第114話 オーク襲撃
アウリエルを王都に送り届けるついでに、僕たちの旅が始まった。
セニヨンの町を出て数時間。アウリエルたちと楽しく談笑していると、そこでふいに、僕の探知スキルが不穏な影を捉える。
複数のモンスターに女性が追われていた。
気になった僕は前回の反省を踏まえて、アウリエルをお姫様抱っこしながら馬車から降りる。
喜ぶ彼女を連れて一緒に逃げる女性のほうへと向かった。
走ること数分。
すぐにモンスターと一般人女性と思われる集団に出会う。
女性は僕たちを見て逃げるように言うが、対する僕たちは、アウリエルが女性の治療を、僕がモンスターを倒すという役割で動いた。
その結果……。
▼
「ふう……これで最後かな」
オークの胸元に大きな穴を開けて、最後の一匹が地面に倒れる。
鈍い音を立ててわずかに地面が揺れた。
周囲に転がる大量のオークを見下ろして、僕はホッと胸をなで下ろす。
「お疲れ様です、マーリンさま。こちらの治療も終わりましたよ」
振り返ると、こちらの戦闘を見守っていた二人の女性が視界に映る。
そのうちの一人、アウリエルがにこやかに笑ってそう言った。
「アウリエルもお疲れ様。彼女が元気そうでよかったよ」
「出会った数十分でもう彼女ですか!?」
「呼び方呼び方」
きしゃー、とアウリエルが急に暴走する。
いくら僕でもそこまで手は早くない。というか、こんな状況で彼女を口説いていたら最低の外道すぎるだろ。
「……とまあ、冗談はさておき。もうオークは全滅したのでご安心ください。立てますか?」
くすくす、とテンションを切り替えてアウリエルが女性に手を差し出す。
女性は、半ば反射的にその手を握ると立ち上がった。
「えっと……その……ありがとうございます」
「どういたしまして」
どうやらオークがばったばたと倒されて放心してるらしい。
気持ちはわかるが、彼女には聞かないといけないことがある。ちゃんと答えてくれるといいんだけど……。
「それで、あなたはなぜオークに追いかけられていたんですか? それも、こんな森の中で」
見るからに彼女は冒険者じゃない。装備どころかまともな戦闘力があるとすら思えない。
事実、鑑定スキルで見たらレベル1。これでよくオークたちから逃げられたものだと感心する。
「ハッ! そ、そうです! オークが、オークが私の村に!」
バッと弾かれたように女性が僕の足にすがり寄ってくる。
ズボンをローブごと引っ張り、涙を滲ませて懇願した。
「お願いです……! た、助けてください! みんなが、オークに……!」
「落ち着いて。ゆっくり話してください。あなたの村はどこにありますか?」
「ここから北西のほうにあります! 私なら案内できます!」
「では一緒に行きましょう。急いでるようなので、我々の仲間に手短に報告だけして」
そう伝えると、アウリエルに目配せをする。彼女はこくりと頷き、僕の意図を察してくれた。
正直、二人となるとあまり気乗りはしないが、彼女の話では村人の命がかかっている。
そんな状況で気乗りうんぬんと言ってる場合でもなかった。
大きく息を吐いて、少しだけ混乱してる彼女を片手で持ち上げる。まるで荷物のように。
もう片方の手でアウリエルを担ぐと、たいへん彼女には申し訳ないが走り出す。
これが二人を運ぶのに最適な形だ。きっと。
内心で彼女たちに謝りながらも、先行してる馬車のほうへ急いで向かった。
ソフィアたちにオークに襲われている村があることを伝えなきゃいけない。
▼
急いでソフィアたちの下へ戻る。
ソフィアたちは僕が無事だったことを喜び、ひとり新しい女性が増えていることに表情を曇らせた。が、直後、僕の話を聞いて真面目になる。
用件は簡単だ。
彼女の村がオークに襲われているから、ちょっと討伐してくる、というもの。
ソフィアたちもついてこようとしたので、御者のおじいさんにお願いして、その村まで来てもらうことにした。
幸い、そのおじいさんは彼女の村の場所を知っているらしい。
アウリエルと離れるのは不安なので、またしても二人には悪いが、荷物のような持ち方のまま移動する。
木々の隙間を縫うように駆け抜け、道中、出てくる雑魚はすべて無視した。
モンスターの近くを跳躍する光景は、一般人でしかない村娘にはかなり刺激が強かったらしい。
何度も右手で持った女性が悲鳴をあげている。
しかし、今は一大事なので彼女の悲鳴はスルーした。
ちくいち村の方角を修正しながら走ると、数十分くらいで集落の近くに到着する。
到着して、目を疑った。
「こ、これは……」
村を覆う木製の太い柵。それがモンスター対策と言うのは見ればわかる。
が、その柵は無残にもなぎ倒され、村のあちこちから煙があがっていた。近くに寄ると男女の悲鳴も聞こえる。
「あ、ああ……そんな!」
抱えていた女性を地面に下ろす。彼女は顔を青くして村の中へ走っていった。
慌ててその背中を追いかける中、僕はふつふつと胸中で言い知れぬ怒りを抱いていた。
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