第18話 これはダメなやつ
冒険者ギルドで出会ったビーストの少女ノイズ。僕は、彼女と一緒にパーティーを組むことになった。
適当に討伐依頼を選んで外に出る。
ノイズは、自身の身体能力を活かせる近接戦闘主体の冒険者らしい。
腰のベルトに下がる小太りのナイフを見ると、記憶にわずかに残る盗賊やら斥候って感じのスタイルだ。
服装も、女性にしては機能性を重視して薄着だし、正直、目のやり場に困る。
彼女はスタイルがいいからね。とくに腰から上、豊かに揺れる二つの脂肪の塊には、男性ならば誰もが目を奪われることだろう。
なるべく意識しないように視線を逸らして話題を振る。
「そう言えば、ノイズさんのサポートをしてほしいと言われましたが、僕はなにをすれば?」
「ノイズでいいですよお兄さん。敬語はいりません! たぶん、私のほうが年下だと思うので」
「……そうかな? じゃあお言葉に甘えて……。あ、僕のことはマーリンって呼んでね」
遅れながら自分の名前をまだ彼女に名乗っていなかったことを思い出す。
ようやくお互いに少しはお互いのことを知れて、ノイズはにっこりと屈託のない笑みを浮かべて頷いた。
「わかりました。……それで、マーリンさんの質問ですが、サポートと言っても助言や危なくなったら助けていただければそれでいいです。そういうスキルがあればもっといいですが……」
「ふむ……」
そういうスキル、か。
いわゆる≪補助系のスキル≫があったら嬉しいなってことかな?
残念ながら僕にその手のスキルはないが、無いなら無いでスキルを取得すればいい。僕にはそのための手段がある。
思えばボク以外の人間は、≪スキルリスト≫が使えないのかな?
これもまた、神様からの転生特典かもしれない。そう思いながらも僕は、目の前にスキルリストを表示する。
相変わらずスキルの数が多い。ひとつひとつ見ながら探していたら、欲しいスキルが見つかるまえに依頼が終わる。
ここは神様に祈ってみよう。どうか支援に向いたオススメのスキルを教えてください、と。
その願いは無事に聞き届けられた。
その証拠に、封印スキルを見つけた時と同じ現象が起きる。
スキルリストの画面が急速にスクロールされ、やがてぴたりと止まる。中心から向かって左に、緑色で印の付けられたスキル≪聖属性魔法≫が視界に映った。
これが神様の勧めるスキルらしい。
僕は神様にはかなり絶大な信頼を置いているので、迷わずスキルを取得。レベルを最大まで上げた。
『SPを220消費して≪聖属性魔法≫のLvを10にしました』
おや? 封印スキルはレベルが5までしかなかったのに、聖属性魔法スキルは10まである。
やっぱり、スキルごとに設定されてる上限が違うのか……。
にしても、封印が60だったのに対して聖属性魔法は220。だいぶSPを取られたな。まだまだ大量にあるけど。
自身のステータス画面を開き、スキル欄に≪聖属性魔法≫の文字を見つける。
続けて、僕は前を歩くノイズに素知らぬ顔で告げた。
「——聖属性魔法スキルならあるよ」
すると、ノイズの肩がびくりと震えて足が止まった。
まるでブリキ人形みたいにぎぎぎ、と首を回して彼女はこちらを見る。その瞳の中に、ありありと驚愕が浮かんでいた。
「……せ、聖属性魔法スキルを持っているんですか!?」
「う、うん。そうだけど……珍しいの?」
やっちまったか? と慌ててノイズに尋ねる。
彼女は即座にこくこくと首を縦に振った。
「かなり珍しいスキルですね。他の属性魔法よりやれることが多いって聞きました」
「へぇ……それは知らなかったな」
僕も大概無知だけど、彼女の説明もかなりアレだ。大雑把。
それでも自分の獲得したスキルがレアなのだと知ると、消費したSPは無駄ではなかったとホッとする。
その時。
「——ッ!?」
前方十メートルほど先に、茂みを越えて複数の狼が現れた。
こんな所にいるのは魔物くらいだろうし、ノイズも咄嗟に腰のナイフを抜いているので間違いない。
急に好戦的な雰囲気を醸しだしたノイズを補助するべく、僕は覚えたての聖属性魔法を発動する。
まるで手に取るように自分の力を理解した。
「————≪
きらきらと虹色の粒子がノイズの体を包む。一瞬、その光をノイズが警戒するも、害がないことがわかると元の表情に戻った。
ナイフを逆手に持ち、姿勢を低くして正面から地面を蹴る。強化されたと思われる脚力が、彼女を魔物のもとへ一瞬で運ぶ。
「————!!」
声にならない獣のような音を発し、型も技術もクソもないシンプルな斬撃を放つ。
狼は反射的に飛びのいて彼女の攻撃を避けるが、逃すまいと勢いをそのままに跳躍。追いつかれた狼の首元に、ざっくりと刃が重なった。
力のかぎり腕を振ると、かすかな抵抗とともに狼の首が落ちる。
一連の動作が終わり、地面に着地するノイズ。
鈍い音を立てて転がる生首を一瞥することもなく、獰猛な笑みを残りの魔物に向けて走り出した。
休憩も思考の組み立てもない。ただ殺す。彼女の表情にはそれしかないように見えた。
「うわあ……暴力ぅ……」
思わずそう呟いて魔物に同情する。
たしかにあんな様子じゃ、武器もよく壊すだろうし怪我も増える。
今しがた狼の渾身の反撃である一撃を喰らっても、彼女は防御どころか避ける素振りすらなくカウンターをぶち込んだ。喰らいながら反撃すれば手間も省けるよね? ってな感じ。
正直、ドン引きしてる。
そのままノイズと魔物による戦闘はものの五分ほどで終了した。
ガキィィッン!!
という、不吉な音を立てて。
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