第50話 掃討戦
朝、目が覚める。
横を向くと、小さな寝息を立てている少女がいた。カメリアだ。
やや乱れた髪。晒された白い肌。それらが、昨日の夜の光景を思い出させる。
「……やっちまった、よね」
完全にあーあ、なやつだ。
相手は自分より2歳は下の女の子。
前世なら未成年と言われる年代だ。そんな若くて可愛い少女に手を出してしまうとは……。
異世界に日本と同じ法律があるとは思えないが、世間体はあまりよくないと思われる。
それとも、カメリアが誘ってきたあたり、この異世界では結構普通のことだったりするのかな?
わからない。答えは出ない。
ひとまずベッドから降りると、背筋を伸ばして服を着た。
今日は休みと言っていたので、しばらくはこのまま寝かせてあげよう。
最後にフードをかぶると、僕はいまだ眠っている彼女の頬にキスをしてから部屋を出た。
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カメリアと一夜をともにしてから数日。
僕はわりと平和な日々を過ごしていた。
ソフィアたちにカメリアとの関係がバレることもなく、カメリアとも順調に仲良しのままだ。
ただ……。カメリアの様子に変化があった。あの日、彼女を抱いてから、あきらかに機嫌がいい。
もう僕が好きでたまらない! と本人に言ってしまうほどアピールが激しくなった。
個室に来るときはまあいいよ? けど、宿の食堂でそういうアピールは控えてほしい。
——なぜ?
そんなの決まってる。
周りからの視線が痛いんだ。彼女、わりと人気者だったっぽいし。
それで言うと、肉体関係にあった、とバレたらどんな目に遭うか……。想像するだけでも怖い。
——とまあ、そんな感じの日々を過ごしていた。
しかし、いつまでも平和は続かない。
とうとう、ギルドマスターを含めた複数の冒険者たちによる、アラクネ&ハブールの掃討戦が行われる。
すでに、腕利きの冒険者たちがアラクネの存在を確認している。ゆえに、今日、その討伐が行われようとしていた。
もちろん僕も参加する。
街のみんなを守らないとね。
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冒険者ギルドに到着すると、すでに何人もの冒険者が集まっていた。
そこにはノイズの姿もある。
「やあノイズ。元気そうだね」
「マーリンさん! こんにちは。ノイズはいつだって元気ですよ! とくに今日はやる気に満ち溢れています!」
ぶんぶんと腕を回して元気アピールをするノイズ。
餌を前にした犬を思い出す仕草だ。犬の場合は尻尾だけど。
「あはは。なら、今日は期待してるよ? あんまり僕はあの気持ち悪いモンスターとは戦いたくないからね……」
「マーリンさんはハブールが苦手でしたっけ。お任せください! 並み居る敵を蹴散らしてご覧に入れましょう! スキルを使って!」
「ああ……あの【獣化】ってスキルだね。でもあれは体力の消耗も激しいし、ここぞって時に使わなきゃダメだよ。ちゃんと他の冒険者の人と協力してね?」
「うっ……! は、はい……。頑張ります!」
うんうん。
彼女はやる気があっていいね。僕も見習わなきゃ。
まあ、それでも嫌なものは嫌なんだけどね。絶対にハブールを見つけたら、【聖属性魔法】で焼き尽くすと心に誓った。
——そのタイミングで、ギルドマスターがみんなの前に立つ。
「——清聴」
大きめの声で彼女は告げる。
途端に、さわがしかった冒険者ギルド内部の声がやんだ。
それを確認してギルドマスターは続ける。
「これより、街の周辺に多数生息しているハブールの掃討を行う。私は数名の冒険者とともに、ハブールを生み出す根源……アラクネを討伐するわ。どうかそれまで、この街を守るために戦ってちょうだい!」
「おぉおおおおおおおお————!!」
割れんばかりの雄叫びが響く。
こういう熱狂に慣れていない僕は耳を塞いだ。空気がビリビリと震えているのがわかる。
隣を見ると、聴覚に優れるノイズも耳を塞いでいた。
ペタン、と犬耳が垂れている。尻尾も。
「ありがとうみんな! 奮戦を期待するわ! じゃあ事前に伝えたとおり、森の奥へ行くのは私たちのパーティーのみ。他のパーティーは街を囲むように展開して進んで。決して奥まではいかないようにね。とくに、私たちの近くにいるパーティーは。戦闘に巻き込まれる可能性があるわ」
……あ。それって僕のことか。
たしか僕とノイズは、アラクネとかいうモンスターを討伐しに行くギルドマスターのパーティーの右翼に展開する。
あまり左奥に進むとかち合いそうだね。肝に免じておこう。
「気をつけようね、ノイズ」
「……え? あ、はい! 絶対に魔物を倒します!」
「そういうことじゃないよ」
完全に周りの声で聞こえていなかったやつだ。
まあ、改めてあとで伝えればいいか。
熱狂冷めやらぬ冒険者ギルド。
周囲の熱意とやる気に気圧されながらも、僕とノイズは気合を入れて依頼に臨む。
大規模な掃討戦がはじまった。
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