第20話 これぞファンタジー

 ノイズと組んだ初めての冒険は、彼女の武器であるナイフが半ばからへし折れるという問題を除いて、大きな障害もなく終わった。


 倒した魔物を僕の≪インベントリ≫の中に突っ込んで彼女とともにセニヨンの街に戻る。

 先ほどまであれだけ泣いていた人間とは思えないほど上機嫌なノイズが先頭を歩き、鼻歌まじりに冒険者ギルドへと入った。


 いまだに何人かの女性冒険者が僕を見かけると、視線を向けてくる。


 そこに好意的な感情があるのはわかっているが、こんな人目のある場所で遠巻きに見られてもいい気分にはならない。


 あえて気付かないフリをして彼女たちの横を通り過ぎた。


 タイミングよく空いてる受付の列に並ぶと、ものの五分ほどで順番が回ってくる。


 元気よく依頼達成の報告をするノイズに合わせて、証拠になる魔物をインベントリの中から取り出して見せると、受付の女性はたいへん愛想よく依頼達成の印を紙の上に押してくれた。


 報酬を受け取りさっさと次の解体所へ向かう。


 そこでは、担当の男性に冒険者としての身分を示す≪冒険者カード≫を提出し、ノイズが始末した数匹の魔物の解体を依頼する。


 決して高くはないが恐ろしく安いわけでもない解体費用を取られながらも、つつがなく解体が終わり、その買い取り金額まで上乗せされてわりと悪くない報酬額になった。


 僕としては魔物をただ運搬しただけなので、「報酬はノイズが多めに取っていいよ」と言ったが、ノイズとしては武器を買ってもらうし、面倒な素材の運搬をしてくれただけでもかなり助かっているとのこと。


 結果的にちゃんと半々になった。本当に彼女はいい子だ。


 改めてノイズに感謝を告げると、餌を待ちきれない子犬のようにふさふさの尻尾を振るので、急いで冒険者ギルドを出る。


 踊るように前を走ったり止まったりを繰り返すノイズを眺めながら、二人で彼女の知る鍛冶屋へと足を運んだ。


 鍛冶屋があるのは商業区域なだけあって、南の通り。あまり人目につくとは思えぬ路地裏のそばに建てられていた。


 なんの遠慮もなくノイズが扉を開けると、ずらりと壁際に並んだ大量の武器が、僕らを出迎える。


 こういう如何にもファンタジーな光景を見るのは初めてなので、きらきらと光る武具を見て僕は思わずごくりと生唾を飲み込んだ。


 ノイズは慣れているのか、心地よい鼻歌を奏でながらきょろきょろと室内を見渡しつつ奥へと進む。


 武器の類に詳しくない僕は、大人しく彼女の背中を追った。




「ノイズの武器はなににする? やっぱり以前から使ってたナイフのほうがいいのかな?」


「うーん……悩みます。ナイフはたしかに手に馴染んでましたが、あくまで使ってた理由は安いからです。マーリンさんには悪いですが、壊れないよう武器を選ぶとなると、耐久性に優れたものが一番かもしれません」


「ふんふん。たしかにね」


 ごもっともな話だ。


 だとすると本格的に僕の出番はないね。僕からしたら、回りの武器はナイフ以外ぜんぶ耐久性の高そうな武器に見える。


 西洋の剣とか、日本にあった刀に比べて刃が厚い。厚いっていうか、ゴツイ。


 斬るより叩くことに秀でてるとかなんとか聞いた覚えがあるし、たぶん、それだけ長期間使えるよう設計されているのだろう。


 逆に日本の刀は、切れ味こそ高いが耐久性に難あり……だっけ? 使い手を選ぶ武器かもしれないね。


 他にも室内にはやたら太いハンマーやら槍やら杖やらが並んでいる。ハンマーや杖なんかは意外と頑丈そうだが……。


「これなんて凄く強そうだよ? ノイズの腕力でも簡単には壊れないだろうし」


 そう言ってそばに置いてあった大きなハンマーを指差す。けれど、それを見たノイズは明らかに表情を曇らせた。


「たしかにマーリンさんが言うように、耐久性は恐ろしく高いでしょうが……。ノイズの戦闘スタイルには合いませんね……。ビーストは基本的に速度重視の種族なので」


「あー……そう言えばノイズは足が速かったね。ナイフとは真逆だし、慣れるのにも時間がいるか」


 すっかり忘れていたが、神様のメッセージにもビーストはSTRとAGIが伸びやすい種族だと説明されていた。それを考慮するなら、ハンマーみたいに重過ぎる武器はNGか。


 しかし、速度を活かそうとすると耐久性に特化した武器が選べない。耐久性に特化した武器を選べば速度を活かせない……。


 うーん、難儀な問題だ。


 いっそ小さくても耐久性に優れた武器とかないのかな? このハンマーを小さくして厚くするとか。


 我ながら妙案が浮かんだ。それならノイズの生まれながらの才能を妨害せずに、鈍器だから殴りまくっても刃物より圧倒的に壊れにくい。いいね。




 すぐにノイズへ確認してみよう。そう思って彼女のほうへ視線を滑らせた。


 その時。


 ふと、壁のそばの棚に置いてあったひとつの武器が目に付く。




「あれは……手袋?」

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