第48話 真実と覚悟
その日の夜。
食事を終わらせた僕は、ローブを脱いでベッドに転がった。窓辺から見える月を見上げて、カメリアの件を思い出す。
「話すべきか……話さないべきか」
悩んだ。
この異世界にきて一番悩んだかもしれない。
誰かを助けるためなら即決できる僕でも、だれかに心配をかけると思うと即断できなかった。
その結果、彼女に声をかけるチャンスを失う。
我ながら情けないメンタルだと思う。
「あー……悩む」
一向に答えは出なかった。ぐるぐると同じ回答、思考が脳裏を巡る。
なにを考える必要があるのか。話すべきなのは明白だ。彼女にはお世話になってるし、それなりに仲がいい。そんな相手に隠すことなどあるだろうか?
わかっている。頭ではわかっていた。
けど、行動に移せない。
女々しいとわかっていても、それでも、カメリアを心配させたくなかった。
僕がどれだけ強いかを証明できればいいんだが、その結果、彼女に引かれたら本末転倒すぎる。
——やっぱり言うか。
少しでもバレた時のダメージを抑えるために、最後はその結論へと至った。
明日話そう。強くそう決心する。
——そのタイミングで、……コンコン、と部屋の扉がノックされた。
「はい」
むくりと上半身を起こして返事を返す。
返ってきた声は、
「マーリンさんですか? 少し、話がしたくて……」
「カメリア……?」
ずっと僕が考え続けていた相手だった。
急いでベッドからおりると、鍵をあけて扉を開く。
「こ、こんばんは……マーリンさん」
「や、やあ……カメリア。とりあえず、ここじゃなんだし中に入ってくれ」
「ありがとうございます……」
どこかぎこちない雰囲気で彼女を室内にいれる。
なんでかって? 彼女の格好が寝巻きだからだよ!
狼狽えるなってほうが無理がある。それでも必死に冷静なフリをするのは、男として、年上としてのプライドだ。
彼女をベッドに座らせて、僕は椅子に腰をおろした。
「どうしたの、こんな時間に。早く寝ないと明日に響くよ?」
「い、いえ! 明日は他の子が仕事を代わってくれるので平気です……」
「そ、そっか……」
き、気まずい!
かつてこれほどまでに気まずい雰囲気になったことがあるだろうか。
それだけ寝巻き姿のカメリアはインパクトがデカかった。
「それで……なにか用事? 用件とか?」
「あ……その……なんていうか、今日のマーリンさんは、途中から様子がおかしかったので……」
「様子……はは。カメリアは気付いてたんだ」
「は、はい。マーリンさんの表情はフードで隠れてますが、近くで見たらわかります。今日は、自室なのでバッチリ見えてますけどね」
「そう言われるとちょっと恥ずかしいな……。隠したほうがいい?」
「だ、ダメです! もったいない……あ」
思わず口走ったであろう彼女の言葉。それを聞いて、僕はさらに気恥ずかしさが増した。
片やカメリアは顔が真っ赤である。しきりに、「違うんです違うんです違うんですぅ!」と呟いている。
「お褒めにあずかり光栄だね。じゃあ、カメリアがダメっていうからこのままでいようか。ちょうど、カメリアに話したいこともあったしね」
「わ、私に話したいこと、ですか?」
「うん。ハブールの件でちょっと考え事をしててね。カメリアに話すべきか悩んでいたんだ」
「それで……様子が」
「そうだね。でも、最終的には話そうって結論になった。いずれは分かることだし、あまりキミには隠し事はしたくない。だから、どうか……落ち着いて僕の話を聞いてくれるかな?」
「は、はい……!」
なぜか覚悟の決まった顔でこちらを見つめるカメリア。
なにもそこまで重大な話じゃない……こともない。
最悪、街が魔物に占領されるかもしれないって話だし、できるかぎり明るい声で話そう。
そう決めて僕は口を開いた。
「カメリアがハブールの件を聞いたように、僕もちょっとした情報をギルドマスターから聞いていてね。それをカメリアに伝えておく。わりと大事な話だから、いまはまだ吹聴しないようにね」
こくこく、とゆっくりカメリアが頷いたので続ける。
「その話っていうのは……。ハブールを生み出す魔物がこのセニヨンの町近郊に現れたってことなんだ」
「魔物を生み出す……魔物!?」
「ああ。ギルドマスター曰くかなりの強敵らしい。だから、近々その魔物を撃退するための作戦がはじまる。僕もそれに参加するんだ。町へ近付くであろうハブールを退治するためにね」
「ま、マーリンさんまで!? どうして……」
「ハブールっていう魔物の数が多いんだ。ギルドマスターは大本を断ちにいかなきゃいけないし、そのあいだ、ハブールを撃退しないと困るだろ? だから、倒したこともある僕が戦うってわけ」
「倒した……?」
「うん。僕はその魔物くらいなら簡単に倒せる。びっくりした?」
「……は、はい……。お客さんの話だと、中堅冒険者くらいの実力がないと危険だって……」
「まあ、中堅くらいの実力はあるみたいだね、僕は。だから安心してほしい。必ずカメリアのもとに帰ってくると約束する。ね?」
手を伸ばして、心配そうな眼差しを向ける彼女の頬に手を添える。
やや朱色を帯びたカメリア。彼女は僕の手をとって頬をより強くこすりつけた。
なんだかイケナイことをしてる気分になる。
いかんいかん。彼女の子供らしくない姿のせいだ。欲情しないように必死に理性で煩悩を抑える。
だが、
「わかりました……。でも、その前に……」
なぜか、いきなりカメリアが服を脱いだ。上着が消えて、女性用の下着が露わになる。
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