第77話 王女の実力
冒険者ギルドで依頼を請けた僕は、ノイズと共に森の中へ足を運んだ。
そこで、たまたまギルドマスターと話をしたばかりの女性——第四王女殿下、アウリエルと顔を合わせる。
さらさらの銀髪が風に流れて揺れていた。
遠目から見る分には、まるで一枚の絵画のごとく綺麗だ。誰も彼女が狂った信仰心を持つ人間だとは思えないだろう。
だが、僕はよく知ってる。昨日、それを本人からぶつけられた。
最初、ギルドマスターが言うほど酷い人なのかと半信半疑だったが、実際に顔を合わせるとヤバすぎた。
美人で性格もよくて優しいのに、ただ一点、そこだけは不気味で恐ろしかった。
アウリエルも歩いてくる僕たちに気付く。
左右に並んだ護衛騎士の男性が頭を下げると、彼女は喜びの感情を浮かべて手を振る。
「マーリン様————! 奇遇ですね————!!」
本当にただの奇遇かな?
ここまでくると、運命か神さまの悪戯すら感じるよ。
とほほ、と内心でため息をつきながらも彼女のもとへ向かった。
「やあ、こんにちはアウリエル。珍しい所であったね。外は危険だよ? どうして森の中に?」
彼女の前まで歩みを進めると、目の前で止まってから質問を投げた。
「こんにちは、マーリン様。護衛の騎士がいるから平気ですよ。私、冒険者になったので依頼を請けにきたんです! モンスター討伐ですよ討伐!」
「え? い、いつの間に……。ヴィヴィアンさんにさっき会ったけど、まだ君に会えていないって……」
「ええ。ヴィヴィアンには秘密で登録しました」
「どうやって……」
彼女は僕と同じ銀髪だ。それを隠すためにもフードを被っている。
登録時に受付の女性に素顔を晒すよう要求されたはずだが……。
僕の疑問に、しかし彼女は胸を張って答える。
「ふふふ。実は王都で作らせた特製のアイテムがありましてね。黒髪に変えることができるんです!」
「そ、そんなものまで用意してくるなんて……ずいぶんと準備万端だね」
「それはもう。一時的なものですし量もほとんどありませんが、登録に使うには十分でした。自分で言うのもなんですが、王族のひとりというのは肩身が狭いもの。たまにはただのアウリエルになりたいのです」
「そのためのアイテムだと」
「はい!」
彼女は悪びれることもなくそう答えた。
恐らく彼女が使ったというアイテムは、普段は変装用というかお忍び用のものだろう。
言動からしょっちゅう自由に活動しているのがわかる。後ろに並んだ騎士たちも少しだけ遠い目をしていた。
だが、きっとそれを知ったらヴィヴィアンは怒り狂うと思う。
ただでさえ自分の所に挨拶もこなかった計算高い彼女に怒っていたくらいだ。
そこに、変装して冒険者登録しました! なんて言われたら……。
ぶるる、と体が震える。
「? マーリン様? どうかしましたか?」
「い、いや……なんでもないよ。それにしても、まさか本当に冒険者になるなんてね」
「言ったではありませんか。マーリン様のことを少しでも理解したい、と。そのために同じ仕事をするのは当然です」
だからって好きな相手のために危険な世界へ片足を突っ込む子がどれだけいるか。
確実のこの子はヤバいタイプだ。信仰心が強すぎる。
「ただ……先ほどから魔物がさっぱりなんですよね。ほとんど姿を見ていません」
「それはしょうがないよ。最近、アラクネの影響で魔物自体の数が減ってるからね。町は平和でいいことだけど、仕事がないのは残念だ」
「なるほどアラクネの……残念ですね。マーリン様にワタクシめの力を見せたかったのに」
「アウリエルの力? もしかしてアウリエルは……」
言いかけて、途中で言葉が止まる。
僕たちの前に数匹の魔物が現れたからだ。狼のような魔物が視界に映る。
「あらあら、まあまあ。タイミングがいいですね。まるで神様がワタクシの想いを汲んでくれかのようですわ!」
魔物が現れて喜ぶアウリエル。
そういう状況じゃないだろうに、この状況で喜べるってことは、彼女はもしかするとかなりの強者だったりするのかな?
もしくはよほど護衛の騎士が強いか。
試しに、彼女が前に出たので僕はなにもしない。ノイズと一緒にアウリエルの様子を見守った。
「ではでは。マーリン様はそこで見ていてください。ワタクシのとっておきをお見せしましょう」
そう言って彼女は、僕も使う〝聖属性魔法〟スキルを発動する。
周りにふわふわと複数の光の球体が浮かぶ。球体は徐々に魔力を集め光の濃さを増していく。
狼たちが走った。一斉にアウリエルのもとへ殺到する。
だが、アウリエルは笑みを刻んだまま手を前に向けた。
鈴の音みたいな声で呟く。
「いきますわよ、皆さん」
光の球体が発射された。光線ではなく、そのまま球体が弾丸のように射出される。
狼は素早い。その攻撃を避けてさらにアウリエルのもとへ接近した。
——しかし。
突如、狼たちを通り過ぎていった光の弾丸が、急激に軌道を変える。
グインッ! と曲がり、背後から狼を追尾して——。
その眉間を貫いた。
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