第101話 第三封印解除

 レベルの差があるだろうに、わざわざ僕の前に立ちふさがろうとするモンスターは全て殺した。


 一番強いと思われるワイバーンですらレベル500程度。


 現在僕のレベルは1000だ。


 前回は微妙に苦戦したワイバーンを、風を貫いて殴り殺す。


 そして、勢いのままにアウリエルたちのもとへ急いだ。


 ほんの一瞬にして飛ばされた距離を踏破した僕は、しかし、すでに間に合うことはなかった。




 木々の隙間を越えてもとの場所に戻ると、アウリエルとノイズ、エアリーは重症を負い、ソフィアは胸から血を流して動かない。


 そんな惨状を見て、胸中にどす黒い感情が湧いた。


「おいおい……どんな手品だ? あれだけいた俺様のペットたちを倒してきたのか? もう?」


 謎の男が話しかけてくるが、そんなものは耳に入らない。


 急いでソフィアのもとへ駆け寄ると、彼女の容体を見る。


 胸に触れてみると、心臓の音は聞こえなかった。


 完全に死んでいる。脈もない。体温もどんどん下がって冷たくなっている。


 間違いなく絶命していた。


「俺様を無視するなよ、ヒューマン。ちったぁやるみたいだが、俺様には勝てないぜ? あんなペット、俺様の足元にも及ばないからな」


「……お前が殺したのか」


「あ?」


「お前が、彼女を殺したのか」


 ソフィアの亡骸を抱きしめる。


 手に血が付くがそんなものはお構いなしだ。


「その女なら俺が殺した。別の女を殺そうとしたら割り込んできやがってな。あまりにも脆くてビビッたぜ」


「そうか……よかった」


「よかった?」


 本当によかった。ソフィアの仇が討てる。


 心の底から、目の前の男を憎むことができる。




 ソフィアを地面に置いて、ゆらりと立ち上がった。


 異世界に転生してここまで怒りを抱いたのは初めてだ。


 どうしようもないくらいに胸が痛い。頭がガンガンする。


 目の前のすべてが憎たらしい。なにもかもを壊したくなる。


 純粋な復讐心を胸に、僕は地面を蹴った。


 男のもとへ肉薄すると、左足で横に相手を蹴り飛ばす。


 男は右腕を盾に攻撃をガード。


 鈍い音が発生するが、数メートルほどしか魔族は飛ばされなかった。


 平然と笑う。


「ははっ! なんだお前、急に強くなったな。前は手加減してたのか? おもしれぇ!」


「面白くねぇよ」


 もう一度、今度は男の腹を殴りつける。


 再びガードされ、ダメージもない。


「それがお前の全力か? まだまだ俺様より弱すぎるぜ! 本当の拳を見せてやる!」


 そう言って、反撃と言わんばかりに男が右ストレートを放つ。


 ——速い。


 僕より圧倒的に速かった。


 避けるのが間に合わず、腕をクロスしてガードする。


 衝撃が防御すら貫通して全身を襲った。衝撃にボールのように吹き飛ぶ。


 地面を何回もバウンドしながら大樹にぶつかって止まると、口から少量の血が滲んだ。


「おら、わかったかクソガキ。これが本物の拳だ。お前程度の雑魚が、俺様に勝てるはずがねぇんだよ」


 何十メートルも吹き飛んだ俺のもとへ男がやってくる。


 骨が痛い。体が軋む。


 鑑定スキルで相手のレベルを確認すると、レベルは2000以上。


 いまの僕では勝てなかった。防御もほとんど意味を成さない。


「わかったらさっさと死んでくれ。まだあのメスガキどもを痛めつけないといけないんだ。ひひ。あの美貌が歪むさまは最高だぜ。少しくらい犯すのもありだな。お前はどう思う?」


 ゆっくりと、悠長に歩いてくる男。


 話す言葉がうるさかった。内容が不愉快だった。存在が許せなかった。


 うるさい。うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい。


 返せ。返せ。返せ返せ返せ返せ返せ返せ!


 ソフィアを、僕たちの日常を…………返せ!!




 怒りがさらなる憎悪を生んだ。壁をぶち壊し、ドロドロっとした殺意を溢れさせる。




「——封印解除。第二、第三」




 自らに施した封印を、一気に二つも解除する。


 最初に解除した分を含めると、合計三つ。


 それすなわち、いまの俺のレベルは——。


「おぐえっ——!?」


 男の顔面を右側頭部から殴った。


 近付いた瞬間、男の驚愕に歪む顔が見れた。先ほどの僕と同じく、相手は攻撃をかわせない。


 無防備な状態で顔を殴られ、百メートルほどの距離を転がり跳ねる。


 周囲の地面も木々も破壊されたが、いまやそんなことはどうでもよかった。


 すぐに男のもとへ向かうと、顔から大量の血を流した男が、激情を抱いて叫んだ。


「てめええええええええ!! ふざけやがって! ふざけんなああああああ! この俺様に、俺様の顔に……クソガキがあああああぁぁ————!」


 キーン、と盛大な声が周囲に響く。


 だが、僕は無表情のまま言った。


「うるせぇな。お前の汚い断末魔なんて聞きたくないんだよ。さっさと死ね」




 現在、俺のレベルは——5000。


 これまでにない全能感が体を巡った。


 必ず、あいつは殺す。

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