第76話 奇遇ですね!
ノイズと共に宿を出て冒険者ギルドにやってきた。
冒険者ギルド内部は、相変わらず多くの冒険者たちで賑わっている。
左右で楽しそうに談笑する男女の何人かが、フードを被ったもの珍しい僕へ視線を向けた。それらを無視して受付の列に並ぶ。
すぐに順番が回ってきた。
顔見知りの女性職員へギルドマスターに会いたいと伝えると、思いのほかあっさり二階へ通される。
奥にあるギルドマスター、ヴィヴィアンさんの部屋の扉をノックしてから中に入る。
彼女は仕事中だった。そりゃあそうだ。まだ昼頃だからね。
ぺこりと挨拶を交わして促されるがままにソファへ座る。
「こんにちは二人とも。今日はどうしたの? あまり泊まっている宿から出るとたいへんな目に遭うわよ?」
相変わらずのアウリエル王女への評価に、内心でくすりと笑いつつ、単刀直入に告げる。
「実は……今朝、そのアウリエル殿下にお会いしまして……」
「なっ——!?」
見るからに動揺を見せるギルドマスター。
手にしていた書類を机の上に置いて、神妙な面持ちで口を開く。
「ああ……最悪。あの子と出会ってしまったのね……どうだった? 最悪だったでしょ」
「えっと……」
その評価が覆ることはないのかな? まあ、たしかにちょっとヤバい人だとは思ったけど。
でも、最終的にはかなり常識というか、他人への配慮が見られる人だった。
ギルドマスターが言うほどヤバい人かと言うと……うん。ヤバくはあった。
ソフィアたちに見せた顔が素なら印象はいいが、最初が酷すぎる。
完全に薬でも決めてる感じだったしね。
「最初は、その……すごく、個性的な人だなと」
「マーリンくんは優しいのね。そんな風に甘やかすのはダメよ。確実に薬でも決めてるかと思える形相であなたに迫ったのはわかる。その顔を見るだけでもね」
「あはは……はい」
実は怖かったです。
「しかし意外だったわ。まさかこんなに早くあなたとアウリエルが顔を合わせるなんて……」
「顔を合わせるっていうか、宿に来たっていうか……」
「ああ、押しかけられたのね……ご愁傷さま。あの子の行動力を舐めていたわ。想像以上ね。ごめんなさい、事前に注意したっていうのに意味なくて」
「ギルドマスターは悪くありませんよ。僕も迂闊に扉を開けてしまいましたし」
あれは本当に迂闊だったといまでも思う。時間が巻き戻るなら一からやり直したい。
「あの……先ほどから何の話をしているんですか? アウリエル殿下って誰です?」
「あ」
そう言えばまだノイズには、アウリエル殿下のことを説明してなかった。
彼女が姿を見せたのは昨日。ノイズが来たのは今日だから、顔を合わせていないことに今さらながらに気付く。
「ごめんね、ノイズ。ノイズに説明を忘れてた。実は昨日、王都にいるアウリエル・サラ・マグノリア第四王女殿下がこの町にやって来たんだ。その……僕に会いに」
「お、王女殿下? なぜ、マーリンさんに?」
「彼女、熱心な信仰者みたいでね。ほら、僕の素顔って神様によく似てるらしいだろ? だから、それを確かめに来たんじゃないかな」
「なるほど……」
あまりよく解っていなさそうだが、少しでも状況が呑み込めたならそれでよしとする。
彼女と最初に顔を合わせた時の狂気を伝えるわけにもいかないし、いまはそういう女性がいて大変だった、とわかってくれればいい。
「とりあえずは、私のほうでも釘を刺しておくわ。あの子、この町にいるのに
「そうなんですか? てっきり仲良しかと思ってました」
「仲はいいわよ、たぶん。けど、きっとマーリンくんへ近付くな、と警告されたくなかったのね。その証拠に会いに行ってるし……まったく」
ぶすっとした表情で静かに怒るヴィヴィアンさん。
よくわからない関係に苦笑しつつ、ひとまずの用は済んだ。
最後に別れを告げて僕とノイズは部屋を出る。
冒険者ギルドの一階で適当な魔物討伐の依頼を請けて外に出た。
相変わらず静かな森の中を歩き、目当てのモンスターを探す。
昨日はわりとドタバタしていたから少しだけ外の空気を吸うのが楽しみだった。
緑一色の世界に視線を落とすと、不思議と心が安らぐ気がする。
だが、しばらく歩くとそんな悠長なことを言ってられなくなった。
なにせ、たまたま森の中をまっすぐ突っ切っていった先に、僕と同じ——銀色の髪の女性を見つけたのだから。
隣に二人の男性騎士を連れた彼女は、どこからどう見たって先ほど話にあがった第四王女殿下、アウリエルだった。
彼女もまたこちらに気付き、眩いほどの笑顔を浮かべて手を振る。
「マーリン様————! 奇遇ですね————!!」
本当に奇遇かな?
ここまでくると、運命か神様の悪戯すら感じるよ。
とほほ、と内心でため息をつきながらも彼女のもとへ向かった。
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