むのが上手い。


 僕たちは固まって通りを歩いていく。並んだ露店の数々に目を奪われた。




———————————

あとがき。


200万PVを超えたりと皆様のおかげで本作も順調です!本当にありがとうございます!

これからも本作を何卒よろしくお願いします!



新作のほうもよかったら応援よろしくお願いします!

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