第75話 報告

 僕ことマーリンは、この異世界に顔面チートを持って生まれた。


 なんでも、神様にたいへん近い容姿をしているらしい。


 そのせいで、初っ端から顔をフードで隠さないといけないくらいの注目を浴びた。


 そんな僕が、出会いに恵まれて数人の女性と仲良くなる。


 街の宿屋の娘であるカメリア。


 冒険者の姉妹、ソフィアとエアリー。


 冒険者のビースト種、ノイズ。


 合計四人の女性とそれなりに親しくなった。


 僕の勘違いでなければ、全員が僕に対して何らかの好意を持っている。


 実際、宿屋の娘であるカメリアは僕と肉体関係にある。


 一夜の過ちのごとく、僕たちは夜を共にした。


 しかし、僕はこれでも誠実な人間であるつもりだ。カメリアとはそれなりにきっちりとしたお付き合いをしている。


 だが、それを知っている他の女の子たち……ソフィアとエアリーに迫られてしまった。


 第四王女ことアウリエルが彼女たちの背中を押したことで、勇気を出したソフィア。


 不安と羞恥心に怯える彼女の意思を突っぱねることは、僕にはできなかった。


 その結果、新たにソフィアとエアリーの間にも肉体関係が生まれた。我ながら節操がないと思う。


 なにが誠実なつもりだ。


 三人の女性に手を出した以上はどうしようもない人間である。


 おまけにノイズがタイミング悪くそこへ現れ、自分も「そういうことをしたい」と言ってきた。


 彼女とも仲がいいため、ストレートに感情をぶつけられると弱い。


 この異世界では一夫多妻も普通のことらしいので、余計に心が苦しくなった。


 けれど、僕はそれすらも受け入れる。


 もちろん女の子と関係を持ちたいから、——ではない。


 一応、そういう関係になったらしっかり最後まで面倒は見るつもりだ。


 ひとりひとりと向き合い、真面目に交際する。全員を平等に愛する。


 ……うん、わかってる。どれだけ取り繕おうと、僕のやってることは前世基準で浮気だ。


 殴られても刺されても文句は言えない。


 幸いにも彼女たちに一夫多妻への抵抗はなく、愛してくれるのなら何人増えようが構わないと言われた。


 それが余計に心苦しくて……僕は絶対に彼女たちを幸せにすると心に誓った。


 そして時間はいまに至る。




 ▼




 ベッドで寝ていた全裸の姉妹は、ノイズが訪ねてきたことにより服を着てベッドから降りる。


 いま、僕の部屋には三人の女性がいた。


 ソフィアとエアリーとノイズだ。


 すでに話し合いは終えて、あまあまな空気になったところで、そもそもノイズが訪ねてきた理由を聞く。


「……そう言えば、ノイズはなにか用があったんじゃないの?」


「ああ、いえ。マーリンさんと依頼でも一緒に請けられたらいいな、くらいの理由で訪ねました。すみません」


「なるほど。謝らないでほしいな。僕はノイズに会えただけでも嬉しいんだから」


「マーリンさん……!」


 ひしっ。


 ノイズが嬉しそうに僕の腕に抱き付いてくる。


 彼女は体型がいいからね。ソフィアはまあまだ子供だからしょうがないとしても、エアリーより圧倒的に大きい。


 この胸であれだけの速さを維持しながら戦闘するとは、今さらながらに恐ろしいぞ異世界め!


「せっかくだし、僕はノイズと一緒に冒険者ギルドに行こうかな。ソフィアたちはそのまま寝てていいよ。初めてだったし、疲れてるだろ?」


「平気ですよ、これくらい。ちょっと歩くのに違和感が……っとと」


 少しだけぐらつくエアリー。


 ソフィアも顔色に疲労の色が滲んでいた。


「無理しないでいいよ。ギルドマスターに伝えないといけない件があるし、二人は休んでいてくれ」


 エアリーをベッドの縁に無理やり座らせてから、にこりと笑う。


 やや強引だが、そこまでされるとエアリーもソフィアも拒否することはできない。


 申し訳なさそうに苦笑しながらエアリーは言った。


「すみません……今日は、マーリン様のお言葉に甘えさせてもらいます」


「ううん。ソフィアとのんびり過ごすといいよ。買い物くらいなら問題ないだろうしね」


 それだけ言うと、壁にかけておいたローブを手にとって羽織る。


 立ち上がったノイズと共に、ソフィアとエアリーに別れを告げて部屋を出た。


 ノイズと談笑しながら冒険者ギルドを目指す。




 ▼




 しばらく歩くと、街の一角に居を構える冒険者ギルドへと到着する。


 受付の女性に面会を希望し、あっさり受け入れられて二階へ向かった。


 扉をノックして部屋に入ると、仕事中のヴィヴィアンさんを見つける。


 彼女にアウリエル王女の件を伝えると、キリっとしたその表情が、みるみるとげっそり痩せていった。


 そして彼女は呟く。




「ああ……最悪。あの子と出会ってしまったのね……どうだった? 最悪だったでしょ」

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