第98話 奇襲を受ける

 アウリエルが、教会へ寄付する薬草が欲しくて、冒険者の仲間を連れて外の森に足を運んだ。


 ソフィアという即戦力がいたおかげで、薬草採取自体はすぐに終わった。


 これぞまさしく人海戦術! とか思っていたら、帰還する直前にモンスターと遭遇する。


 いち早く気付いたノイズの声で、僕たちは戦闘態勢に入ったが、茂みを越えて目の前に現れたのは——見たこともない巨大な蛇だった。


 唯一、相手のことを知っているノイズが、どこか忌々しげにモンスターの名前を呟く。




「コイツは……ラハム!」


「ラハム?」


「アラクネより下のモンスターです。マーリンさまがいれば余裕で勝てますが、ノイズに任せてください!」


「アラクネ以下か……気をつけてね、ノイズ」


「はい! ——〝獣化〟!」


 ノイズが早速、奥の手を出して一匹の獣と化す。


 最初から全力で戦わないといけないほどの強敵ではあるんだね。


 万が一のことを考えて、いつでもサポートできるように準備する。


 ノイズの戦闘が始まった。




 ▼




 ノイズの持つスキル〝獣化〟は、主に身体能力を底上げするための力だ。


 シンプルだからこそ強力なバフになる。


 デメリットは、ノイズ曰く、「魔力消費量が多い」とのこと。


 発動した際にそれだけ大量の魔力が消費されるのか、発動してるあいだはどんどん魔力が消費されるのか。


 それは解らないが、前の戦闘を見るかぎり、後者である可能性が高い。


 ゆえに、ノイズが負けてもラハムとかいうモンスターを倒すため、複数の光の球体を浮かべて僕は待機した。


 〝魔力操作〟スキルがあれば、問題なく当てられる。


 あとはノイズの戦いを見守るだけだ。




 ノイズが地面を蹴ってラハムに肉薄する。


 彼女の戦闘は激しい。


 まさに獣と化したノイズ。鋭い牙や爪を使った素早い攻撃で、ラハムを追い詰めていく。


 ラハムのほうも、強靭な尻尾による薙ぎ払いや、毒を持ってると思われる牙で対抗するが、残念。


 こっちはパーティーなので、状態異常を受けても即座に治してしまう。


 そうなると、支援を多く受けられるノイズが優勢になる。


 徐々にラハムの体力は削られていき、やがて、その首元にノイズの爪が深々と刺さった。




 ——致命傷だ。あれは助からない。


 どくどくと血を流し、ラハムが断末魔のような叫び声をあげる。


 力なくその場に倒れたモンスターを見て、スキルを解除したノイズが地面に横たわった。


「ハァ……ハァ……ハァ……な、なんとか勝てました!」


 わりといい勝負だった。僕の支援がなかったら負けてた可能性も大いにあるが、それでも彼女は壁を乗り越えた。


 経験値もそれなりに貰えたのだろう、ノイズの表情は清々しいくらい晴れ渡っていた。




 魔法を消し、彼女に近付く。


 「お疲れ様」、そう言おうと口を開いた、——その時。


 真横に、知らない男性が現れる。


 顔が黒い、まるでモンスターのような男だ。


 その気配と行動に気付いた時にはもう遅かった。


 男の拳が僕の横っ腹を捉え、深々と抉り——そのまま凄まじい衝撃を発生させ、目が回るほどの速度で遠方へと吹き飛ばされる。


 最後に見えた光景は、一瞬にして消えたアウリエルたちの姿だった。




 ▼




「マーリンさま!?」


 アウリエルを含めたその場の全員が、突然の奇襲に驚きの声を上げる。


 それを見た黒い肌の男性は、喉を鳴らして言った。


「ククク……こうもあっさり分断できるとはな。ちょろくて助かったぜ」


「あなたは誰ですか! なぜマーリンさまを……!」


 アウリエルが激昂するものの、肌の黒い男は平然と笑ったままだ。


 強者特有のオーラに加え、マーリンに気付かれずに距離を詰めた脚力。おまけにマーリンの防御を貫通してダメージを与えた腕力、どれもが彼女たちにとっては絶望的なものだった。


「おいおい、寂しいこと言うなよお姫様。こんな状況になったんだ、もう考えられるのは一つしかねぇだろ?」


「……あなたが、わたくしの命を狙う賊ですか」


「賊だなんて失礼しちゃうぜ。俺様は魔族。それくらいお前らも知ってるんじゃないか? もしくはお姫様がな」


「魔族!? 大昔にいたとされる種族ではありませんか! ありえない」


「そのありえない存在が目の前にいるんだよ。まあ信じなくてもいいぜ? どうせやることは変わらないからな」


 そう言うと、魔族を名乗った男は、手をポキポキと鳴らしてアウリエルに近付く。


 そんな二人のあいだに、起き上がったノイズとエアリー、騎士たちが割り込んだ。


「あん? なんだガキ共。俺様の目的はその女の命だ。お前らみたいな雑魚には用はねぇ。見逃してやるからさっさと失せろ」


「それはできません! ノイズたちはアウリエル殿下を守るとマーリンさんに約束したのです! マーリンさんが来るまでは触れさせません!」


「マーリン? ああ、さっきの魔法使いか。それなら安心していいぜ」


 もう一度喉を鳴らし、男は吐き捨てるように告げた。




「あの男のもとには、危険な危険な猛獣どもが殺到してるだろうからなぁ。ワイバーンにアラクネ、ほか数体。用意するのに時間かかったんだぜ?」

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