第73話 姉妹と一緒に

「好きだよ。愛してる。二人を手放したくない。独占欲が出てきて、だれにも渡したくない」


 素直な気持ちを二人にぶつけた。


 すると、エアリーとソフィアは揃って席を立ってからこちらに回り込んでくる。


 左右を姉妹に挟まれた。


 僕が困惑しながら二人を交互に見る。


「え、エアリー? ソフィアも……急にどうしたの?」


「……いま、私たちはきっと同じ気持ちを抱いています」


「うん……。今ならお姉ちゃんの気持ちもよくわかる。私も嘘はつけないから」


「え? え?」


 なんだろう。不思議と空気がさらに緊迫したものへと変わった。


 ジッと僕を見下ろす二人は、しばしそのまま固まったあと——同時に僕へ抱き付いてきた。


「え、エアリー!? ソフィア!?」


 女性らしい甘い香りがする。柔らかな膨らみまで当たっているし、僕はたいへん気まずい状況だ。


 あわあわと二人に話しかけるが、二人は強く強く抱きしめたまま喋らない。


 そんな時間が一分、五分と過ぎていき、ちょうど10分に差し掛かる頃。


 唐突に二人は僕から離れた。


「……覚悟は決まっています。マーリン様がそれを望んでくれるなら……わ、私たちを一緒に抱いてくれませんか?」


「お姉ちゃんと一緒なら……きっと勇気が出ると思うので……」


「ふ、二人を? 同時に?」


「「はい!」」


 強く二人は頷いた。


 まさかの展開に僕は驚く。


 アウリエルに焚きつけられた形になる。


 ……いや、もしかしたら彼女は焚きつけてくれたのか?


 微妙に歪な関係だった僕たちのあいだを見抜き、そっとアシストしてくれたのでは?


 本人がいない今、それを確認する手段はないが……ふと、僕はそう思った。


 そしてかぶりを振る。


 いまはそれより先に答えることがある。


 しっかりと真剣な表情を作った。


「……うん。わかった。責任は取る。僕が二人を幸せにすると誓うよ」


「「マーリン様!」」


 姉妹は揃って嬉しそうに顔を崩す。


 緊迫した空気も消え去った。


 すると早速、僕はエアリーに腕を掴まれる。


「では二階へ行きましょう! 二人分なのでじっくりたっぷりと!」


「え? え!? いきなりこれから!?」


「当たり前です! ここまで言っておいて我々が我慢できるとでも? 正直……もう、かなり……」


 それ以上はエアリーはなにも言わなかった。


 だが、彼女の赤くなった表情を見ればなにを言いたかったのかくらいはわかる。


 汲み取った僕は、ちらりと背後を見て察した。


 ソフィアもまた同じ表情を浮かべて服の裾を掴んでいたのだ。


 ここで逃げたらすべてのムードをぶち壊してしまう。


 男なら覚悟を決めろ。最初から、そうする予定だったのだから。




 こくりと頷いて、僕はエアリーたちと共に自室へと向かった。


 その直後、キッチンのほうからカメリアらしき女性の手が、グッと親指を立てているように見えた。




 ……おまえもかい!




 ▼




 ……。


 …………。


 ………………。


 たっぷり休んで翌日。


 端的に言おう。そういう行為をした。




 ベッドを軋ませながら楽しんだ。前世を含めても初めて三人でした。いや二人でするのもカメリアが初めてだったけど。


 とにかく、なにを言いたいのかというと……すごかった。


 こう、言葉に尽くせないなにかがあったのだ。詳しい話は省くが、たった一度のアレで二人との仲がグッと深まった。


 薄い壁を隔てていたはずの距離が、壊れてなくなった。


「……もう、朝か」


 全身に感じる疲労を我慢しながら起き上がる。


 窓辺から差し込む光が眩しい。


 だが、不思議と心がスッキリしているのはなぜだろう。エアリーたちとより仲良くなれたからかな?


 それとも……。


 いや、これ以上はなにも言うまい。


 思考を霧散させて隣を見下ろす。


 僕の隣には、抱き合って眠るふたりの姉妹がいた。


 二人とも幸せそうに笑顔を浮かべている。


 そんな二人の頬に軽くキスをしてからベッドを降りた。


 エアリーもソフィアも初めてだったし、きっと今日はほとんど動けないだろう。


 どこかへ行くよりも、一日ゆっくり休もう。


 そう思いながらも欠伸を噛み殺す。ボーっとする頭で適当なことを考えていると、ふいに部屋の扉がノックされた。


 ——もしかして、カメリアかな?


 彼女も昨日は応援してたみたいだし、一度は話し合う必要がある。


 もちろん、僕は彼女も幸せにするつもりだ。だから、真面目にそれを伝えないと。


 ゆっくりとドアノブを捻って扉を開けた。


 そして、反対側に立つ——ノイズの顔を見て衝撃を受ける。


「の、ノイズ!?」


「おはようございます、マーリンさん!」


 元気よく彼女は片手を上げて挨拶した。

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