第17話 パーティーを組んでください!
僕の後ろに、ぴこぴこと小刻みに犬耳? を揺らす青髪の少女が立っていた。
視線を受けて、彼女は再び口を開く。
「いきなり声をかけてすみませんっ。ノイズは、ノイズと申します。どうかノイズのお話を聞いてください!」
「……ノイズ?」
それって自虐的な意味? という言外の疑問を込めて首を傾げる。
だが、少女のほうはなにも反応がない。そこから導き出される答えは、それが彼女の名前っていうこと。
一瞬にして結論に達した。
「えっと……話ってなんですか?」
努めて冷静に返事を返すと、彼女はさらに激しく耳を揺らして叫ぶように言った。
「の、ノイズと一緒にパーティーを組んでください!」
「…………え?」
僕たちのあいだに、微妙な空気が流れる。
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ひとまず場所を変えて仕切り直す。
ややうるさい事と、アルコールの臭いを我慢しつつ、ノイズを連れて隣の酒場スペースにやってきた。
もちろん酒を頼んだりはしない。水の入ったコップを片手に、改めて彼女へ声をかける。
「……さっきの話だけど、どうして僕をパーティーに誘ったんですか? 記憶がたしかなら、お互いに初めて顔を合わせますよね」
そう言うと、ノイズはどこか落ち着かない様子で両手を胸の前で組む。
発せられた声は、ひどく小さく自信がなかった。
「そ、そのぉ……実は、一昨日のお兄さんのやりとりを偶然見てまして……」
「一昨日?」
一昨日なにかあったか?
人差し指を口元に当てて思い出してみる。すると、答えは簡単に出てきた。
「——あ。……あの冒険者登録のときの騒ぎですか」
「は、はいっ。あの時は黙って見てましたが、ベテラン冒険者を相手にクールな立ち回り……すごくかっこよかったです!」
「そ、そうですか……。ありがとうございます……」
興奮した様子で、キラキラとした目を向けてくるノイズ。しかし、僕はうまい言葉が返せなかった。
だって、一昨日の件って、あれ、僕はなにもしていない。突っ込んできたノルドという冒険者の攻撃を一度かわしただけだ。だというのに、賞賛されても困る。
バツが悪そうに再びコップに口をつける。冷えた水が喉を通り下っていくと、わずかに熱した思考が収まった。冷静に、恥ずかしさを我慢して続ける。
「でも、どちらにせよ話したこともない僕に、どうして声をかけようと? たまたまですか?」
「い、いえ。お兄さんと一緒に冒険したいと思ったから声をかけたんですっ。他の誰でもいいというわけではありません!」
「……その理由は?」
確信的な部分を突く。
ノイズの視線が斜め上へ向いた。気まずそうに、それでも彼女は口を開く。
「の、ノイズが…………なんて言えばいいのか……ひじょ~~~~に、その……金欠なのです……」
「…………金欠?」
拍子抜けというか意外な答えが返ってきて、目を点にしながらぱちくりと瞬きをする。
てっきりなにか邪な……それこそ僕の外見目当てに近付いてきたのかと思った。自意識過剰だったかと、さらに恥ずかしくなる。が、そのあいだもノイズは言葉を繋げていく。
「お恥ずかしいかぎりですが、ノイズは手加減が苦手です。ビーストは、他の種族に比べて戦闘に有利なステータスとスキルを持ってますが、そのせいで上手く力の加減ができず……。ここ半年、ずっと武器を壊したり怪我ばっかしたり……。おかげで、お、お金の消費が……!」
堪えきれずに彼女は泣いた。うわぁんという小さな悲鳴と嗚咽が漏れる。
内容すべてが気になったが、中でも僕は聞き馴染みのない単語に興味を持った。
ノイズが言った——≪ビースト≫という言葉。
恐らく種族名かなにかだろう。僕のステータス画面にも、種族≪ヒューマン≫って表記されてる。
彼女みたいな獣っぽい種族を、総じて≪ビースト≫って呼ぶのかな?
僕の疑問の答えは、いつものアレが解決してくれた。
『ビースト:この世界に生まれた人型種族のひとつ。様々な動物的特徴を持つ種族で、主にSTR、AGIの数値が伸びやすい。さらに優れた五感を持ち、近接攻撃や索敵に秀でたスキルを獲得しやすい。問題はその知能の低さ』
……ほほう。なかなかに戦闘民族な臭いがする。
しかし、最後の一文、≪知能が低い≫で全てが崩壊した。
そっか……お馬鹿さんなのか……なるほど。
どおりで手加減が苦手だし、怪我を承知で突っ込んじゃうわけだ。金欠の理由の大半が、ビースト全体が抱える問題っぽい。
だとしたら、僕に解決策を出すのは無理だ。僕だって自分の知能指数に自信がない。相談するなら頭がよさそうなソフィアとかのほうがいいよ。
内心でそう結論をつけると、それに反して彼女は勢いよく立ち上がって言った。すさまじい熱意がひしひしと表情から伝わってくる。
「——なので! 頭がよさそうで強そうなお兄さんに協力してほしいんですっ! どうか、お願いします! ノイズのサポートをしてください!!」
テーブルに頭突きするんかってくらいの力を込めて頭を下げた。
ギリギリテーブルには当たらなかったが、かなり腰が低い。ここで拒否したら、彼女は大泣きして発狂しそうだった。
「う、うーん……」
僕は悩む。
別に彼女とパーティーを組みたくないわけじゃない。だが、僕は相手のことをよく知らない。すべてを鵜呑みにするのもどうかと思うし、かと言って見捨てるのも後味が悪い。
結局、仮に変な騙され方をしててもいいか、という結論に達する。
「……わかりました。いいですよ。わざわざ声をかけてきたくらいだし、少しくらいならあなたの力になれるかもしれない。よろしく、ノイズさん」
「——お兄さん……!」
OKを出すと、ノイズの輝かんばかりの笑顔が上げられた。
瞳には純粋な感謝と尊敬、なにより好意が見える。この顔で僕を騙そうとしてるなら、それはそれで諦めるしかない。
どうしたって僕は、困ってる女の子を見捨てたりできないのだから。
野郎だったらそこまで心も痛くないんだけどね。男の子だもん。しょうがない。
そんな言い訳を心の中で零し、挨拶代わりに右手を差し出した。ノイズがその手を握り締め、ぶんぶん振り回す。
これで、僕らは正式なパーティーだ。
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