三章

第108話 大事な話

 魔族に殺されかけたアウリエル一行。


 ギルドマスターとの話し合いを終えると、すぐに僕とアウリエルはセニヨンの街を立つことになった。


 アウリエルは少しでも父親の機嫌を保つために。僕は彼女を王都まで無事に届けるために。




 冒険者ギルドから出て、泊まっている宿に戻る頃には、すっかりみんなヘトヘトになっていた。


 受付で部屋の鍵を受け取り、アウリエルと共に二階へ。


 お互いに部屋に入り、僕は力なくベッドに倒れた。


「ふう~……今日は忙しい一日だったなぁ」


 正確にはまだ一日終わっていない。これからまだ時間がある。けど、そう断定するのに困らないほどの窮地に立たされた。


 僕が少しでも遅れていたら、蘇生スキルを持たない残りのメンバーは危なかっただろう。


 アウリエルが殺されていたら、本当に問題になっていた。


「これから王都へ行く道中、何事もないといいけど……」


 心配なのはそれだけだ。


 また同じような魔族が現れて、アウリエルを殺そうとする可能性はある。


 何が目的でアウリエルをアイツが狙ったのかは知らないが、単独犯と考えるよりそのほうがいいだろう。


 それに、あの隷属の首輪。


 もともとは帝国産らしいから、今回の件に帝国が関わってる可能性もある。


 そうなると、アウリエルが殺されたら戦争になる可能性だってある。


 僕が彼女の父親なら、到底許せることではない。


「二つの国の行く末が、もしかすると僕の肩に圧し掛かってる可能性があるのか……深刻だな」


 僕は異世界から転生したばかりの人間だ。能力はあってもそこそこ若い。


 そんな僕に、国の行く末とか握らされても困るよ。戦争が起こると決まったわけではないが、確率は高い。


 楽観視してアウリエルを殺されるくらいなら、それくらいピリピリと警戒して挑むべきだ。


 絶対に彼女は死なせない。最悪、僕が全力を出してでも守ってみせる。


「あ……そう言えば、カメリアとも話し合わないと……」


 僕はしばらく王都へ行く。戻ってこないわけではないが、帰るのはずいぶんと遅れるはずだ。


 そのあいだ、僕はカメリアとは会えないし話せない。他のメンバーは僕が王都へ行くことを知っているが、カメリアにはまだ話していなかった。


 拗れる前に話さないとな……僕と彼女は、単純な関係ではないのだから。


 そう思って体を動かそうとすると、それ以上の睡魔に襲われて……僕はゆっくりと瞼を閉じた。


 まずい、と思ってもこれには抗えない。




 ▼




 暗闇の中で意識が覚醒する。


 目を開ける前に、誰かが僕の髪を撫でているのが解った。


 誰だろう。気になって瞼を開けると、目の前には見知った顔が映った。


「あ、おはようございます、マーリンさん」


 カメリアだ。ニコニコと笑みを浮かべて僕を見下ろしている。


 後頭部に感じるやわかな感触に遅れて気付いた。これは膝枕をされている、と。


「……おはよう、カメリア。どうして君が僕の部屋に?」


「夕食に呼んでも返事がなかったので。あと、ちょっと話したいことがありました」


「話したいこと? 奇遇だね、僕もあるんだ」


「奇遇ですね」


 お互いになぜかくすくす笑う。


 静かな空気に、明かりで照らされた部屋。その中には、お互いに見つめ合う僕たちしかいない。




「……マーリンさん、王都へ行っちゃうそうですね」


「え? な、なんでそれを?」


 あれ? 僕、カメリアに王都へ行くって伝えたっけ? まだ言ってなかったような、言ったことがあるような……。


「アウリエル殿下から聞きました。先ほど、最後になるかもしれないから、悔いのないように話したほうがいいと」


「なるほど、アウリエルが……。よかったよ、カメリアとこうして話せて。僕もそのことで君に話があったんだ」


 未だ僕の中でも結論は出ていない。明確にこうしたほうがいい、という案もないし、確証もなにも見えない。


 それでも、本能が語りかけてくる。そうするべきだと。


 だから僕は、どこか表情の暗いカメリアの手を取った。


 膝枕された状態では格好がつかない。そのままゆっくりと起き上がると、彼女の手を握ったまま正面を向いた。


 ジッと、真剣にカメリアを見つめる。


「アウリエルの言うとおり、僕は彼女と一緒に王都へ行く。観光もするつもりだから、この街に帰ってくるのがいつになるかも解らない」


 おまけで他の街にも行きたいと思ってる。一年や二年ではないのかもしれない。


「たぶん、しばらくは帰ってこない」


「はい……そうだと思ってました。アウリエル殿下も同じことを言ってたので」


 さすがはアウリエル、と言うべきか。僕のことはお見通しらしい。


 先にカメリアへ伝えてくれたおかげで、話はスムーズに進む。


 あとは僕の覚悟を見せるだけ。


 ごくりと、生唾を飲み込んで決意する。




「だから……こんなこと本当は言いたくないけど、カメリアにはお願いがあるんだ。僕と……僕と一緒に————旅をしてほしい!」

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