第100話 一方その頃

 突然、マーリンを殴り飛ばした魔族。


 意味がわからないうちに戦闘することになったアウリエルたちだったが、魔族のレベルは高く、ほとんど太刀打ちできないでいた。


 そんな中、襲われた姉エアリーを守るべく、ソフィアが彼女を突き飛ばして攻撃を受ける。




 ——即死の一撃だった。


 深々と魔族の腕がソフィアの胸を抉り、心臓を潰して血が流れる。


「ソフィア!」


 急いでモンスターをけしかけるエアリー。


 だが、腕を抜いた魔族は、ソフィアを明後日のほうへ投げ飛ばしてモンスターたちを蹴散らす。


 完全に相手になっていなかった。


「そ、ソフィアさんが……!」


 自分のせいでソフィアが殺されたことが、アウリエルにとっては大きなショックだった。


 聖属性魔法スキルで攻撃を繰り出すが、当然、圧倒的格上の魔族には通じない。


 体に当たっても弾かれるくらいにはレベルの差がひらいていた。


 そこへノイズが帰ってくる。


「よくも、ソフィアを!!」


 叫びながら魔族へ突っ込む。


 牙や爪を用いて攻撃しようとするが、


「うるせぇよ雑魚が」


 まるで羽虫を払うかのように吹き飛ばされる。


「どいつもコイツも弱いくせにやる気だけはありやがる。生意気すぎて吐きそうだぜ。たかが女が一匹死んだくらいでぎゃあぎゃあ騒ぎやがって。すぐにお前らも殺してやるよ」


 ゆらりと、魔族のまとうオーラが強まった。


 冷たい感触が全員の背中を撫でる。しかし、黙って殺されるわけにはいかない。


 せめてマーリンが戻ってくるまでのあいだ、時間を稼ぐ必要があった。


 ノイズが再び地面を駆け、エアリーがモンスターを操り、アウリエルが魔法スキルによって攻撃する。


 それでも魔族にとっては子供の遊びでしかない。


 モンスターもノイズも簡単に蹴散らされ、アウリエルの攻撃はダメージが入らない。


 目の前にやってきた魔族を見て、アウリエルの体は震えた。


 まだ死にたくないと本能が抗う。


 それを見下ろした魔族は、くすくすっと笑った。


「いいねぇ、その顔。俺の大好物だ。お前を殺せって言われてるけど、少しくらい遊んでも構わないよなぁ? 俺は、女の悲痛に歪む顔が大好きなんだ」


 そう言うと、男はアウリエルの顔を殴った。


 ほとんど力を抜いた一撃だったが、それでもレベルの差がありすぎる。


 アウリエルは軽く後ろへ飛ぶと、地面を削りながら転がった。


「おいおい。いまので死んでないよなぁ? 楽しくなるのはここからだぜ?」


 アウリエルのもとへ行くと、血を吐き出しながらも彼女は生きていた。


 そのことにホッと胸を撫で下ろす魔族。簡単に死んだらここまで足を運んだ甲斐がなくなるところだった。


「あと数発くらいはもってくれるといいんだがな。頑張れよ、王女様!」


 アウリエルを蹴り上げようとする。




 しかし、それより先に魔族へエアリーが襲いかかった。


 剣の切っ先を魔族にぶつける。


 高いVITを誇る魔族の皮膚に、エアリーの剣は刺さらなかった。


 キンッ、という甲高い音を立てて止まる。


「あん? なんだお前。先に死にたかったのか? 少しずつ甚振ってやるから待ってろ——よっ」


「うぐっ!」


 今度はエアリーが殴られる。


 十メートル以上もの距離を跳ねて転がると、血を吐きながら倒れた。


 もはやその場の全員が瀕死である。


 ソフィアは死に、アウリエル、ノイズ、エアリーの三人が重症。


 対する魔族は、ほぼダメージはゼロでぴんぴんしていた。


 転がるエアリーが生きているのをたしかめると、邪悪な笑みを浮かべてアウリエルのほうへ視線を戻す。


 もう一度彼女を蹴り上げようとした、——そのとき。




「————ッ」


 ぞくり、と魔族の背筋に悪寒が走る。


 バッと背後を振り返るが、そこにはだれもいない。


 だが、魔族の男はたしかに感じた。どこからか、とてつもないオーラを。




 ▼




 時間はわずかに戻る。











 魔族の男に吹き飛ばされた僕は、凄まじい勢いで空を駆ける。


 なまじ空中にいるから速度を減速できない。ひとまず勢いが完全に失われるまで待った。


 すると、先ほどいた場所から一キロほど離れたところで止まる。


 どれだけの馬鹿力だと、痛む腕に治癒を施しながら愚痴った。


「早く戻らないと。あんな危ないヤツ、アウリエルたちが危険だ」


 急いで地面を蹴り上げて走ろうとすると、まるで図ったかのように複数のモンスターが現れる。


 僕を囲むように展開したのは、ワイバーンにアラクネ、ラハムに見たこともないモンスターが数体。


 確実の僕の足止めが目的だろう。


 囲んでいるモンスター全員に、あの不気味な拘束具のようなものが付いている。


「最初から僕を引き離して彼女たちを殺すつもりか……」


 冷静に答えを出して、——即座に封印を解放する。


「レベル1000。悪いが、お前たちの相手をしてる暇はないんだ」


 急激に高まったステータス。


 殺意を漲らせて、わずかに気圧されるモンスターたちを無視して走った。


 立ち塞がるモンスターは、たったの一撃で排除する。


———————————————————————

あとがき。


本編100話!!!

ありがとうございます!皆様のおかげで続けられた……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る