第32話 一緒に冒険へ

「……え? エアリーが冒険者に?」


 彼女の言葉を聞いて、僕は首を傾げた。


「あれ? 言ってませんでしたっけ? マーリン様のおかげで体調も戻りました。これからはバシバシ冒険者として働く所存です! これでも元・冒険者ですから」


「…………えぇええええ————!?」


 そ、そうだったの!?


 そんなお淑やかな外見で冒険者!?


 もっとこう……お花屋さんとかが似合うのに……。


「なので、よかったらマーリン様も一緒にパーティーを組みませんか?」


「僕と?」


「はい。ソフィアに聞いたところ、マーリン様はかなりの腕前だとか。助けられておいて図々しいのは承知のうえですが、さすがにひとりだと不安で……」


「お姉ちゃん? 私もいますよ?」


「ソフィアは戦闘できないじゃない」


 ズバッと最愛の妹を両断する。


 ぐぬぬ、とソフィアは眉を下げた。


「た、たしかに私は戦闘に向いたスキルを持ってませんが……」


「スキルの問題じゃなくて、ソフィアには戦闘は向いてないのよ。あなたは優しいから」


「そうだね。ソフィアは優しいから無理そうだ」


「マーリン様まで!? ひ、酷いですっ」


 ソフィアが泣き真似をすると、エアリーも僕も同時に笑ってしまった。


 こういう日常も大好きである。


「……それで、さっきのエアリーの話だけど」


「パーティーの件ですか?」


「うん。僕でよければ力を貸すよ。ここで、はいさようなら、っていうのも寂しいからね」


「マーリン様! ありがとうございます! このご恩も含めて、将来は結婚しましょうね」


「あはは、面白い面白い」


 エアリーの話は軽くスルー。


 彼女のことが嫌いとか苦手とかじゃなくて、さすがに結婚は重すぎる。


 僕まだ二十だからね。それでいうと、エアリーも十八だ。前世の基準だと法的になんら問題はないが、倫理的にアウトだ。


 僕がね。


「もう……マーリン様のいけず。でも、そんなところも素敵……」


 ポッと頬を赤く染めるエアリー。


 僕もそういう前向きなところは大好きだけど、結婚は無理。


 そういうのはお互いがもっと成長してからね。


「お姉ちゃんは置いといて、二人が外に行くなら私も同行します。薬草に関しては私のほうが上ですからね」


「そう言えばソフィアは詳しかったね。この前もすごい採ってたし」


「一度見た薬草は忘れません。そういうスキルを持ってますから」


「へぇ」


 この世界には本当に色々なスキルがあるね。


 僕が持ってるそれもかなり珍しいが、中には薬草を見分けるためのスキルまであるのか。


 生活するうえでは便利そう。


「なら、私とマーリン様がソフィアの護衛をしつつ魔物討伐かな?」


「いきなり魔物と戦うつもりなの?」


 やや心配そうにソフィアが姉へ視線を向けた。


 エアリーはこくりと頷く。


「ええ。お金を稼ぐにはやっぱり魔物を狩るのが一番手っ取り早いわ。それに、私にはソフィアほどの知識もないから」


「でも……」


「平気だよソフィア。今後の生活のためにも、エアリーのことは僕が見ておく。聖属性魔法があれば大概のことはなんとかなるさ」


 いざって時はステータスを強化するなり僕が倒すなりすればいい。


 恐らくどんな相手がでてきても大丈夫だろう。最悪、封印スキルを解除してステータスを上げれば終わりだ。


 それでも勝てないような相手が出てきたら、その時は僕が二人を逃がす。


 全力で戦えばそれくらいの時間は稼げるはずだ。


「マーリン様……。そうですね。マーリン様がいてくれるなら、私も安心できます。よろしくお願いしますね」


「任されました。じゃあ、明日は冒険者ギルドの前で待ち合わせしようか」


「はい」


「わかりました」


 こうして僕とソフィアたちの予定が決まった。


 あまり戦闘経験はないし、僕もこの際に練習しておこうかな?


 いまのステータスでできることも確認しておきたいし。




 そう思いながらエアリーの料理を平らげる。




 ▼




 翌朝。


 準備を済ませた僕は、カメリアさんと楽しく談笑してから冒険者ギルドに向かった。


 すると、何やら冒険者ギルドの中から普段より騒がしい声が聞こえてくる。




「おい聞いたか? 最近、この町の近くでハブールが見つかったそうだぞ!」

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