第49話 必ず君を守る
「なっ——!? あ!?」
突然、目の前で座っていたカメリアが服を脱いだ。白くなめらかな肌が露わになる。
女性用の下着が視界に映った途端、僕は慌てて横に視線を逸らした。
しかし、
「目を逸らさないで……! 私を、見て」
か細い声で、まるで懇願するようにカメリアが言う。
謎の引力に引き寄せられた僕は、脳裏で戦う理性とは裏腹に視線を戻した。
顔を真っ赤にしたカメリアが、それでも僕をジッと見つめる。
たまらず疑問が口をついた。
「な、なんで急に服を……。ダメじゃないか、若い子がそんな簡単に肌を晒しちゃ……」
「誰にでもこんな真似をすると? そ、そんなわけありません! 今までこんな姿を見せたのはマーリンさんが初めてです! わ、私は、ただ……。マーリンさんがいなくなるのが怖くて……。危険な仕事をするあなたを引き止める権利がないのは知ってるのに、こんな……醜い方法でしか……!」
カメリアの口からとめどなく後悔と自虐の言葉がこぼれる。
——知っていた。
彼女が僕を好きなことくらい知っていた。
カメリアから向けられる視線の中に、ソフィアたちと同様のものが見えるのに気付いていた。だからこそ、親しい彼女のために嘘をつきたくなかった。
けど、正直に話せば彼女がショックを受けるのはわかっていた。
心配になった彼女が、どうしてそんな行為に及ぼうとしたのか。それは、ひとえに僕への愛。想いがゆえ。
正しいことではなかったのかもしれない。
間違った選択だったのかもしれない。
一夜をともにすることで、僕に踏み止まらせる方法だったのかもしれない。
だが、僕はいまさら止まらない。止まるわけにはいかなかった。そこまで想ってくれる彼女を守るためにも、アラクネ討伐は必須。
勇気を出してくれた彼女には悪いが、そんな彼女のために僕は頑張るよ。
頑張らなきゃいけないんだ。
俯き、ぽろぽろと涙を流しはじめた彼女の頬に、ふたたび手を添える。
カメリアが泣き顔のままこちらを見上げた。
僕は穏やかに笑う。
「自分を卑下しないでくれ。カメリアの行為は間違っていない。だれかを想う気持ちが、手段が、間違っているはずがないだろ? その気持ちを向けられて拒絶するやつは……いない、と思う。自信を持っていい。やっぱり僕は、カメリアのためにも戦うと決めたから」
「ま、マーリン、さん……」
「アラクネっていう魔物を倒さなきゃいけないんだ。倒さなきゃ、みんなが危険な目に遭う。他でもない、カメリアが。それを黙って見過ごすわけにはいかない。必ず僕が守る。だれが相手だろうと、必ずカメリアを守ってみせる。だから泣かないで。カメリアの想いは嬉しいよ。僕が、キミに欲情しないはずがないだろう?」
カメリアの隣に座る。彼女を抱き寄せて、何度も何度も「ありがとう」と耳元で囁く。
すると、10分ほどでカメリアは涙を引っ込めた。代わりに、ボーっと赤い顔で僕を見つめる。
これはアレだ。完全に落としてしまったやつだ。瞳にハートマークみたいなものが見えるような気がする。
でもまあ、こういう初めても悪くないのかもしれない。
だって、彼女は僕のために体を使ってでも引きとめようとした。せめて、一度でも幸せな記憶がほしいと願った。
恥ずかしかっただろう。死にたくなっただろう。
そんな彼女の覚悟を、気持ちを、男である僕が踏みにじるのはよくない。
据え膳食わぬわ……ってやつ。
ちゃんと、食べてあげないとね。男としての役目だ。
徐々にお互いの顔が近付いていく。
夜の帳は下りたばかり。痛いくらいの静寂があたりには広がっていた。
もはや誰の声も聞こえない。届かない。
ただ、お互いがお互いのことだけを見つめ合い、明かりに照らされた影だけが重なる。
カメリアの激しい息遣いが聞こえた。透明な唾液が伸びる。
……ああ、やっぱりダメだ。
もう引き返せない。引き返そうとは思っていない。ゆっくりとカメリアの手が僕の服に触れる。
長い夜がはじまった。
———————————————————————
あとがき。
ランキング上位を目指して新作ラッシュ!
まずは異世界ファンタジーものを投稿しました!
見て見て見てね!
昨夜はお楽しみでしたね……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます