第34話 ですよねぇ!

 ソフィア、エアリーと共に町の外へ出る。


 結局、僕たちが選んだ依頼は無難な魔物討伐になった。


 討伐系の依頼は、基本的に常時張り出されているので失敗もない。言わば町の周辺の警備みたいなものだ。


 リスクがなければ請けやすい。エアリーの体力を取り戻すための一歩には相応しいと言える。


 そんなわけで歩くこと二十分。


 みんなで森の中に入る。


 ここから先はいつ魔物に襲われてもおかしくない。


 周囲をきょろきょろと見渡しながら進む。


 ちなみに僕とエアリーが魔物を討伐する。ソフィアは薬草採取専門だ。


 一番前を僕が。真ん中にソフィアを挟み、最後尾をエアリーが守る。


 一応、ステータス的にも問題がない僕が前衛を張る。


 能力的には後衛タイプなんだけどね、僕。


 それでも復帰したばかりのエアリーよりはまあ務まるだろう。


 ステータスだけは無駄に高いし。


 そう言えば、とそこでふと思い出す。


 今の僕の強さは、この世界でいうどのくらいのものなのか、と。


 ≪封印≫スキルのおかげで歩く災害からは卒業できた。


 1万あったレベルも今や500。


 少し強い程度かもしれないね。


 今度、試しに誰かを鑑定してみよう。さすがにソフィアとエアリーを鑑定するのは気が引けるから、彼女たち以外のだれかをね。


「んー……! 久しぶりに外に出ると、それだけで感動するなあ……」


 背後でエアリーがのんびりと言う。


 真ん中に挟まったソフィアがクスクス笑った。


「お姉ちゃんはずっとベッドの上だったからね。懐かしい?」


「ええ。数年前のことを思い出す。あの頃は、冒険を楽しむ余裕なんてなかったけど……。今は、ソフィアもマーリン様もいるから楽しいわ」


「それはよかった。と言っても、戦闘に関して僕は素人もいいとこだけどね」


 やれることと言えばパンチとキックだけ。


 ……あ、武器くらい買っておけばよかった。これまで素手で魔物を倒してきたから、武器を買うっていう発想がなかった。


 なんでノイズと買い物にいった時、自分の分の武器を買わなかったんだ僕……。


 いくらなんでも油断がすぎる。


 まあ、封印さえ解除すれば大抵の敵には勝てると思う。


 彼女たちの前で封印を解きたくはないが、万が一のときはしょうがないね。


「ご謙遜を。ソフィアから聞きましたよ。ゴブリンを一撃で倒したらしいじゃないですか。原型も残らなかったとか」


「あ、あれは……足がたまたま滑ってね……」


「どう滑ってもゴブリンの頭部は消し飛ばせませんよ。マーリン様の実力です」


「あはは……ありがとう、エアリー」


 ぜんぜん嬉しくない賞賛だ。


「でも不思議ですね」


「不思議?」


「はい。ゴブリンの頭部を蹴りで消し飛ばすなんて……どんなステータスの高さなんでしょう」


「むぐっ!?」


 エアリーの疑問に喉がつっかえる。


 ぐさりぐさりと背後から二つの視線が刺さった。ソフィアまで興味を抱いたらしい。


 先ほどまでずっと足元や周囲を気にしていたくせに。


 これはまずい話題だと直感する。


 うろたえながらも僕は誤魔化した。


「ど、どうだろうね……。ほら、僕には≪聖属性魔法≫スキルがあるから。あれを使えばそれくらい簡単だよ!」


「普通ムリだと思いますけど……」


 ですよねぇ!


 わかってました。自分の能力値の異常性くらい。


 だが、素直に話して彼女たちに嫌われたくない。


 バクバクと早鐘を打つ心臓に痛みを感じながら、なんとか言い訳を考える。


 しかし、それより前にエアリーが小さく笑った。


「ふふ。まあ、そんなことはどうでもいいですね」


「……え?」


「恩人であるマーリン様のことを詮索するなんて無礼でした。ごめんなさい、マーリン様」


「あ……いや、当然の疑問だよ。いつか、それとなく話すかもしれない」


「では、その時を待ちましょう。たとえ何も知らずとも、私たちはずっとマーリン様を敬愛しますけどね」


「はは……」


 まるですべてを見透かすようなエアリーの台詞に、僕は複雑な気持ちを抱いた。


 親しい相手に隠し事をしているような……そんな言い知れぬ不安。


 けれど、僕の秘密はあまりにも大きすぎる。


 転生の件は墓場まで持っていくが、ステータスだけでも説明に困った。


 いつか……彼女たちに伝える時がくるのかな?


 必要に迫られないかぎりは、恐らく僕は口を閉ざすだろうが。




 青空を仰ぎ、ほんの少しだけ未来の景色を想像する。


 いつまでも一緒にいるとは限らないのに。




 ▼




 森の中を歩くこと三十分。


 気まずい話題も終わり、他愛ない雑談が続く中、ようやく目当ての獲物が姿を現した。


 茂みをかきわけ、僕たちの前に近付いてくる。


 全身緑色の体をしたそのバケモノは……僕となにかと縁がある≪ゴブリン≫だった。

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