第78話 襲来

 アウリエルが戦闘を始める。


 彼女は自身の周りに小さな光の球体を浮かべた。それらをまるで弾丸のように前方へ射出する。


 狼たちは機動力に優れた個体だ。いくら遠距離からの攻撃であろうと避けるのにそう苦労はしない。


 華麗なステップで横にかわしながら、なおもアウリエルの下へ迫る。


 しかし。


 かわしたはずの光の弾丸は、急に軌道を曲げて狼のもとへと追尾する。


 後ろから再び光の弾丸が迫っていることに気付かない狼。


 容易く頭部を光が貫通。短い悲鳴を漏らして地面を転がった。


 他の個体も同じだ。致命傷になる急所ばかりを貫かれ、一体ほど二度目の攻撃を避けた個体もいたが、光の弾丸は何度でも狼に迫る。


 疲れ、隙を突かれて最後の一体も絶命した。


 それを見送って、アウリエルは満足げに笑った。


「ふふ。まだまだワタクシめもそれなりに戦えますね。どうでしたか、マーリン様。ワタクシの聖属性魔法スキルは」


「……び、びっくりした。僕も同じスキルを持ってるけど、あの不思議な軌道はどうやって……」


 恐らく追尾性能が付いているか、光の弾丸——スキル自体をアウリエルが自在に操っているのかどちらかだろう。


 僕が威力を重視するのに対して、彼女は操作能力や制御能力を上げていた。


 同じスキルを持つ僕にも彼女と同じことができるだろうか?


 そういう意味も含めて彼女に訊ねる。


「あれは聖属性魔法スキルによるものではありません。ワタクシが持つもう一つのスキルを組み合わせた結果です」


「もう一つのスキル……?」


「はい。ワタクシが持つ〝魔力操作〟というスキルですね」


「魔力、操作……」


 噛み締めるとその意味がすぐに理解できた。


 聖属性魔法スキルは、あくまで魔力を消費して生み出される現象だ。その魔力を自在に操るというのが、彼女が持つ〝魔力操作〟の特性だろう。


 であれば、僕の考えが正しければ、彼女はどんなスキルによる攻撃も完璧に操作できるってことになる。


 威力さえ伴えばかなり強力なスキルでは?


「凄いね。アウリエルってそんなに強かったんだ」


「マーリン様に褒められるとは、光栄のいたりです。……ただ、ワタクシめのスキルはあくまで補助がメイン。ご覧になったとおり、威力はそこまで高くありません。マーリン様のようにアラクネを倒せと言われても無理なのです」


 スキルによる攻撃力は、ステータスの高さ次第で補正が入る。


 僕の馬鹿みたいに高いステータスと、繰り出される高出力の魔法を見ればそれは明らかだ。


 つまり、アウリエルは希少なスキルを持っていながらレベルが低いってことかな?


 まあ彼女は王族だし、別に僕やギルドマスターほど強くなる必要はない。


 戦争が起きるわけでもなければ、王族が戦わなきゃいけない法律もないしね。


「それでも十分にすごいスキルだったよ。少なくとも僕にはあんな真似はできないしね」


「その分、マーリン様のお力は非常に強力だとお聞きしています。ワタクシのように技術面を上げる必要もないのでしょう」


 たしかに、僕は武術とか剣術とか作戦とかフェイクとか、そういう技、絡め手を使う必要がないくらい強い。


 純粋に高いレベルというのは、それだけで恐ろしいくらいの暴力になる。


 極端な話、僕がレベル10000の状態で殴れば大抵のモンスターは死ぬだろう。


 地形も粉砕できるし、速度も速いから相手は避けられないかもしれない。


 シンプルな力とは、ある一定のラインを超えると理不尽な存在になる。


 僕はその境地にいた。これ以上なにかを求めるのは無意味だろう。


 だが、反面、力ではない技で戦う戦闘を見ると思う。すごいな、と。


 工夫があり、見ごたえがあり、面白い。


 アウリエルの戦闘には、少なくとも僕の興味を引くくらいの何かがあった。


 持つ者と持たざる者の違いだ。


 こればっかりは人間であるかぎり絶対に解消されたりはしない。すべてを持ち得ないかぎりは。


「それほどでもないさ。まだ、僕は自分の力に振り回され気味でね。アウリエルみたいにコントロールできたらいいんだけど……手加減とか苦手だし」


「マーリン様にも魔力操作のスキルがあれば、また違っていたのかもしれませんね」


 どうだろう。僕の場合、ステータスが高すぎるから問題なのだ。


 攻撃の軌道を操れても、ミサイルをぶん投げたら結局そこは更地になるだろう?


 被害を抑えるって意味では頼りになりそうだけど……僕も、あとでスキルを習得してみようかな?




 そこまで考えたところで、ふいに、周囲が暗くなった。


 強風が吹く。


 僕もアウリエルもフードが外れるくらいの風を受けて、顔をしかめながら空を見た。


 世界が暗くなったわけじゃない。僕たちの頭上に、太陽を遮るなにかが現れたのだ。


 ——巨大な、鳥?


 大きく翼をはためかせる謎のモンスターらしき存在が僕たちの頭上にいた。


 それを見て、アウリエルやノイズ、護衛の騎士たちが驚愕を浮かべる。


 アウリエルがぼそりと敵の名前を呟いた。




「な、なぜここに……〝ワイバーン〟が!?」

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