第99話 圧倒的な暴力

 薬草を採取しに来たマーリンたち。


 そんなマーリンたちの前に現れた巨大な蛇のモンスター、ラハムを倒した直後、マーリンが謎の男性に殴られ、遠くへ吹き飛ばされてしまう。


 その男性は、自らのことを、大昔に存在したとされる〝魔族〟と名乗った。


 魔族の男は、余裕の笑みを作ってアウリエルたちを見つめる。


「今ごろあの男は、俺様のペットたちが可愛がってるはずだ。ワイバーンごときに苦戦するくらいだからなぁ。あの数を用意すれば、倒せなくても時間くらいは稼げるだろ」


「くっ……早くマーリンさまのところへ向かわないと!」


「行かせると思うか? 言っとくが俺様は、ワイバーンなんて雑魚よりはるかに強いぜ? その証拠に——」


 ふっと、魔族の男がアウリエルたちの視界から消えた。


「なっ!?」


「——そう驚くなよ。ただ早く動いただけだぜ?」


「ッ」


 いつの間にか魔族は、アウリエルの背後に立っていた。


 攻撃していれば確実にアウリエルは殺されていただろう。


 アウリエルはもちろん、ノイズやエアリー、ソフィアもだれも魔族の動きを捉えることができなかった。


 その様子に、腰に手を当てて魔族はため息をつく。


「なんだ? いまの動きも見切れないくらいの雑魚かよ。こんなんなら、あのローブの男を殺したほうが楽しめたか?」


 慌ててなにもしない魔族から、アウリエルが距離を取る。


 それが無駄だとわかっていても、男のそばにはいたくなかった。


「せめて少しでもいいから俺を楽しませてくれよ。じゃないと、満足できなくて暴れそうだぜ」


 そう言うと、男はゆっくりと歩き出した。


 先ほどとは異なり、わかりやすい動きでアウリエルに近付く。


 そこへ、ノイズが全速力で突っ込む。


「————〝獣化〟!」


 叫び、その姿が獣へと変わる。


 二足歩行から四足歩行へ。さらに速度を上げて、一瞬にして魔族の下へ迫る。


 鋭い爪による攻撃が放たれた。


 しかし、


「おっと」


 魔族の男は、その攻撃を容易く見切った。ノイズの腕が掴まれる。


「なんだ、お前。珍しいスキルが使えるじゃねぇか。ビースト種の中でも特別なんだろ、それ。こんなもんか?」


「ぐるるるっ!」


 唸り、大きく息を吸う。


 獣化した状態で使える超大音量の攻撃。攻撃の軌道は見えず、肉体による防御は敵わない。


「グアァ————!!」


 溜めた酸素を、盛大な叫び声に変える。


 ほぼゼロ距離に立っていた魔族は、もろにその攻撃を喰らった。


 常人なら鼓膜が破れて脳すら揺さぶられる一撃。


 ——これならどうだ!?


 とノイズは男を見ると、


「うるせぇよ」


「ぐるあっ!?」


 魔族はぴんぴんしていた。


 顔をしかめるだけでダメージは受けていないように見える。


 そして、そのまま右手で殴られてノイズは吹き飛ばされた。


 軽い一撃が、ノイズの体を何度も地面に打ち付けて、五十メートル以上もの距離を転がる。


「ノイズさん!」


 エアリーが叫ぶ。


 続いて、彼女は即座に視線を魔族へと戻し、自らの奥の手を使った。




「————〝反魂術〟!」


 目の前の地面に、紫色の魔法陣が広がる。そこから複数のモンスターが現れた。


 弱い個体もいれば、ハブールといった個体もそこにはいる。


 このスキルは、エアリーが持つかなり希少なスキルだ。


 死んだモンスターをストックし、仮初めの命を与えて使役できる。


 強さは生前のものに比例するため、より強いモンスターを手に入れれば手に入れるだけ術者もまた強くなれる。


 マーリンには悪いと思いつつ、緊急事態なので、先ほどノイズが倒したラハムも使役した。


 何体ものモンスターが力を合わせて魔族へと襲いかかる。


「ほう。面白いスキルだな。けど、雑魚を何体集めようと無駄なんだよ!」


 男は特別な能力は使わない。ただ素手でモンスターたちをくびり殺す。


 圧倒的なまでの肉体能力だ。まるでマーリンを彷彿とさせる。


「はっはー! まだいないのか、他にはモンスターは!?」


 魔族が地面を蹴る。


 あっという間に倒れたエアリーのモンスターたちを置き去りに、魔族はエアリーの前に立ちはだかった。


「ッ!」


 エアリーの心が恐怖ですくむ。


 いますぐ逃げたい想いを必死に抑え、じろりと相手を睨んだ。


 それに対して魔族は楽しそうに笑うと、右手を引いて言った。


「いいねぇ。気の強い女は嫌いじゃない。おまえが魔族だったら相手してやらんこともないんだけどなぁ……残念ながら、ただのヒューマンは俺様の趣味じゃないんだ。宣言どおり、殺すぜ」


 刃のように鋭い爪を立てて、貫手の要領で攻撃を繰り出す。


 当たればエアリーのVITでは、確実に即死は免れない。


 だが、エアリーに反応できる攻撃ではなかった。


 魔族の腕が迫り、その凶刃が彼女の体に届く——直前。


 横からソフィアが、エアリーに体当たりをして位置をズラした。


 エアリーは魔族の攻撃の軌道から外れる。


 ただし、代わりに胸元を、魔族の腕が貫通した。

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