第106話 ヴィヴィアン気絶する
突如、魔族を名乗る謎の男に襲撃された僕たち。
魔族は強かった。
レベル500の僕を軽々と遠方へ吹き飛ばし、2級危険種のモンスターをたくさん配下にしていた。
ソフィアは殺され、ノイズもアウリエルもエアリーも傷付いた。
全滅は必至かと思われたが、ノイズたちの奮戦により僕がアウリエルの下へ辿り着き、レベルを5000にまで戻して戦闘を行う。
およそ2000ほどの魔族では、その倍以上ある僕には勝てない。
最終的には一方的に魔族を痛めつけて倒す。
そして、死んでいたはずのソフィアが、僕たちにも話していなかった秘密のスキル〝不死身〟により蘇生し、なんとか、誰ひとりとして欠けることなくセニヨンの街に戻った。
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正門を抜けると、先ほどまでの騒動が嘘のように賑やかで平和な光景が視界に入る。
僕たち一向は、ボロボロになって帰ってきた。
正門を守る兵士たちには、
「だ、大丈夫か? なんでそんなにボロボロに……いや、モンスターに襲われたんだな。気の毒に……」
と言われ、現在、街の住民たちにじろじろ見られていた。
「すっごい見られてるね」
「見られてますわね」
「見られてますねぇ」
「見られてる」
「見られてます」
僕、アウリエル、ノイズ、ソフィア、エアリーの順に同じことを口にする。
うち二人がローブにフードを被った不審者とくれば、汚れも含めて注目を集めるのは当然だった。
「まあいいや。さっさと冒険者ギルドに行こう。今日の件をヴィヴィアンさんには報告したほうがいいだろうしね」
「そうですね。ヴィヴィアンに王国へ手紙を出してもらいましょう。事前に話を聞いておけば、少しは話す手間が省けると思います」
アウリエルが同意したことで、僕たちは人目を避けながら冒険者ギルドへと向かった。
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しばらく正門を西に、なだらかな勾配の坂をのぼっていく。
何人かの冒険者がすれ違ったが、町の住民たちと違って彼らはあまり僕たちに興味を示さなかった。
僕の素顔を知ってると思われる女性が、ちらちらと熱い視線を向けてくるだけで、ボロボロになった僕以外のメンバーたちには、ほとんど一瞥すらしない。
さすがは荒事専門の冒険者。
恐らく、彼らからしたらこの程度の被害は当たり前なんだろう。
よく目にする光景だからこそ気にならない。そんなところだ。
坂を上りきり、冒険者ギルドのホームが見えてくる。
相変わらず賑やかな喧騒を耳に流して、僕たちはギルド内部へと足を踏み入れた。
むわっと酒の、アルコールの臭いがする。
ソフィアやエアリー、ノイズにアウリエルはこの臭いが苦手なのか、表情を固くして鼻を摘んでいた。
僕もあまり得意ではない。口呼吸に切り替えて、急いで受付に向かう。
受付の従業員にギルドマスターと話ができるかどうかを確認すると、問題なく二階の部屋へ通された。
扉を開けると、仕事中のヴィヴィアンさんを見つける。
「あらみんな。どうしたの。またなにかあった?」
僕たちを見るなり、ヴィヴィアンさんは笑顔で対応してくれる。
前回がワンバーンの件だったから、少しだけ彼女の笑みに引き攣ったような震えが見えた。
魔族の件、話したら発狂するんじゃないかな?
「こんにちは、ヴィヴィアン。たしかにワイバーンやアラクネは出ましたが、すべてマーリンさまが討伐しましたよ」
「また出たの!?」
ばしん、と机を叩いてヴィヴィアンが席から立ち上がる。
顔が真っ青になっていた。
「ええ。そのことも含めて話したいことが。先に言っておきますが、全部解決しているので安心してください」
「その言い方からして、かなりの厄介事みたいね……いいわ、聞きましょう」
ヴィヴィアンさんを含めたその場の全員がソファに座り、代表としてアウリエルが説明を始める。
魔族に襲われたこと。
僕が大量の2級危険種を倒したこと。
前回のワイバーンを含めて、魔族がモンスターを操っていたこと。
ソフィアたちが死にかけたことなど、すべてヴィヴィアンさんに話す。
唯一、ソフィアが死んで特殊なスキルで蘇った件は秘密だ。
実際に見たメンバー以外には話さないでおくことにした。
すると、アウリエルの話を黙って聞き終えたギルドマスターは、
「…………」
チーン。
白目を剥いて気絶した。
「起きてください」
バチンッ。
アウリエルが容赦なくギルドマスターの頬を叩く。
一発、二発ときて彼女は意識を取り戻した。
「ちょっと、痛いじゃない! なにするのよ!」
「ヴィヴィアンが安易に気絶して現実逃避するからです。逃げないでください」
「どうしろっていうのよ! 魔族なんて私だって見たことないわよ!?」
「そうでしょうね。大昔にいた邪悪な種族らしいですから。人類との戦争に負けて絶滅したとばかり思ってました」
「そもそも、どうやってそんなバケモノに勝ったのよ。私としてはそっちのほうが気になるんだけど」
ちら、ちらちら。ちら。
全員の視線が、一斉に僕に突き刺さった。
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