第129話 戦慄する国王

 レベル1000の状態で、全力でディランを殴る。


 鈍い音が鳴り、ディランは地面にバウンドすることなく、真っ直ぐにコロシアムの壁に突き刺さった。


 大きな衝撃音と大きな穴を空けて埋まる。


 ぱらぱらと崩れた壁が小さな音を立て、砂煙が舞い上がる。


 急にディランが、それも一撃で吹き飛ばされる様を見て、国王陛下や護衛の騎士たちが完全に沈黙していた。


 元気なのは、ぱちぱちと拍手する我がパーティーメンバーたち。アウリエルなんて瞳を輝かせていた。


「く……空気が悪い」


 やってしまった時のあれだ。


 喜んでいるのは僕のことを知ってる仲間だけ。国王陛下たちの青ざめた表情を見れば、なにを考えているのかくらい解る。


 どうしたものかと考えていると、答えが出るより先に穴からディランが飛び出してきた。


 意外と元気だ。


「ぐはっ! えはっ! ……す、素晴らしい一撃だったぞ、マーリン!」


 あ、違う。口から大量に血を流し吐いている。腹部には青あざが。おまけに殴ったときの感触からして、ディランの骨はそれなりに折れている。


 どうしてあんなに動けるのだろうか? そもそもその状態で喋らないほうがいいと思う。


「あんまり喋ると傷が深くなりますよ。すぐに治しますね」


「おお! ぐはっ! ま、マーリンは治癒もできるのか——ぐらはッ!」


「ちょっとちょっとちょっと! だから喋るなって……」


 大量に血を吐きながらなおも喋り続けるディランに呆れる。


 急いでそばに駆け寄ると、試合終了と言わんばかりに聖属性魔法を使って治癒を行った。


 幸いにもディランの肉体はかなり強靭だったので重症には至っていない。


 ……うん、普通の人間なら重症だ。助からないレベルの負傷だったと思う。でもディランにとっては軽傷らしい。


 傷も一瞬で治った。全快だ。




 ▼




「いやー! ガハハ! 負けてしまいましたな、公子様!」


 体調が完全に回復して元気よくディランは叫ぶ。


 現在、僕とディランの決闘は終了した。結果は僕の勝利。それも圧倒的な勝利を収めたことで、ディランを呼び出したアーロンの機嫌は悪かった。


「ふざ、ふざけるなディラン! お前にいくら払ったと思ってる! 俺の金を返せ!」


「いやいや、俺はちゃんと言われたとおりに戦いましたぜ? その上で負けたんだ、落ち度は俺にもあんたにもある。諦めて反省しようや、公子様」


「お前と一緒にするな! 私は負けてない! 私は悪くない! すべては私からアウリエル殿下を奪ったこの男の責任だろ!」


「はいはい。そういう癇癪は人のいないところでやろうぜ」


「あ、おい! 私の背中を押すな! 離せ! このゴリラ!」


 ディランがぎゃあぎゃあ騒ぐアーロンを無理やりコロシアムから追い出す。最後に、


「またなマーリン! 俺たちはこれでちょいと失礼するぜ。坊ちゃんがうるさいからな」


 と言ってディランもまた姿を消した。外からいまだアーロンの叫び声が聞こえる。


「……こ、これで全て終わったのかな?」


 ようやく肩の荷が下りた。


 ホッと胸を撫で下ろすと、四人の女性たちが僕のそばにやってくる。


 みんな一様に僕の勝利を祝ってくれた。


「さすがですマーリンさま! まさに神のごとく!」


 まずはアウリエルが。涙すら彼女は流している。


「カッコよかったですマーリンさま。ね、ソフィア」


「うん! お姉ちゃんの言うとおり、マーリンさまの雄姿をわたしは忘れません! 王子様みたいでした!」


 次いでエアリーとソフィアが。子供みたいに瞳を輝かせている。


「ノイズももっと強くなったらマーリンさんと戦えますかね? 頑張りたいです!」


 なぜかノイズは僕と戦う側に立っていた。聞かなかったことにする。


「お疲れ様でした、マーリンさん。あんまり無茶しないでくださいね? で、でも……その……素敵、でしたよ?」


 最後にカメリアが頬を赤く染めながら僕を褒めてくれて、より一層の賑やかさになった。


 それを遠巻きに見つめている国王陛下の視線に気付く。


 瞳の色には、複雑な感情が揺らめいていた。




 ▼




「よもや……あのディランを一撃か」


 マーリンたちに聞こえないくらいの声でぽつりと国王陛下は言葉を漏らした。


 後ろに控えていた騎士が、汗を滲ませながら口を開く。


「せ、僭越ながら……ディラン様ひとりで我々近衛騎士の大半を殺せます。隊長と副隊長以外は有象無象でしょうね」


「そのディランを一撃で倒せるというのは、実際にはどれくらいの脅威だ?」


「……まず間違いなく、マーリン殿ひとりで国を滅ぼせるかと」


「そんなにか?」


「ええ。先ほどディラン様を治した治癒能力もあります。マーリン殿を殺すのは極めて難しい。恐らく、我らが隊長も一瞬で倒されるかと」


 騎士の推測に国王陛下は戦慄する。


 そんな規格外の人間が存在したとは、と。そして同時に、マーリンを王国で囲えればどれだけの利益になるのか……それを国王らしくしたたかに計算し始めた。




———————————

あとがき。


皆様!反面教師がまた新作の異世界ファンタジー投稿しましたーーーー!

本日は20時頃にもう1話投稿されるので、ぜひぜひ応援してくださーーーーい!!!



あ、近況ノートも載せました。ぜひそちらも。


※新作投稿のため、それ以外の作品の投稿時間を調整し早めました。ご了承ください。

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