第131話 部屋決め

 国王陛下に貰った屋敷に入ると、そこはまさに豪邸って感じの内装が広がっていた。


 これまで僕が泊まってきた宿がいくつ入るのか。素直に驚く。


「どうですかマーリンさま。一応、この屋敷を選んだのはわたくしなんですよ」


 二階の一角、空き部屋の中をぐるりと見渡したあとアウリエルがそう言った。


「え? この屋敷を選んだのってアウリエルだったの? てっきり陛下かと……」


「マーリンさまが住まれる場所は無理にでもわたくしが決めたかったのです! 王家が所有する物件でも最高のものを選びました!」


「それはまた……ありがとうと素直にお礼を言っていいのか悩むね」


 国王陛下に恨まれたりしないのかな? もしくは財政担当の人とかに。


「悩まなくていいに決まっています! マーリンさまはわたくしを魔族の手から救い出してくれたのですから」


「間に合った……とは言えないけどね」


 ソフィアは殺され、残りのメンバーたちも酷い怪我を負った。


 あれは勝利じゃない。どちらかと言うと敗北に近いと僕は思っている。


「そんなこと言わないでください。たしかにソフィアさんは殺された。その事実はたとえ復活を果たしても消えません」


 まるで僕の内心を察したかのようにアウリエルは続ける。


「しかし、マーリンさまが我々を救ったのもまた事実。それだけは忘れないでくださいね?」


「アウリエル……うん、そうだね。ごめん。なんだかナイーブになってた」


「いえいえ。お気持ちは解りますのでお気になさらず。いつでもわたくしはマーリンさまを支えます。妻なので」


「…………ノーコメントで」


 アウリエルの冗談にも慣れてきた。


 いや、彼女からしたら本気なんだろうが、生憎とまだ受け入れる覚悟はできていない。


 前に比べたら、拒否したり否定しないだけ前進したが。


「ふふ。着実にわたくしへの好感度も上がっていますね」


「否定はしないよ」


 彼女の言うとおりだ。僕はアウリエルに惹かれている。


 彼女は王女でありながら気安いのだ。距離が近いとも言える。


 それは決して馴れ馴れしいわけではない。相手の目線に立って会話ができる証拠だ。


 簡単に言うと、アウリエルがいると落ち着く。そわそわしない。


 だから僕は彼女のことが好きなんだと思う。


 四人もの女性に手を出しておきながら何を言ってるんだ……とは思うが、この感情に嘘や偽りはない。


 だが、同時に前世の記憶が僕の倫理観にセーブをかけている。


 もう四人もの女性に手を出した。これ以上はまずいと。


「まあ、わたくしは全然待てますけどね? 前進しただけで嬉しいです」


「悪いとは思ってるよ。けど、ごめんね」


 僕が素直に謝ると、彼女は首を左右に振って笑った。


「いいんです。この距離感もまた、今だけの特別なもの。せめて甘酸っぱい時間をギリギリまで堪能しますわ」


「アウリエルは本当に……いい女の子だよ」


 彼女と話す度に彼女への好感度が上がる。


 誰にでも優しく、気さくで、面白い女性。そんなの反則だ。


「お褒めいただきありがとうございます。では、この部屋も十分に確認できたということで、そろそろ下に戻りましょうか。ソフィアさんたちを呼んでそれぞれの部屋を決めましょう」


「そうだね。ちなみにアウリエルはどこがいいの?」


「おや? わたくしはここに住むわけではありませんよ?」


「泊まりにくることはありそうじゃん? それに、部屋はたくさんあるし一つくらい増えてもね」


「……ふふ。マーリンさまはズルい人」


 なぜか僕の言葉を聞いて彼女は頬を赤くする。嬉しそうにニヤニヤしていた。


「ズルい? 僕が?」


「ええ。ズルくて格好よくて……尊い方」


 それだけ言って、彼女は自分の要求を伝えてきた。


 なんだかんだ部屋の希望は出てくるのね……ふふ。




 ▼




 アウリエルと共に屋敷のロビーに戻る。


 すでに戻っていたソフィア、エアリー、カメリア、ノイズの四人に、アウリエルに話した部屋決めの件を伝えた。


 すると彼女たちは、満場一致で僕の部屋の隣がいいと言う。


 だが、ここで問題なのは両隣……つまり最大でも二人までしか僕の隣は選べないってこと。


 ——激しいじゃんけんが始まった。みんなマジの顔でグーチョキパーを出す。


 最終的に僕の隣室を勝ち取ったのは、しれっとじゃんけんに混ざっていたアウリエルとカメリアだった。


 負けた残りの三人は、それぞれさらにその隣を自室にする。


「それでは皆様、わたくしはお父様……国王陛下と話したいことがあるのでそろそろ帰りますね。また明日お会いしましょう」


 自分の部屋が決まるや否や、アウリエルは大切な用事があると急いで王宮に帰っていった。


 それを見送り、僕たちは僕たちで荷物を自室に置く。


 カメリアだけは夕食を作る準備に入った。


 五分後、とぼとぼと僕の部屋に戻ってくる。


「マーリンさん……この屋敷には料理人がいるそうです」


「あー……まあ、しょうがないよね」


 彼女の特技は、しばらくお預けらしい。




———————————

あとがき。


新作が調子よくて執筆へのモチベーションが高いです!


本作の続きをどうしようか悩んでいますが、この幸福感に身を任せてバリバリと書きますか!

(途中まで書けています!)


どうぞ新作もろもろ反面教師をよろしくお願いします!

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