第2話 異世界生活スタート

 表示された自分の≪ステータス≫とやらを見て、僕は疑問と驚愕を抱いた。


「れ、レベル…………一万!?」


 名前もそうだが何より真っ先に目に付いたのは、その圧倒的なまでのレベルと能力値。少なくとも、辛うじて思い出せる記憶によると、いくらなんでもレベルが一万もあるのはおかしい。


 そもそも≪レベル≫という概念がいねん自体が地球にはなかった。ここが異世界だということを考慮して呑み込んではみたものの……今度はそのレベルがおかしいことに理解が追いつかない。


 それともなんだ? この異世界ではレベル一万がいわゆるレベル1に相当したりするのか? だとしたら、地球のゲームやファンタジー小説でいうところのインフレが加速する。


 ダメだ。平均がわからない以上はどう頑張っても考えるだけ無意味だ。かぶりを振ってレベル一万という数値から視線と意識を逸らす。次いで、頭のほうからじっくりと自らの情報を確認していく。


 名前はマーリン。妙に引っかかりを覚える名前だが、元の名前を覚えていないのでここは問題なし。


 次に性別。これは地球にいた頃の僕と同じだ。この異世界に連れてきた何者かが配慮してくれたのかな? 記憶のほうも配慮してくれればよかったのに……。


 さらに次は種族。ヒューマン。人間だ。ここも変わらない。……いや、わざわざヒューマンと付けるってことは、ヒューマン以外の種族がいるってことか? 深読みのしすぎだといいんだが……とにかく。ずらっと並んだ暴力的なまでの数値を一気に読み飛ばし、最後の最後でこれまた気になる単語を読みあげた。


「スキル……か」


 その言葉の意味はすんなり理解できた。おぼろげに思い出せる地球での記憶、その中にスキルが登場する作品……いわゆるアニメや漫画に関しての知識があった。そこから推察するに、ゲームなんかと同じで僕が使える特殊能力といったところかな。どうやって発動するのかはわからないが。


『スキル:生き物に与えられる神からの恩恵。意識するか声に出せば発動する。発動にはMPが消費される』


 …………なんか、三十センチほどのもうひとつのウインドウが前に出てきて説明してくれた。


 へぇ、この世界には神様って本当にいるんだ……。それって地球でいうところの神話? とかアホみたいなことを考えてから、


「————え? これって誰が返事してくれてるの!?」


 とびっくりする。


 慌ててウインドウから距離をとろうとするが、どれだけ後ろに下がろうともウインドウは目の前に張り付いたまま離れない。


 ある種の恐怖体験をした僕だが、ふと、先ほどの言葉から確信的なものを読み取る。


「……まさか、神様? 僕をこの世界に呼んだ神様が答えてくれてる……?」


 ウインドウからの返事はなかった。しかし僕がそれを無言の肯定とさえ捉えれば、不気味だった説明ウインドウ? の正体がなんとなく安堵できるものに変わる。悪魔が笑いながら書いてあるんだよ、と考えるよりずっとマシだった。


 深くは追求せず、うんうんと頷いてウインドウの謎から意識を逸らす。いまだ異世界に召喚? 転生? 憑依? した理由はわからず、僕自身がうまく納得できていないが、そばで神様が見守ってくれているのなら多少はこの世界で生活する気持ちも湧いてくる。


 ——え? 哀しくないのかって?


 それが不思議なことに、あまり悲壮感や焦りは感じない。時間が経つごとにこの状況に慣れ始めてる自分がいる。確証はないが、地球にいた頃の僕はあまり地球が好きではなかったのかもしれない。それか、十分に人生を謳歌したか。死んでるって可能性もあるしね。ここはポジティブに捉えておこう。


 やっと心に平穏が訪れた。いつの間にかウインドウも消えてるし、まずは目先のことから片付けて自らの境遇に悩むことにする。悩む暇すらなかったら、それはそれで幸せなことだと思うし。


 我ながら単純な思考回路で結論を出して立ち上がる。哀れな被害者ではなく、幸運な当選者だと思ってみると、思いのほかこれからの大冒険? にワクワクとした気持ちが溢れた。


 それは遊びにん気質からくるどうしようもなさか、はたまた夢か理想の果てに忘れていた探究心か。どちらにせよ、僕の新たな人生が始まる。


 すっかり凝り固まった背筋を伸ばしてから、ぐるりとその場を見渡す。


 うーん! 大自然って感じ。どこを見ても自然しかない。仮に異世界へ僕を呼んだなら、もっと人里に近い所に置いとかない? 普通。それともここは人里にかなり近い場所なのかな? だとしたら少し歩けば町に着くとか? 地図とかあれば楽だったなあ……まあいいか。


 こういう手探りも冒険の醍醐味。そう思っておくことにして、僕は改めて歩き始めた。


 目的地もなく地形にも疎いが、適当に歩いていればその内この森を抜けるだろう。細かいことはそれから考えても遅くない…………と思う。


 川を目印に下流へと下っていく。そう言えば飯とかどうしよう……と肝心なことを思い出した時。




「きゃぁああ————!!」


 近くで女性の悲鳴が聞こえてきた。

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