第15話 本気の手加減
しばし森の中に静寂が訪れた。
僕は一生懸命に自分のステータスを睨みつけながら、繰り返し≪封印≫スキルを発動する。
薄く紫色に光った鎖が四度、僕の体を縛り上げる。四度目にしてようやく、満足のいくステータス数値が表示された。
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名前:マーリン
性別:男性
種族:ヒューマン
年齢:20歳
Lv:500
HP:25000
MP:15000
STR:1500
VIT:1500
AGI:1500
INT:2500
LUK:2000
スキル SP:49960
≪異世界言語Lv-≫≪鑑定Lv-≫≪インベントリLv-≫
≪女神の加護Lv-≫≪封印Lv5≫
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元のレベルのおよそ二十分の一。
これで少しはこの世界でもまともな戦闘を行えると思う。そのために、周りを囲む木々を一体何本へし折ったことか……。
ちらりと左右へ視線を流すと、足元にはいくつものボロボロになった樹木が倒れている。
どれもこれもが、僕のステータス調整に使われたものだ。両手を合わせて最大限の謝罪をする。
だが、彼らの犠牲のおかげで僕はある程度の手加減を覚えられた。
あとは生き物に対してどの程度有効なのか調べるだけだ。
どこかにちょうどいい相手はいないものかと無意識に期待する。そこへ、タイミングよく茂みをかきわけて数体の魔物が現れた。
お互いの視線が交差する。
来訪者……見覚えのあるグリーンの体色をした小人——ゴブリンが、「ギャギャア!」と不気味な声を上げる。
後ろに並んだ残り二体の同族も、同じように低音の声を上げた。
「……ゴブリンか。ちょうどいいね」
相手にとって不足はない。
彼らならば、四重にかけた封印スキルの恩恵がどれほどのものか調べやすい。
昨日、ソフィアに聞いたかぎりでは、ゴブリンはこの世界でも指折りの弱者だ。
戦闘能力を持たないソフィアのような人間には驚異的でも、一般的な武器を持つ人間なら農夫や子供だって倒せるくらい弱いらしい。
それゆえに、そんなゴブリンを手加減したまま、原型を残したまま倒せれば十分だろう。より強い個体とも安全に戦える。
——そう思って、みすぼらしい棍棒を振りかざしながら走ってくるゴブリンたちを見つめる。
拳を握り、しかしあることを思い出した。
「……せっかくだし、≪鑑定≫スキルとやらを使ってみるか」
距離が縮まる。振り上げた棍棒をでたらめに振り回すゴブリンからバックステップで距離を離す。ついでに、心の中でスキルの名前を念じた。
——鑑定。
異世界転生の特典として、僕に与えられた初期スキルのひとつ。Lvはなし。調べたところ、どうやらこのスキルは文字どおりあらゆる万物を鑑定できるスキルだった。
それは、恐らく生き物も例外ではないだろう。
ジッと先頭に立ち、僕を追いかけてくるゴブリンを見る。少しして、目の前にあの半透明のウインドウが現れた。
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名前:ゴブリン
性別:雄
種族:魔物
Lv:6
HP:300
MP:180
STR:18
VIT:12
AGI:12
INT:6
LUK:6
スキル
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「これは…………」
なるほどゴブリンのステータスか。それにしてはだいぶ低いな……。
これがゴブリン自体の平均なのだとしたら、四重に重ねがけした僕の現在のステータスですら彼らにとっては脅威以外のなにものでもない。簡単に捻り潰せてしまう。
けど、検証の結果、あれ以上は封印スキルが発動しなかった。四回が限界らしい。
なので、グッと込めた力を極力ゼロに近付くほど抜いて……。僕は、足を止めるなり向かってくるゴブリンの腹部を殴った。
凄まじい速度でゴブリンが後方へ飛んでいく。後ろにあった木の中心に当たると、悲鳴のようなものが漏れて地面にぱたりと倒れる。
——どうだ? やったか? 原型は保ったぞ!?
と、やや興奮しながらゴブリンの体を凝視して、その体がしばらくぴくりともしないことを確認する。遅れて、心の中でホッと安堵の息が漏れた。
生き物を殺しておいて安心するとは残酷だ……と我ながら思うが、相手もこちらを殺して食料? にしようとしたのだ。殺されて喜ばれても文句は言えないだろう。逆の立場だったなら、笑われていたのは僕だったはず。
仲間がたった一撃でやられたことに動揺する残りの二匹。
しかし、彼らの中には退却するという考えはなかった。どこか切羽詰った様子で棍棒を握りしめると、そのまま突撃してくる。
当然、僕は黙ってやられるつもりはない。再び拳を握りしめ、二体のゴブリンを迎え打つ。
▼
戦闘はあっけなく終了した。
それぞれ一発ずつで仕留めたゴブリンを、スキル≪アイテムボックス≫の中に放り込んで一息つく。
気分はさながら、犯罪を犯してその証拠を隠そうとする犯人だ。掘った穴の中に、死体を投げ捨てるのってこんな気分なのかな……なんて少々センチメンタルになった。
けれど、本日の目的は遂行した。
額についた汗を拭い、ほどよい緊張感を振り払って帰路に着く。
あー……よかった。
これからも僕の異世界冒険ライフは続く。続けられる。
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