第115話 死神

 アウリエルを王都まで護衛するためにセニヨンの町を離れて数時間。


 順調だったはずの旅は、僕が探知系のスキルを使ったことで終わりを迎える。


 モンスターに追いかけられている女性。彼女を救い、近くにあるという村まで足を運ぶと……そこはすでに、複数のモンスターによって防壁などが破壊されていた。


 村の中から人の悲鳴が聞こえる。


 それを聞いて、慌てて女性が村のほうへと走っていく。


 彼女を追いかけながら、僕の中でふつふつと怒りの炎が燃え上がる。




 ▼




 村の中に入る。


 あちこちに建てられた家は、そのほとんどが壊されていた。


 オークの体格では家の中に入れないため、人間を探すために壊したのだろう。


 そこかしこに死体も見える。数は少ないが、どれも悲惨な状態だ。


「ああ! 嫌ッ! どうして、みんな……!」


 村娘が、知り合いの死体を見て膝を折る。


「アウリエルたちは彼女のそばについててあげて。あんまりアウリエルから離れたくはないんだけど……なにかあったらすぐに戻るから」


「は、はい……わかりました」


 動揺したアウリエルの声が返ってくる。たぶん、僕の様子を見て不安がっている。


 でもごめんね。どうしても怒りを抑えられない。こんな酷いことをするモンスターを殺し尽くさなきゃ、僕の怒りが静まらない。


 あとのことはアウリエルたちに任せて、僕はまっすぐに村の中央へと向かった。




 ▼




 道中、村を襲っているオークを見つける。


 僕は拳を握り締めた。


 オークもこちらの気配に気付く。下卑た笑みのまま、人間の亡骸を掴んだ状態でこちらにやってくる。


 もう片方の手で持った武器を振り下ろしたので、容赦なく僕は自らの能力を解放した。


「封印解除。——レベル1000」


 バキッ!


 オークが手にした棍棒が、僕に当たって粉々に砕ける。


 レベル300もないオークごときが、レベル1000の僕にダメージを与えられるはずがない。


 驚愕におののくオークの懐へ入り、そのたるんだ腹を殴る。


 パァッッッンン!!


 オークの腹に穴が開いた。


 大量の鮮血を撒き散らし、オークが一撃で絶命する。


 倒れたオークを一瞥もせずに、さらに僕は先を目指す。この村にいるオークはすべて皆殺しだ。それが僕の中での決断である。




 ▼




「グヒヒ! 今日は大量大量! しばらく食料には困らねぇなぁ」


 マーリンが単独行動を開始した直後、村の中央にある村長の家を破壊して居座るボスのオークが、流暢な言葉で喋る。


 このオークは村に押し入ったオークたちのリーダー。


 レベルも200以上と高く、オークたちを束ねるための知能を持つ。


 そんなオークのそばには、いまだ生きている女子供、重症を負った男たちが集められていた。


 これはすべてオークたちの食料だ。


 女の使い道は当然、食料以外にもある。ゆえに女は殺さなかった。


 子供を活かしておいたのは偶然で、別に殺さないからじゃない。


 その証拠に、涎を垂らしながらオークはどの男や子供を食べようかと品定めしている。


 するとそこへ、オーク討伐へやってきたマーリンが現れる。




「……あん? 誰だ、アイツ」


 オークたちからしたら、謎の白いローブの男が現れた、くらいの認識でしかなかった。


 しかし、道の先には他にもオークたちが何体かいたはず。それを倒したにしては血がついていない。


 妙な胸騒ぎを覚えながら、そばに置いてあった巨大な斧を手にする。


「てめぇ、何者だ? どうしてこの村にいる。そもそも俺様の部下はどうした?」


「…………オークが人の言葉を喋るのか。ということは、お前には知能があるな?」


 オークの言葉を無視して、ローブの男は一方的に問う。


「だったらなんだ。命乞いが通用するとでも思ったか? 生憎と、男は皆殺しだ。おまえらは役に立たないからなぁ」


 そう言ってリーダー格のオークは人混みを越えてローブの男の前に立つ。


 ローブの男はオークを見ることなく人質のほうへ視線を向けていた。


「そうか……知性はあっても、人とオークの共存は無理か。どうしてお前らは、人間からそう簡単に奪える。いや、人間もまた動物を殺して生きているのだから同じか。魔物と人間は共存できないのかもしれない」


「ああ? なに意味わかんねぇこと言ってんだよ、——死ね!」


 ローブの男へオークがおもむろに斧を振り下ろした。


 背後から女性の悲鳴が響く。


 しかし、ローブの男は防ぐそぶりすら見せずに立ったまま——武器を破壊した。


 ガラスが砕けるように斧の刃が粉々に散乱する。


 大して男は無傷だった。ローブにしわ一つ付いていない。


「ば、馬鹿な!?」


 動揺するオークに、ようやくローブの男は視線を向けた。


 黄金色の瞳から、あまりにも濃密な殺気が放たれる。




 その瞬間、オークは理解した。


 コイツは、自分たちを殺しにきた死神だと。


 村の中央広場では、オークたちの悲鳴が響いた。


———————————————————————

あとがき。


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