第33話 3級危険種

 中から聞こえた声に、僕は頭上に≪?≫を浮かべた。


 ハブール? 蜘蛛? なにそれ。


 これまで一度も出会ったことのない魔物? の名前を知った。


 冒険者ギルドを騒がせるくらい厄介なのかな?


 そう思っていると、後ろから聞き覚えのある声が届いた。


「マーリン様~! お待たせしました」


「エアリーにソフィア。おはよう」


「おはようございます、マーリン様」


「おはようございます」


 時間どおりに彼女たちが現れた。


 意識をそちらに逸らす。


「なんだか冒険者ギルドで騒がしいようですね……。ここまで声が聞こえてきます」


「みたいだね。なんでもハブールっていう魔物がこの町の近くで発見されたとか」


「ハブール……!? 3級危険種じゃないですか」


「あれ? エアリーは知ってるのかい?」


「はい。魔物には、基本的にその強さを表したくらいが付けられます。6級、5級、4級、と。そして3級危険種は上から3番目に強い個体のこと。基本的にはランク3の冒険者が討伐を担当するレベルです」


「……えっと?」


 僕は首を傾げた。


 魔物に格のようなものがあるのはわかった。でも、冒険者ランクってなんだ?


「ご存知ありませんか? 冒険者登録した際に話を聞いてると思いますが……」


「……あ。マーリン様は登録のときに絡まれたから……」


「なるほど。そう言えば前にそんな話を聞きましたね。その場に私がいれば……」


 スッと、エアリーの瞳が細められる。


 剣呑な眼差しにびくりと肩が震えた。


「え、エアリー?」


「——おっと。すみません。少々殺気が。……それで、冒険者ランクに関してでしたよね。戻りましょうか」


 そう言った頃には、先ほどまでの鋭い視線はどこかへ消えていた。


 いつもどおりの笑みを浮かべている。


「冒険者ランクとは、先ほど説明した魔物のランクと対になるものですね。マーリン様を例に出すと、マーリン様は駆け出しなのでランクは6です。これはスライムやゴブリンと同じランクですね。もちろん、スライムとゴブリンが同格という扱いなだけで、どちらがより強いかは説明する必要もありません」


「要するに、同じランクや位でも実力差があるってわけか」


「はい。それで言うとハブール自身の能力はさほど高くありません。3級の中でも下のほうですね」


「その3級ってどれくらいの強さなの?」


「冒険者でいうランク3……中堅冒険者が戦うレベルの敵です。ハブールはソロで討伐しようとすると厄介ですが、聖属性魔法スキルの所有者か、状態異常を無効化できる者が仲間にいれば簡単に倒せます。ちなみに私はランク4でした。えっへん」


 胸を張るエアリー。


 即座にソフィアが突っ込んだ。


「ハブールより下ですね」


「そ、ソフィア? 酷いよ? お姉ちゃん哀しい……。ソフィアなんていまだに6級のくせに」


「イラッ」


 ボソッとエアリーも嫌味を言った。


 元気になってからというもの、姉妹、仲がよくて何よりだ。


 喧嘩するほどなんとやらってね。


「なるほどねぇ……。そういうことなら、仮にハブールが出ても僕がいるから平気だよ。たぶん、強さ的にも倒せそうだし」


 ゴブリンより遙かに強い程度なら問題ない。


 仮にゴブリンの百倍強くてもステータス的には僕の圧勝だ。


「ふふ。たしかにマーリン様がいれば心強いですね。ハブールが出たら、私も頑張って戦います! これでも、自分は引退しなかったらもっと上のランクだと自負してますから」


「へぇ……! そうなんだ。エアリーってすごい優秀なんだね」


「そ、それほどでもありません! たまたま有能なスキルを授かっただけです」


「どんなスキル?」


「それは、実戦でお見せしましょう。ハブールがいれば、ますます私は強くなれますし」


「……? じゃあ、そろそろ依頼を請けに行こうか。準備はいい?」


 エアリーの不敵な笑みが気になる。だが、それを知れるのは後のこと。


 いまは目先のことに集中しよう。


 踵を返し、冒険者ギルドの扉のほうへ向き直ると、後ろから彼女たちの返事が聞こえた。


「はい、問題ありません」


「平気ですよ」


「よし。今日はどんな依頼を請けようか……」


 そう言って、僕たちは冒険者ギルドへ入っていった。

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