第102話 僕は許さない

 ソフィアを殺した男を前にすると、ふつふつと黒い感情が湧いて止まらない。


 第二封印だけでも十分に勝てるが、僕は遠慮なく第三封印も解除した。


 現在、僕のレベルは5000。


 先ほどまでの五倍の能力が全身を駆け巡った。


 正直、負ける気がしない。


「調子に乗るなよ、クソガキがああああ!!」


 男が目の前にやってくる。


 拳を引いて全力の一撃を放った。その一撃が、僕の頬を抉る。


 しかし、




「な、なあっ!?」


 男の拳は、僕を吹き飛ばすこともなく周囲の地面を砕いただけだった。荒れ狂うほどの風が起きても、一歩たりとも僕は動いちゃいない。


 首と胴体も繋がっている。血も出ていない。


 圧倒的なステータスが、男の攻撃を正面から受けてもダメージをほとんど通さなかった。


 ゼロではないが、かぎりなくゼロに近い。


「な、なんで……さっきまで俺様の力に、手も足も出なかったじゃねぇか! ふざけるなああああ!!」


 何度も男が顔を殴る。


 右、左、右、顎、頭部。


 でたらめに体を殴っていくが、どれだけ地面を砕き荒らしても、僕にはダメージなどない。


 涼しい表情のまま、何度も何度も何度も何度も男による攻撃を受け止めた。


 いずれ、相手のほうが体力を消費し尽くして動きを止める。


 荒い呼吸を繰り返して、玉のような汗を流していた。


「ハァ……ハァ……ハァ!」


「どうした? もう終わりか? 思ったより弱かったな」


 レベル2000もこんなものか。


 他に奥の手もなさそうだし、コイツができるのは雑魚を率いて調子に乗ることだけ。


 つまらない。つまらない存在だ。


「なんなんだ……なんなんだお前はあああああああ!」


 もう一度、拳を握りしめて男が攻撃モーションに入る。


 男にはスキルという概念がなかった。その分ステータスが高いのか知らないが、何度殴っても無駄だと先ほど理解しただろう。


 次はない。男の拳が僕の顔に届くより先に、無造作に相手を蹴り飛ばす。


 腕と足では、足のほうが圧倒的にリーチに優れる。


 おまけに僕のSTRは相手のVITより上だ。凄まじい衝撃を受けて、男がはるか遠方へ吹き飛ばされていった。


 手加減してもこれか。


 やれやれ、すぐに死なれたら困るな、と思いながら男を追いかける。


 木々をなぎ倒して男は地面を転がった。


 およそ数キロ先まで吹き飛ぶ。しっかりアウリエルたちがいないほうへ蹴り飛ばしたが、念のため索敵スキルを使ってアウリエルたちの無事を確認する。


 周囲にモンスターがいないので、安心して相手を殴り殺せる。


「ぐ……あぁ! いてぇ! いてぇ、よぉ……!」


 男は腹を押さえて蹲っていた。


 きっと胴体の骨はほとんど粉々だろう。臓器もいくつも破壊した。


 それでもあれだけ動けるのは、相手が相当生命力が高い証拠。


 そのことにむしろホッとする。


 男のもとへ歩み寄ると、顔を上げた相手の——足を踏みつけて折る。


 鈍い音が聞こえた。次いで、痛みで男が発狂する。


「いちいちうるさいな……たかが足を折られたくらいで大袈裟なんだよ。死んでないんだから感謝しろ」


 ソフィアはお前のせいでもっと苦しい思いをした。もう戻ってはこない。あの笑顔を見せてはくれない。笑いかけてくれない。


 話すことも、できない——。


 バキッ。


 今度は腕をへし折る。簡単には再生できないように粉々にした。


 また男が叫ぶ。いい加減うるさかったので、聖属性魔法スキルの出力を絞って、男の喉を撃ち抜いた。


 これで声帯も潰した。コイツは生命力が高いから、喉を貫かれても死なない。熱で焼ききったから血もほとんど出ない。再生するからまだ甚振れる。




 逃げるように男が地面を転がった。


 泣きながら慈悲を乞うように僕を見るが、そんなことは関係ない。


 か弱い子犬であろうと。優しさに溢れた聖女であろうと。世界を平和に導く女神だろうと。


 僕の大切な存在に手を出した以上は、その代償を払ってもらう。


 そうしないと、湧き上がる怒りが抑えられない。


 目に映る全てを壊したくなる。


 だから、その想いをすべて目の前の男に乗せる。


 しょうがないよね。だって、悪いのはお前なんだから。


 きっと僕は悪い顔をしてる。冷静じゃない。あとで後悔する。


 そうわかっているのに、なにがなんでも暴力を振りかざさないと気がすまなかった。


 足を上げて、徐々に再生してきた男の身体に狙いを定める。


 必死に逃げようとする男の、無防備な背中に足をかけ——。


 めりめりめり、と嫌な音が聞こえた。

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