第106話 ヴィヴィアン気絶する

 突如、魔族を名乗る謎の男に襲撃された僕たち。


 魔族は強かった。


 レベル500の僕を軽々と遠方へ吹き飛ばし、2級危険種のモンスターをたくさん配下にしていた。


 ソフィアは殺され、ノイズもアウリエルもエアリーも傷付いた。


 全滅は必至かと思われたが、ノイズたちの奮戦により僕がアウリエルの下へ辿り着き、レベルを5000にまで戻して戦闘を行う。


 およそ2000ほどの魔族では、その倍以上ある僕には勝てない。


 最終的には一方的に魔族を痛めつけて倒す。


 そして、死んでいたはずのソフィアが、僕たちにも話していなかった秘密のスキル〝不死身〟により蘇生し、なんとか、誰ひとりとして欠けることなくセニヨンの街に戻った。




 ▼




 正門を抜けると、先ほどまでの騒動が嘘のように賑やかで平和な光景が視界に入る。


 僕たち一向は、ボロボロになって帰ってきた。


 正門を守る兵士たちには、


「だ、大丈夫か? なんでそんなにボロボロに……いや、モンスターに襲われたんだな。気の毒に……」


 と言われ、現在、街の住民たちにじろじろ見られていた。


「すっごい見られてるね」


「見られてますわね」


「見られてますねぇ」


「見られてる」


「見られてます」


 僕、アウリエル、ノイズ、ソフィア、エアリーの順に同じことを口にする。


 うち二人がローブにフードを被った不審者とくれば、汚れも含めて注目を集めるのは当然だった。


「まあいいや。さっさと冒険者ギルドに行こう。今日の件をヴィヴィアンさんには報告したほうがいいだろうしね」


「そうですね。ヴィヴィアンに王国へ手紙を出してもらいましょう。事前に話を聞いておけば、少しは話す手間が省けると思います」


 アウリエルが同意したことで、僕たちは人目を避けながら冒険者ギルドへと向かった。




 ▼




 しばらく正門を西に、なだらかな勾配の坂をのぼっていく。


 何人かの冒険者がすれ違ったが、町の住民たちと違って彼らはあまり僕たちに興味を示さなかった。


 僕の素顔を知ってると思われる女性が、ちらちらと熱い視線を向けてくるだけで、ボロボロになった僕以外のメンバーたちには、ほとんど一瞥すらしない。


 さすがは荒事専門の冒険者。


 恐らく、彼らからしたらこの程度の被害は当たり前なんだろう。


 よく目にする光景だからこそ気にならない。そんなところだ。


 坂を上りきり、冒険者ギルドのホームが見えてくる。


 相変わらず賑やかな喧騒を耳に流して、僕たちはギルド内部へと足を踏み入れた。


 むわっと酒の、アルコールの臭いがする。


 ソフィアやエアリー、ノイズにアウリエルはこの臭いが苦手なのか、表情を固くして鼻を摘んでいた。


 僕もあまり得意ではない。口呼吸に切り替えて、急いで受付に向かう。


 受付の従業員にギルドマスターと話ができるかどうかを確認すると、問題なく二階の部屋へ通された。


 扉を開けると、仕事中のヴィヴィアンさんを見つける。




「あらみんな。どうしたの。またなにかあった?」


 僕たちを見るなり、ヴィヴィアンさんは笑顔で対応してくれる。


 前回がワンバーンの件だったから、少しだけ彼女の笑みに引き攣ったような震えが見えた。


 魔族の件、話したら発狂するんじゃないかな?


「こんにちは、ヴィヴィアン。たしかにワイバーンやアラクネは出ましたが、すべてマーリンさまが討伐しましたよ」


「また出たの!?」


 ばしん、と机を叩いてヴィヴィアンが席から立ち上がる。


 顔が真っ青になっていた。


「ええ。そのことも含めて話したいことが。先に言っておきますが、全部解決しているので安心してください」


「その言い方からして、かなりの厄介事みたいね……いいわ、聞きましょう」


 ヴィヴィアンさんを含めたその場の全員がソファに座り、代表としてアウリエルが説明を始める。


 魔族に襲われたこと。


 僕が大量の2級危険種を倒したこと。


 前回のワイバーンを含めて、魔族がモンスターを操っていたこと。


 ソフィアたちが死にかけたことなど、すべてヴィヴィアンさんに話す。


 唯一、ソフィアが死んで特殊なスキルで蘇った件は秘密だ。


 実際に見たメンバー以外には話さないでおくことにした。




 すると、アウリエルの話を黙って聞き終えたギルドマスターは、


「…………」


 チーン。


 白目を剥いて気絶した。


「起きてください」


 バチンッ。


 アウリエルが容赦なくギルドマスターの頬を叩く。


 一発、二発ときて彼女は意識を取り戻した。


「ちょっと、痛いじゃない! なにするのよ!」


「ヴィヴィアンが安易に気絶して現実逃避するからです。逃げないでください」


「どうしろっていうのよ! 魔族なんて私だって見たことないわよ!?」


「そうでしょうね。大昔にいた邪悪な種族らしいですから。人類との戦争に負けて絶滅したとばかり思ってました」


「そもそも、どうやってそんなバケモノに勝ったのよ。私としてはそっちのほうが気になるんだけど」


 ちら、ちらちら。ちら。


 全員の視線が、一斉に僕に突き刺さった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る