第128話 レベル1000パンチ

「ば……馬鹿な!?」


 ディラン渾身の一撃は、容易く僕に防がれた。


 片手で剣身を掴み、すべての衝撃を吸収する。


 流れた衝撃が地面を深々と砕き、風が吹いてふわりと髪を撫でる。


 僕は無傷だった。涼しい顔でディランを見つめる。


「どうやら、いまは僕のほうが強いようですね」


「くぅっ!」


 ディランは必死に剣に力を込める。だが、いくら頑張ろうと一ミリたりともディランの剣は押し込まれなかった。


「ど、どうなってやがる!? 俺の全力の一撃だぞ! なんでうんともすんとも……」


 たまらずディランは叫ぶ。僕が答えを教えてあげた。


「理由なんて単純ですよ。純粋に僕の腕力のほうがディランさんより上ってだけです」


「なに? さっきまで俺のほうが強かっただろ! どういうことだ!」


「あー……一応、誤解のないように言っておきますが、僕は手加減してたわけじゃないですよ。そういうスキルがあって、ワケあって力を制限していたんです」


「スキル? 制限? ……なるほどな。魔族なんてとんでもない存在に勝つんだ、それくらいの秘密があってもおかしくねぇか」


 劣勢にも関わらずディランは笑みを刻んだ。余裕はない。しかし、その表情は心から楽しそうだった。


「最初は俺も疑問だったんだ。魔族を倒したにしては、お前の実力は低すぎるってな。アウリエル殿下の言葉を疑うのは無礼だが、単なる嘘かとも思った」


「当然の判断ですね」


 いまの話はオフレコだ。僕とディランの中に留めておく。


 仮にバレたところで、ランク1冒険者とやらを罰することができるのかは謎だが。


「けど……けどよ、俺のスキルを使った上での一撃を素手で防いじまう奴だぜ? 認めるしかねぇな……魔族殺しの英雄は本当にいた、ってな」


「そんな大層な人間じゃないですよ。たまたまです。運がよかった」


「運がよくて魔族が殺せるなら、俺も魔族を一人や二人ぶち殺してるところだぜ」


 うーん、物騒。


 戦闘狂すぎるだろこの人。強者が好戦的なのは解らなくもないが。


「まあ、そもそもの話、魔族に出会えなきゃ戦うもクソもないがな」


「ですね。個人的な話をすると、もう魔族とは会いたくありませんが」


「そんなに強かったのか?」


「強い……」


 たしかに魔族は強かった。レベル2000もの相手と戦ったのはアレが初めてだ。


 僕も殴り飛ばされたし、仲間たちも辛い思いをした。そういう意味でも出会いたくない。


 だが一番の問題は、単純に面倒な相手だからだ。いちいち封印を解除してまで戦いたくなかった。


「ええ、強かったですよ。いまのディランさんなら一瞬で倒されるでしょうね」


「ほ~……言うねぇ」


「だから魔族を見つけても逃げることをオススメします」


 どうせこの人は逃げないだろうけどな。念のために忠告はしておく。


 レベル600程度のディランさんでは、魔族の一撃で死にかねない。


 僕だって即死を免れたのは、魔族が油断していたのと、僕自身の殺害優先度が低かったからだ。


 下手したら、最初の一撃で殺されていてもおかしくはない。


「そうか。解った。けど残念ながら、俺の辞書に強者の前から逃げるなんて文字はない。この体がボロボロになろうと、命果てるまで戦うぜ?」


「……でしょうね」


 予想通りすぎる返事だった。


 続いて、ディランは高らかに笑って言った。


「ハハハ! 強者との戦いはいつだって最高の娯楽だからな! それよりマーリン」


「? はい」


「魔族と戦ったお前に、魔族の力の一端を見せてはくれないか?」


「力の一端?」


「ああ。すでに勝敗は決したようなものだ。俺の負け。それは認める。だがこのまま、なあなあで負けるのだけは許せん! だから、魔族に勝ったお前の全力を受け止めてみたいんだ! 頼む!」


「えぇ……」


 レベル2000ものステータスでディランさんを殴ったら、グロテスクなミンチが出来上がるかもしれない。


 この場には王族の方々もいるのだ。そんなエグい光景を見せるわけにはいかなかった。


 そもそも僕の全力を出したら、デュランさんは骨すら残らないぞ、マジで。


 額にじんわりと汗を滲ませながら首を横に振る。


「さすがにディランさんが死にます。僕はあなたを殺したくない。王族の方々も見てる」


「むぅ……防御力には自信があるがそれほどかね?」


「断言します。本気で殴ればディランは間違いなく死にます」


「……残念だ。しかし、せめて俺が死なない程度に殴れないのか? 手加減とか」


「手加減……まあ、それくらいなら」


 いまの僕のレベルは1000。


 この状態でディランさんを殴れば、仮に本気で殴っても問題ないだろう。


 剣を抑えているほうとは反対の手に力を込める。


 僕が殴る体勢を見せると、ディランさんの表情が険しくなった。腹筋に力を入れ、全力で防御しにかかる。


 剣から手を離し、逃げないディランさんの腹部へ拳を放った。


 レベル1000の全力のパンチが炸裂する。


「おぐっ——!?」


 ディランさんが冗談のように吹き飛び、地面にバウンドすることなくコロシアムの壁に激突。深々と穴を空けて埋まった。


 周囲の空気が完全に沈黙する。




————————————

あとがき。


※反面教師教師からのお知らせ!

明日、一応近況ノートに書きますが、

作者の新作を出します!初日は2話投稿!

ジャンルは異世界ファンタジーとなります!

どうか見ていただけると嬉しいです!

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