第51話 索敵スキル

 アラクネ、およびハブールの掃討戦がはじまった。


 僕とノイズは、冒険者ギルドを出て町の外に向かう。


 ぞろぞろと複数の冒険者がそれに続いた。みんなやる気とわずかな不安が顔に出ている。


 ギルドマスターの話だと、今回の掃討戦に加わるのはそれなりに腕の立つ冒険者らしい。


 そんな彼らですら、3級危険種の前では余裕を保てない。


 やはり、アラクネとハブールは駆逐しないとダメだな。もしもの時は、僕が直接……。


 相手のステータスは、ギルドマスターがパーティーを組んで討伐できる程度。レベル300だと想定しても僕のほうが強い。


 最悪、封印をひとつ解除すれば十分だろう。この街には絶対に手出しなどさせない。


「……マーリンさん? どうしましたか? 顔が少しだけ強張ってますよ」


「——おっと。そうかな? これだけ大規模な作戦に参加するのは初めてだから、緊張してるのかもしれないね」


「ふふ。マーリンさんでも緊張するんですね」


「そりゃあ僕だって人間だからね。緊張のひとつや二つくらいするさ」


 言っといてなんだが、あんまり確証はない。


 え? 大丈夫だよね? 僕、人間だよね?


 ナチュラルに災害扱いとかされないよね? 今後。


 あまりにも過剰な恩恵を得てしまったことで、将来が心配になる僕。


 いま、そんなこと考えてもしょうがないっていうのに。


「マーリンさんは外見も合わさって、なんだか神々しいですからねぇ。普通の人とは価値観とか違うように見えます。もちろん、どんなマーリンさんでも素敵ですよ! 優しいマーリンさんがノイズは大好きです!」


「あはは。ありがとう、ノイズ。僕も元気で面白い、それでいて可愛いノイズが大好きだよ」


 なでなで。なでなで。


 歩きながら彼女の頭を撫でる。柔らかな耳の感触も実に素晴らしい。


「えへへ……。マーリンさんにそう言ってもらえて、ノイズはどこまでも頑張れる気がします! さあ来い! 何体でも、アラクネだろうと相手になります!」


 さらに気合を入れたノイズ。張り切りすぎて倒れないといいけど……。


「ほどほどにね。そもそも、ハブールがどの程度この森の中にいるのかもわかっていないし……。それに、位置だって把握できないから」


「むむっ……。たしかにマーリンさんの言うとおりですね……。うぅ。ノイズが索敵系のスキルを習得していれば……。い、いえ! ノイズには生まれ持った嗅覚が!」


「広大な自然の中から、蜘蛛の臭いだけ嗅ぎわけるのは不可能じゃないかな? 負担にもなるし、無理しなくていいよノイズ」


「……はあい」


 しゅん、と残念そうに耳と尻尾を垂れさせるノイズ。


 うん、可愛い。


 可愛いけど、そうか索敵系のスキルか……。


 スキルポイントはたくさんあるし、そういうスキルを持っておけば便利かな? 神様~! 索敵スキルを教えてください!


 ノイズには秘密で、ステータス画面を開きながら神様に祈る。


 すると、やっぱり神様? は答えてくれた。


 スキルリストの画面がスクロールされ、そのまんま【索敵】という名のスキルが目の前に表示される。


 内心で神への感謝を口にし、そのスキルをレベルマックスで習得、強化。


 ステータス一覧に【索敵】の項目が増える。


「あ、あー……! そうだったー。僕、索敵系のスキルを持ってたんだー!」


 わざとらしいが、棒読みになりながらもノイズにそう告げた。


 不自然だっていいじゃない。ゴリ押しこそ正義だよ。いつの世もね。証拠はないんだし。


「——え? マーリンさんは、索敵スキルまでお持ちなんですか? な、なんでもできるんですね……しゅん」


「あ、あれ?」


 なぜかノイズは顔色を悪くした。


 小声でなにやら呟いている。


 レベルの影響か、強化された僕の聴覚がその声を捉える。


「残念です。せっかく、ノイズが役立つ可能性があるかもしれないと思ったのに……。マーリンさんは完璧です。すごいです。でも、ノイズはいらないんじゃ……」


 ——おおふ。


 僕が思ったよりはるかにノイズの性格は純粋でいい子だった。


 まさか、僕の役に立てないからショックを受けている、なんて思うわけがない。


 しかも、臭いを辿るっていう話も忘れてなかった。


 別に僕は、ノイズが役に立つから付き合ってるわけじゃないのに……。どうにかフォローできないかな?


「ノイズ」


「……? はい」


「僕はね、ノイズに感謝してるんだ」


「え? の、ノイズに?」


「うん。ノイズはいつだって頑張ってくれるだろ? 僕の代わりに魔物を倒してくれたし、素材を一緒に拾ってくれた。空気を盛り上げてくれる。今日だって、虫が苦手な僕のために戦ってくれようとしてる。そんなノイズが、役立たずなはずがない。僕だってノイズに支えられているんだ。それを忘れないでね? ノイズも、僕には必要な存在なんだ」


「ま、マーリンさん……!」


 ぶわっ。


 ——ノイズ!?


 感極まった彼女が、両目に大粒の雫を浮かべる。ダムは結壊した。ぽたぽたと涙が流れる。


「の、ノイズは……ノイズは嬉しいですぅ!!」


 勢いよく抱きついてくるノイズ。彼女をマッスルという名のSTRで受け止めた。


「よしよし。そういうことだから気にしないでねノイズ。どうせ気にするなら、もっと強くなって将来的に返してくれればいいさ」


「はい! はい! 頑張ります!」


 よかった。ノイズの表情がもとの笑顔に戻る。




 ほんの一分ほど僕たちは抱擁を続け、魔物の捜索を行う。


 覚えたばかりのスキルを使ってみる。

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