第132話 王都観光

 アウリエルが王宮に帰ったあと、僕たちはそれぞれが決めた自室に荷物を置いて、すでに置かれていたベッドで眠った。


 専門の料理人が作った夕食はたいへん美味しかった。


 カメリアはやや不満そうな表情を作っていたが、それでも無言でしっかりと夕食を食べていた。恐らく美味しかったから少しだけ悔しかったのかな?


 さらにこの屋敷は風呂もとんでもなく広い。


 最初、ノイズとエアリーが一緒に入ろうと言ってきたときはどうしたものかと頭を悩ませた。


 常識人のソフィアとカメリアに二人を任せられたのは大きい。


 ちなみに一人だと全然スペースが余っていた。たまにはああいう広い風呂も悪くない。




 そして翌日。


 早朝に目を覚ました僕がダイニングルームに行くと、すでに何人ものメンバーが集まっていた。


「……あ、おはようございます、マーリンさま」


「おはよう。二人とも早いね、ソフィア、エアリー」


 ダイニングルームにいた二人の姉妹に挨拶する。


「住み慣れていなかったせいか、割と早くに目を覚ましました。マーリンさまは?」


「僕は熟睡できただけだよ。意外と図太いのか普通に寝られたね」


「羨ましいかぎりです」


「今日はみんなで王都の観光に行こうかと思ったけど、疲れてるなら二人はやめておく? また後日でもいいし」


 時間はたくさんある。僕たちは冒険者という職業に就いてはいるが、冒険者はかなり自由な職業だからね。


「うーん、そうですね……お言葉に甘えて私たちは明日でもいいですか? あまり大所帯で街中を歩くのも他の人に迷惑ですし」


 姉妹を代表してエアリーがそう言った。僕はこくりと頷く。


「了解。なら、明日は僕とエアリー、ソフィアの三人だね」


「三人でデート……ありですね!」


 グッと拳を握り締めるソフィア。テンションが急に高くなる。


「では私とソフィアはこれで」


「あれ? もう朝食は摂った感じ?」


「はい。少し前に」


「そっか。じゃあまたね。おやすみ」


「おやすみなさい、マーリンさま」


 ソフィアもエアリーも恭しく頭を下げてからダイニングルームを出た。


 後に残った僕は、のんびり朝食を頼んで残りの二人を待つ。


 ノイズもカメリアも、起きてきたのはそれから一時間もあとのことだった。




 ▼




「……? 今日は人数が少ないですね。ソフィアさんとエアリーさんはどうしたんですか?」


 朝の十時頃。


 王家所有の馬車で僕の屋敷にやってきたアウリエルが、着替えを済ませた僕たちを見てそう訊ねた。


 彼女の前には姉妹を除いた僕とノイズ、カメリアしかいない。


「二人は慣れない環境でまだ疲れているらしいから後日だね。今日はこの四人で王都の観光に出かける予定だよ」


「なるほど。環境が変わるとすぐには慣れませんからね。特にあの二人はそういうタイプだったのでしょう」


「ノイズは全然平気でしたね」


「わ……私も」


 アウリエルの言葉に、両隣に並んだ二人の女性が気まずそうに視線を逸らす。


 別に普通に熟睡できたことを恥じる必要はない。何なら僕だって問題なかった。


 まあ、あの姉妹は何年も何年もずっとあの町で過ごしていたから無理はない。


 ……カメリア? うん、気にしないでおこう。


 僕は目に見えた地雷は踏まないよ。


「僕も平気だったし、二人がいてよかったよ。四人いれば観光も楽しめるからね」


「ふふ。マーリンさまの仰るとおりですわ。戯言でした。お二人とも気にしないでください。ちなみにわたくしも平気なタイプです。セニヨンの町では熟睡してました!」


 最後にしっかりフォローを入れて、彼女が乗ってきたかなり大きな馬車に乗り込む。


 行き先は王都の南通り。


 そこは王都の顔であり、数え切れないほどの店が並んでいるらしい。最も人口が密集する場所だとか。


 僕たちは王都に入った際に一度だけ見ている。


 アウリエル以外の全員が、期待に胸を躍らせていた。




 ▼




 アウリエルの指示で馬車は南の通りの前までやってくる。


 そこから先は人が多いので徒歩でいく。馬車だと風情もないしね。


「あちらから先が南の通りですね。この中央の噴水広場では、南の通りで買った食べ物を食べる人が多いとか」


「たしかに……ちらほらとベンチに座りながら何か食べてる人がいるね」


「休憩スペースはもちろん、子供たちの遊び場としても人気があります」


 満面の笑みを浮かべて、変装したアウリエルが丁寧に説明してくれる。彼女は案内けん解説役だ。


 そして僕も外見が目立つので変装している。というかいつものようにフードを被っている。


「なるほどねぇ……暑い季節にはここで噴水を眺めるのも楽しそうだ」


「そのときは是非ご一緒に」


「許可が下りればね」


「無理やり通します」


 アウリエルなら本当にやりそうだ。しばらくこの話題は控えておこう。


 雑談もそこそこに、全員で並んで南の通りに入っていく。後ろには数名の護衛がいた。目立たないように私服を着て僕たちに続く。


 いくら僕がいるからって、こればっかりは外せない。


 最悪だ……とアウリエルが隣で言っていた。




———————————

あとがき。


なおも新作が好調!

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