第116話 信仰されそう

 血肉が飛び散る。


 我を忘れて行動したことは反省すべき点だが、そのおかげでほぼ全てのオークを皆殺しにすることができた。


 大半のオークは村の中央に集まっていたので、まとめて聖属性魔法スキルで処理する。


 ひときわ大きく、人の言葉を介するオークもいたが、そいつは僕のグーパン一撃で上半身を消失した。


 弱すぎて封印を解放する必要がなかったくらいだ。


 けど、派手にぶち殺したおかげで僕の溜飲も少しは下がる。


 変わりに、虐殺のかぎりを行ったことで、中央広場には不思議な沈黙が漂っていた。


 冷静になって、さすがにやりすぎたかと反省したが、


「あ、あのー……大丈夫ですか?」


 と声をかけたところ、村人たちから歓喜の声があがった。


 どうやら、恐怖と驚愕で反応が遅れていただけらしい。


 自分たちが助かったことを理解すると、その場のだれもが喜び、胸を撫で下ろし、涙をこぼした。


 しばしその場で生存者の確認をしていると、後ろからアウリエルたちがやってくる。


 すでに全てが終わったことを伝えると、アウリエルはただ一言、「ありがとうございます。我が国の民を救ってくれて」と感謝を伝えてきた。




 ▼




「本当に、本当に……本当にありがとうございました、マーリンさま!」


 村の中で一番偉いはずの村長が、地面に額をこすり付けながら土下座していた。


 その後ろに、軽傷ながらも傷付いた息子と、服が少しだけ破けている娘も並ぶ。


「そ、そこまでしなくてもいいですよ! オークに襲われたあとなんですから楽にしてください。とりあえず娘さんには新しい服を。息子さんには治癒魔法をかけますね」


 娘さんの着替えはソフィアたちに任せ、息子さんの傷は僕が治す。


 村長の話によると、およそ二割ほどの村人がオークに殺されたらしい。


 唯一幸いだったのは、最後に殴り殺すために用意されていたと思う子供の犠牲者がゼロなのと、僕が駆けつけるのが早かったおかげで女性の性被害がなかったことだ。


 逆に言えば、早く駆けつけたにも関わらず、二割の男性が死んだ。


 これは決して少なくない数ではない。


「オークから助けていただいたのに、傷付いた村人に治癒までかけてくださって……」


「いえいえ。困ったときはお互い様ですよ」


「本当にありがとうございます」


 村長と話し合った結果、僕たちは彼らからなにか報酬を受け取ることはしなかった。


 金品や食べ物を渡すと村長は言ってくれたが、ただでさえ甚大な被害をこうむった村から何かをもらうなんて良心が耐えられない。


 その代わり、この村が立ち直ったときにでも国へ返してください、と言っておいた。


 アウリエルからの好感度がさらに上がったように思える。




「さすがですマーリンさま! もうマーリンさまの神々しさは上限を知りませんね。わたくし、体が火照って——」


「はいはい。どうでもいいから静かにしてようね~。不謹慎だよアウリエル」


 暴走しそうになったアウリエルを諌めて村の入り口へ向かう。


 もう僕たちにできることはほとんどない。僕たちもまた王都を目指さなきゃいけない理由がある。


 ただ、このまま防壁すら壊れた村を放置していては、次のモンスターの襲撃に耐えることはできない。


 そこで、哀しげに瞳を伏せていたアウリエルを放っておけない僕は、急いで土属性魔法スキルを習得した。


 レベルマックスのこのスキルがあれば、神様のお墨付きで村の周囲に強固な壁が作れる。


 そう思って魔力のかぎりを注いで村を覆う土壁を作ってみた。


 この魔法は、こめる魔力によって強度が変わるらしい。


 それゆえに、僕はレベル500のすべての魔力をそこで使った。


 すると、僕が殴っても壊れないくらい固い壁が出来上がる。


 これならオークが来ても問題ないだろう。ついでに周りの木々を伐採。壁の前に穴を開けて防衛力を強化する。


 村人たちからは神様のように感謝された。


 村を出るときも、拍手や感謝、祈る者まで現れる始末。


 それを見て、アウリエルが、


「マーリンさま、姿を見せてあげてはどうでしょう? 信仰の対象になりますよ?」


 と言ったので却下する。


 すでに信仰が生まれそうな状況なのに、外見まで晒したらヤバいことになる。


 近くで話した村長なんかは僕の外見にうすうすは気付いているだろうが、僕のことを考えて見なかったことにしてくれた。


 その上で、手を振って別れる。


 外で待っていた馬車と合流すると、御者のおじさんは、


「知り合いの村を守ってくれてありがとうございます、お客さん」


 と泣きながら感謝してくれた。




 今日だけで色んな人から感謝されたな……僕は、ぜんぜん間に合わなかったというのに。


 遠ざかっていく村を眺めながら、死んだ村人たちに内心で謝る。


 もう少し早く助けることができれば、あるいは、と。


 だが、それはあくまで仮定に過ぎない。結果はどうあれ、それを受け入れるしかなかった。


 僕らの旅はまだまだ続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る